表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰にも推されなかった私が、天界で君の最推しになりました  作者: 白月 鎖
【第2章】推されるなんて聞いてない
13/55

第13話:ゼオの忠告「君は記録に存在しない」

天界の午後は、どこか眠気を誘うほどに穏やかだった。


透き通るような空気に包まれた庭園を、私はひとり歩いていた。


頭の中は、まだ朝の「魂共鳴テスト」のことでいっぱいだった。


測定器が砕け散ったあの瞬間。

ナオの、あの手の震え。


教師たちのざわめき。

そして、四煌が次々と「護衛する」と言い出した異様な空気。


(……本当に、私、何か変なのかな)


歩いているうちに足が向いていたのは、学院の東庭——人気の少ない静かな場所。


風が吹き抜けるその小道の先に、ひとりの人物が立っていた。


――ゼオ=ヴァルトレイス。


天界評議会の高官にして、学院の影の監察官。

その姿は、白銀の装束に身を包み、どこか“神殿”のような気配をまとっていた。


「……おや。奇遇ですね、ユリエルさん」


「……ゼオ様?」


ゼオは、いつものように穏やかな微笑を浮かべながら近づいてきた。


「こんなところで独り歩きとは……護衛は、ついていないのですか?」


「えっ……あ、いえ……」


「……なるほど。孤独には、慣れているのですね」


その言い方があまりにも自然で、反論する隙もなかった。


「今日は、少しだけ……お話をしましょうか。あなたの“記録”について」


「記録……?」


ゼオは立ち止まり、私の目を見たまま、はっきりと告げた。


「あなたの魂は、天界の記録に存在していません」


心臓が、一瞬止まった気がした。


「……それって、どういう……」


「この世界は“記録された魂”だけで構成されています。輪廻も、転生も、昇格も……すべては“記録”をもとに認可される。ですが、あなたの魂には、どの経路にも記載がない」


「……でも、神様は……エリュ=ディオス様は、“神託に記された魂”だって……」


「そう。そう言いましたね」


ゼオは、ほんの少しだけ笑みを深めた。


「ならば問います。あなた自身は、“それ”を信じられますか?」


「……私は……」


「神託とは、記録の外にある“言い訳”でもあります。誰かが“意図的に改ざん”しない限り、あなたのような魂は、生まれない」


「っ……」


「けれど、あなたがここにいる。それは確かです。そして私は、それを“脅威”とは思いません」


ゼオは、そっと手を伸ばしてきた。


「……ですが。あなた自身が“己の存在”に疑問を持ったとき。そこから、すべては始まるのです」


「私は……ただ、普通に……生きたかっただけなのに……」


「その願いは、美しいものです。だからこそ、歪みやすい」


その瞬間、別の気配が風を裂いて現れた。


「ユリエル!」


アリエルだった。


水色の羽根を揺らしながら、私の前に立ちはだかるようにして、ゼオを見据える。


「ゼオ様……何をしているのですか」


「おや、怒らせてしまいましたか?」


「彼女に“記録がない”ことを告げるなんて……その意図はなんですか」


「意図など、ありません。ただ、“真実”を語ったまでです」


アリエルの声は少し震えていた。でもその目は、まっすぐだった。


「彼女は、ここにいる。ちゃんと、頑張って生きている。それだけで、十分です」


「……なるほど。あなたの視線は、実に誠実ですね」


ゼオは一歩下がると、静かに一礼した。


「それでは、またいずれ。あなたが“自分の立ち位置”を知りたくなったときに——お会いしましょう」


風が吹いたときには、もう彼の姿はなかった。


「ユナ……大丈夫?」


「……うん。でも……アリエルちゃん、ありがとう。来てくれて」


「怖かったでしょ……でもね、大丈夫。わたし、見てるから。ずっと」


その言葉に、胸がじんわりと温かくなった。


私には、まだわからない。


“記録されていない魂”の意味も、

“誰かの改ざん”の真実も。


でも、ここにいてくれる人たちが、少しずつ教えてくれる気がした。


──私は、ここにいてもいいんだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ