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誰にも推されなかった私が、天界で君の最推しになりました  作者: 白月 鎖
【第3章】私、ここにいていいの?
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第25話:ナオの涙

その日の昼下がり、中庭にはやわらかな光が降り注いでいた。


天界の木々は季節を持たないけれど、今日の空気はどこか春のようにぬくもりを帯びていて。

けれど私の心は、まだ“審問”のざらつきを引きずったままだった。


(あれで終わった、はず……でも)


胸の奥には、まだ抜けきらない棘のようなものが残っている。

そんな私を、そっと呼ぶ声がした。


「……君、今ひとり?」


顔を上げると、そこにはナオが立っていた。

ミルクティー色の髪に、ふわりと風が吹く。

いつもと変わらない穏やかな声。


「よければ、少しだけ……一緒にいてもいいかな」


私はうなずき、並んでベンチに腰を下ろした。


しばらく沈黙が続いた。

それでも、気まずくはなかった。

静けさの中に、どこか懐かしい温度があったから。


「ねえ、ユナ……じゃなかった、ユリエル」

「……ユナで、いいよ」


小さく笑うと、彼もふっと目を細めた。


「……最近、変な夢をよく見るんだ」


夢? と問い返す前に、ナオは静かに語り始めた。


「……ひとりの女の子が出てくる。

 黒髪で、制服を着て、夜の街を歩いてる。

 コンビニの袋を持ってて、肩は少し落ちてて……でも、どこか誇り高くて……」


(それって……)


「いつも同じなんだ。その子は雨の中、歩道橋の上で立ち止まって、空を見上げる。

 何かを、言いかけて……でも、言葉にはならなくて……」


言葉を失った。

それは、私の“最後の日”そのものだった。


ナオは胸に手を当てる。


「その夢を見るたびに、胸が痛むんだ。息が、うまくできなくなるくらい。

 そして……どうしてか、君を見ると……その感覚が、強くなる」


彼の声は震えていた。

こんなにも静かな人が、感情を揺らしている。

そのことが、私の心をかき乱した。


「……もしかして、わたし……その子に、似てるの?」


「ううん、違う」


ナオは首を振った。


「似てるんじゃない。……君が、あの子なんだと思う」


沈黙。

私の心臓が、大きな音を立てた。


「理由はわからない。記憶もない。

 でも、魂が覚えてる……って言うのかな。

 そんなの、根拠にならないってわかってるけど」


彼は俯いて、そして呟いた。


「……会いたかったんだ、ずっと」


風が吹いた。

桜に似た天界の花びらが舞い落ちて、私たちの間に、静かな軌道を描いた。


その瞬間、私は気づいてしまった。

ナオの中に眠る“何か”が、私と同じ痛みを知っていること。


彼は——この天界において、“唯一無二の存在”かもしれない。

私と、同じように。


だけど——


「……ありがとう。ナオくん」


そう言った私の声が、ほんの少し、震えていた。


過去がどうであれ、今この瞬間だけは——


彼の優しさが、心にしみていた。


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