第3話:アリエルという“味方”との出会い
天界の朝は、どこか“透明”だった。
鐘の音も、空気の流れも、何もかもが静かで、澄んでいて。
それなのに、私の心だけがざわざわと揺れていた。
《アウリオン・セレスティア高位天使育成学院》。
神に選ばれし魂たちが通う、天界最高峰の学園。
──そこに、「ミス」で送り込まれた私。
(……居場所なんて、どこにもない気がする)
初登校の教室。扉を開けた瞬間、空気が変わった気がした。
見た目からして浮いているのは自覚してる。
地味で、羽も小さくて、制服も“節約リメイク”。
だから、最初から期待なんてしてなかった。
でも、やっぱり“視線”は痛い。
「……あれが神託の魂?」「うそでしょ」
聞こえてないふり、慣れてる。
私のことなんか、どうせみんな“異物”だって思ってる。
──だけど、そのときだった。
「ここ、いい? 隣、空いてる?」
ふと視線を向けると、銀色のショートボブに水色の瞳の女の子が、
にこっと笑って私の隣の席を指さしていた。
「えっ、あ、うん……いい、です」
「ありがとー。わたし、アリエル=スノーヴァ。よろしくね」
その笑顔は、すごく自然で、すごくやさしくて。
「……私、ユナ。ユリエルって、呼ばれてるけど……本当の名前は、ユナって言います」
小さな声でそう言った私に、彼女はこう返してくれた。
「うん。ユナちゃん、ね。素敵な名前」
(……なに、この人……やさしすぎる……)
授業中、私が羽をうまくたためずに机からはみ出してしまったとき。
アリエルは何も言わず、自分の羽根をきゅっとたたんでスペースを空けてくれた。
私が魔力測定で、数字が全然出なくて下を向いていたときも。
「うん、すごくきれいな波動だったよ」って、誰よりも早く拍手してくれた。
……なんでこんなに、自然に優しくできるんだろう。
授業の合間、私は思い切って聞いてみた。
「あの……どうして、私なんかに……普通に接してくれるの?」
アリエルは、ほんの少しだけ目を伏せて、それからこう言った。
「だって、ユナちゃん、がんばってるじゃん」
「……え?」
「笑わなくていいんだよ。無理しなくていい。……今は、ここにいるだけで、えらいんだから」
その言葉に、胸の奥が、じわっと熱くなった。
我慢していた涙が、ふいにこぼれた。
私は、今までずっと、
「もっと頑張らなきゃ」「ちゃんとできなきゃ」って、自分を責め続けてきた。
でも彼女は、“いまここにいるだけでえらい”って言ってくれた。
その一言で、私は救われた。
「ありがとう……アリエルちゃん……」
「ううん。困ったら、頼って? わたし、こう見えて意外と根性あるから」
そして彼女は、こっそり付け加えた。
「それに……本当のこと、ちゃんと見てる人はいるよ。絶対に」
そのとき、私は気づいた。
ここには、ほんの少しだけど、“味方”がいる。
──その存在が、私を少しだけ強くしてくれた。
アリエル=スノーヴァ。
この日から、彼女は私にとって“唯一安心できる親友”になった。