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誰にも推されなかった私が、天界で君の最推しになりました  作者: 白月 鎖
【第3章】私、ここにいていいの?
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第28話:ゼオの誘惑「ユナを救えるのは、君だけだ」

天界の夜は、冷たく澄んでいた。

静けさに包まれた学園の屋上。

風に揺れる羽音だけが、遠く遠く、空の奥へと消えていく。


その屋上の端に、ひとりの少年が立っていた。

ミルクティー色の髪をなびかせ、星空を見上げる——ナオ。


(……僕は、何を……思い出そうとしてるんだ)


胸の奥が疼く。

あの夢の記憶。焼けるような羽根の痛み。

泣いている“彼女”の声。


誰かを、

何かを、

自分自身すら、裏切ったような……そんな罪の感覚。


そのときだった。


「こんばんは。こんな時間に、星を見上げるとは……詩的だね」


柔らかな声と共に、夜の風にまぎれるように現れた影。


ゼオ=ヴァルトレイス。

仮面のような微笑をたたえたまま、ナオの隣に立つ。


ナオは一瞬、警戒したように目を細めた。

けれど、ゼオは敵意など一切見せず、ただ穏やかに続けた。


「君は、まだ苦しんでいる。夢に見ているのだろう?

——かつて、自分が“誰”だったのかを」


「……っ」


ナオの肩が、わずかに揺れる。

ゼオの言葉は、まるで心の奥をそのまま言い当てるようだった。


「君の魂は、深く記録されている。否定しても無駄だ。

君は……“ルシフェル”だよ」


ナオの表情が凍る。


「……」


「思い出しつつあるだろう?

——光の階梯の記憶。

神に仕え、神に抗い、そして“堕ちた”天使の名前を」


ナオは唇を噛みしめる。

頭の奥で、確かに何かがきしむように軋んでいた。

光。羽根。炎。そして——ユナの涙。


「……君が選んだあの子を守れるのは、もう“神”ではない」


ゼオの声が、静かに鋭くなる。


「神は、秩序を守ることが正義だと思っている。

だが、君はもう気づいているはずだ。

——ユナは、この天界の秩序の“外側”にいる。


ならば、彼女を守るには、秩序に従うわけにはいかない」


「……それでも……僕は……」


「違うんだ、ナオ。

君を、君自身を“救える”のは……君自身しかいない」


ゼオがそっと、手を差し出す。

その手には、黒く輝く印——“契約魔印”が刻まれていた。


「さあ、選ぶといい。

君の理想と、君の愛のために——

“堕ちる”という選択を」


ナオは、その手を見つめたまま、動けなかった。


それが“堕天”の始まりなのか、それとも“自由”の第一歩なのか。


その答えは、まだ闇の中だった。

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