第21話:審問の序曲、地上出身が明るみに
──その通達は、突然だった。
《アウリオン・セレスティア高位天使育成学院》
朝の校内放送。光の粒を帯びた通信魔法が、全階層に響きわたった。
「本日、第五講堂にて臨時の《魂素記録審問会》が実施されます。対象者は……智天使・ユリエル=アマミヤ」
空気が凍った。
教室にいた全員が、わたしを見た。
ざわり、と羽音が揺れる。
(……なに……?)
「審問って、魂の出自を問われるやつでしょ?」
「智天使が? え、なんで?」「やっぱあの子、怪しいと思ってた……」
「つまり、“ニセモノの智天使”ってこと……?」
ささやきが、噂が、視線が、私の上に降り注ぐ。
背筋がすうっと冷たくなった。
足が、ふわふわしていた。
床に立ってる感覚すら曖昧になる。
──なにが起きてるの……?
「ユナ、こっち」
アリエルが、隣でそっと手を握ってくれた。
その手のぬくもりが、唯一の拠り所だった。
だけど、彼女の手も少し震えている。
アリエルの瞳にも、隠せない焦りがあった。
「……もしかして、誰かが記録を閲覧したのかも」
「記録……?」
「うん。魂の初期情報は《記録図書館》に保管されてるんだけど、最近ゼオ=ヴァルトレイス様がそこに出入りしてるって……」
──ゼオさん?
彼は、わたしにとって“優しい宰相”だった。
……でも、あのときの言葉が、耳の奥に蘇る。
「この世界は“記録された魂”で構成されている。……君は、それに属さない」
(……あれは、忠告だったの?)
呆然とする私を前に、四煌が次々に現れた。
「このタイミングか……」と、セラ・ルクシオンが静かに眉をひそめる。
「出自に何の関係がある。強いかどうかで測ればいい」と、カイ・ゼファーがぼそりと呟く。
「なんかさ〜、これ……あからさまな“動き”じゃない?」と、ルイン・クラウが目を細める。
「“記録の矛盾”か……これはミカエル様の出番かもね」と、レイ・エリクシオンがぼそりと呟いた。
そして、廊下の陰からナオがこちらを見ていた。
「……君は、間違ってなんかないよ」
その声は、ふと羽根が舞い降りるように、やさしく響いた。
──ああ、やっぱり。
「わたし……また、間違った場所に来ちゃったのかな」
ぽつりと、心の底から言葉がこぼれた。
胸が、軋むように痛んだ。
(“特別な魂”だなんて言われたけど……結局わたしは、“間違い”だったんだ)
(……この感覚、知ってる。地上でも、感じた)
“いないほうがいい”とされる空気。
“間違いだった”とされる立場。
でも、そのとき。
アリエルが、ぐっと私の手を握った。
「違うよ、ユナ。あなたが“間違い”だなんて、絶対に言わせない」
「……アリエル……」
「だって、あなたの言葉に救われた子たち、たくさんいるんだよ。私も……そう」
「……わたし、ちゃんと立ちます。
怖いけど……逃げたくない」
そう言った私に、アリエルが力強くうなずいた。
背後で、セラが一歩、前に出た。
「……審問だろうと、俺は、お前の隣に立つ」
その言葉に、カイ、ルイン、レイ、ナオ──全員が無言で視線を寄越してきた。
それだけで、胸が熱くなった。
でも、わたしの胸には、もう一つの“予感”があった。
(この審問は……きっと、ただの始まり)
この世界に隠された“何か”が、動き始めている。
その中心に、私の魂がいる。
──それだけは、もう、否定できなかった。