第14話:嫉妬の連鎖、ユナの部屋が襲撃される
夜の天界は静かで、美しい。
雲の上に広がる学院の寮区は、まるで星の中に浮かぶ神殿のようで、白銀の装飾が月明かりに照らされていた。
──けれど、その夜の静けさは、どこか異様だった。
私はひとり、自室のベッドに腰を下ろし、カップの紅茶を見つめていた。
(……また、ランキングが上がってた)
理由もわからないまま、“推しランキング”で10位以内に入っていた。
最初は笑い飛ばせた。でも最近は、教室の空気が少しずつ変わってきている。
すれ違う女子生徒の視線。
廊下でひそひそと聞こえる声。
──あれが、あの子?
──神託とか、ホントは嘘なんじゃないの?
(……怖いな)
アリエルや、四煌のみんなが気にかけてくれるのは嬉しい。
でも、それすらも「特別扱い」として誰かの怒りを買ってしまう。
私はただ、生きてるだけなのに。
ふと、窓の外から風の音がした。
カーテンがわずかに揺れて、私は立ち上がる。
……そのときだった。
バサッ!
玄関扉の下の隙間から、何かが滑り込むように放り込まれた。
「……え?」
拾い上げようとしたその瞬間、紙が──
パチ……ッ
小さく、音を立てて燃え始めた。
赤い火が、瞬く間に文字を炙り出す。
《消えろ、推し泥棒》
次の瞬間、火が爆ぜた。
「──っ!」
私は後ずさり、思わず転倒する。じゅっ、と焦げる匂い。火がカーテンに燃え移る寸前——
「《アクア・シェル》!」
ドアが開くと同時に、冷たい水が部屋を包んだ。
呪文とともに現れたのは、アリエルだった。
濡れた羽根も気にせず、彼女は私のそばへ駆け寄る。
「ユナ、大丈夫……!?」
「う、うん……でも、これ……」
焦げた紙片を見つめて、私は言葉を失った。
アリエルの顔がこわばる。
彼女の瞳が、深く静かに怒っていた。
「誰かが、こんなことを……」
部屋中に漂う、焦げた匂いと恐怖。
私は、ただ震える手で、彼女の袖をつかんだ。
「……また誰かを、巻き込んじゃった……」
ぽつりと漏らしたその言葉に、アリエルはきゅっと私の手を握り返した。
「違うよ。巻き込んだんじゃない。ユナは……がんばってるだけだよ」
優しい声だった。
でも私は、彼女のその優しさに応える言葉を、見つけられなかった。
──きっと、どこかで限界を超えていた。
「なんで……普通にしてるだけなのに、こんなこと……」
誰かの妬み。
誰かの怒り。
誰かの「気に入らない」。
ただ、それだけで──私は「消えろ」と言われる。
アリエルがそっと私を抱きしめてくれた。
「ユナは、悪くないよ。……私が、何度でも言ってあげる」
私の視界が、涙でにじんでいく。
その夜、私は初めて、自分の部屋で安心して眠ることができなかった。
扉の鍵をかけて、アリエルがそばで見守ってくれているにもかかわらず——
ずっと胸の奥で、“燃える紙の文字”が、消えないでいた。
──その夜から、私は変わらざるを得なかった。
誰かのために耐えるだけじゃ、守れないものがある。
なら、私自身も——少しだけ、強くならなきゃいけないのかもしれない。
(……でも、本当は、怖いよ)
そう思いながら、私は枕に顔を埋めた。
小さな泣き声が、天界の夜に溶けていった。




