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誰にも推されなかった私が、天界で君の最推しになりました  作者: 白月 鎖
【第2章】推されるなんて聞いてない
16/22

第16話:四煌、それぞれの視線

──天界の午後は、空が白金に染まる。


まるで世界そのものが、光の中に浮かんでいるようで。

でも、私の心は少しだけ、沈んでいた。


“推しランキング13位”だとか、“魂共鳴が∞だ”とか、“四煌が護衛対象に”とか。

巻き起こる出来事に、私の気持ちはまったく追いついていなかった。


そんな私を、四煌の彼らは——それぞれに、呼び出した。


 



最初に声をかけてきたのは、熾天使の御曹司・セラ=ルクシオン。


「……お前、今日の午後。俺と訓練場、な?」


一方的で、強引で、でもなぜか逃げられない気圧がある。


言われるままに向かった訓練場では、セラが木剣を振るっていた。

陽の光を受けた赤金の髪が、燃え立つように輝いていた。


「剣、持ってみろ」


「えっ、私、そんなの……!」


「いいから。……お前、守られるだけじゃ、また泣くだろ」


その一言が、胸の奥に刺さった。


私は泣いていたっけ。

あの夜、部屋を襲われたあと。

何もできなかった自分が、また誰かを巻き込んだことに、打ちのめされて。


「……強くなれ。お前が弱いと、見てるこっちがムカつくんだよ」


それは、怒ってるわけじゃなかった。

むしろ、すごく……不器用な優しさだった。


(……この人、怒鳴るのに、優しい)


私が木剣を構えると、彼はにやっと笑った。


「そうだ。それでいい。泣くなよ、ユリエル」


 



次に話しかけてきたのは、氷の眼差しを持つ静かな天使、シグルス=ノアレイン。


「少し、来い」


図書館の裏手にある庭園。

誰もいないその場所で、彼は無言で私に花を差し出した。


「……え? これ、私に?」


「……落ちてた。……たぶん」


たぶん、なんて言葉、彼が言うとは思わなかった。


花は、小さな白い野花だった。私の地元にも似たようなのが咲いてた。

心が、きゅっとなる。


「ありがとう。……優しいんですね」


「違う。ただ、落ちてたから」


視線をそらしながら、彼はポケットに手を突っ込んだ。


でもその表情は、ほんの少しだけ——熱を帯びていた。


「……あの花、君の魔力波と似てた。だから……拾っただけだ」


(……わざわざ魔力波と照合したの!?)


その理由がむしろ想像以上に優しすぎて、私は何も言えなくなった。


 



三番目は、やっぱりこの人だった。


「お〜い! ユリエルちゃ〜ん! 今日の調理室、貸切だよ〜!」


ルイン=クラウ=エアリア。

天界の陽キャでありながら、どこか「孤独」を隠しているような不思議な人。


「なになに? 驚いた顔して〜、まさか料理できないとか?」


「で、できますよ! 一応……節約自炊してたので……!」


「マジ!? 実はさ〜、この前君が持ってた“厚揚げの煮浸し”のレシピ、真似したんだよね〜」


「ええっ、見てたんですか!?」


「うん、めっちゃ美味しそうだったから〜。でさ、うちの弟天使たちに作ってあげたら超ウケてさ!」


笑いながら話すその姿には、まったく壁がなかった。


けれど、ふいに顔を伏せて、こう呟いた。


「……天界って、豪華な料理ばっかだけどさ。たまに、普通の味が恋しくなるんだよね」


それはたぶん、彼の“居場所のなさ”から来た本音。


「私でよかったら、今度また作ります。よかったら……味見、してください」


「え、マジで? 推す!!」


……本気なのか軽口なのか、よくわからない。


でも、あたたかい。


 



最後に呼ばれたのは、白銀の光を纏うクールな天才、レイ=エリクシオン。


彼は天文塔の屋上に、私を連れて行った。


「君、ここに来るの、初めてだろ」


「はい……すごく、空が近いですね」


「“君”が光に近いから、かもな」


ぽつりと、そんなことを言う。


「え……?」


「この前のこと。魂共鳴の件。護衛対象になったこと。全部含めて、混乱してるんだろ」


私は、静かに頷いた。


「……まだ、わからないことだらけで。でも、ここにいてもいいのか、少しずつ、思えるようにはなってきました」


彼は、空を見上げた。


「迷いながらも進もうとする者は、強い。君の光は、君のままであっていい」


そして、静かにこう続けた。


「誰かの期待に応えようとするな。……君の選んだ答えを、俺は待ってるよ」


(……やさしい人だ)


それは、強くも優しくもあって、まるで“光”そのもののような眼差しだった。


 



——こうして。


私は、天界の“中心”にいる彼らの、それぞれの“本音”に触れた。


そのどれもが、私を特別扱いするようで、でもどこか、ちゃんと“私個人”として見てくれているようだった。


少しだけ、胸があたたかくなる。


でも、同時に不安も増えていく。


(……私は、この人たちの気持ちに、ちゃんと応えられるんだろうか)


まだ答えは出ない。


けれどこの日、確かに感じた。


彼らの視線の先に、私の“居場所”が映っていたことを——。

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