空にブルースターを
優しいお日様のようにたくさん笑うおばあちゃんとおじいちゃんが大好きだった。
私はそんな2人に何もできなかった。
私が生まれてまだまもない頃。
母が私を連れて来た時、誰よりも泣いて喜んでくれたのはおばあちゃんだったらしい。
そしておじいちゃんと一緒に名前を決めてくれた。
『名前は優ちゃんにしようか』
毎日ご近所さんたちにも自慢するくらい2人とも嬉しかったらしい。
『ゆうちゃんはとっても可愛いねえ』
あの大きな優しい手で頭を撫でてくれるのが大好きだった。
私が年少の頃。
物を取ろうとしたらお母さんの大事なお皿を割ってしまった時。
『おじいちゃんと一緒に謝りに行こうか』
私があまり怒られないように庇ってくれたおじいちゃん。
『ゆうちゃんは何にも悪くないからね』
私が悪いはずなのに守ってくれた。
小学5年生の頃。
2人は私が小さい時の話をしてくれた。
運動会で1位を取った話、発表会で楽器を演奏していた話。
私の知らない“私”の話を3人で笑いあった。
時には私の悩みも聞いてくれた。
『ゆうちゃんなら大丈夫』って何度も励まして貰って沢山元気づけてくれた。
1人で泣いている時はおじいちゃんが、『元気ださんと』って
笑わせてくれた。
中学1年生の頃。
おじいちゃんが認知症になった。
前より怒るようになり笑わなくなった。
『誰かがわしの財布を取った』
自分で物を無くしては騒いで、時には物に当たって。おばあちゃんにも当たるようになった。
おじいちゃんじゃないみたいだった。
『どうしてそんなこともできんのか!』
「もう辞めて!」
初めて怒鳴ってしまった。
「大っ嫌い!」
悲しそうな表情をしているのは今でも覚えている。でもその時は考える余裕も無かった。
本当は大好きなのに。
中学2年生の頃。
おじいちゃんが亡くなった。
家族に当たるし物忘れも酷かったけど
嫌いになったことは1度もなかった。
大切な家族だからこそすごく悲しかった。
でもおばあちゃんにとってはもっと悲しいと思う。
私が抱いているこの悲しみとは比べ物にならないくらい。
だって世界で1番大好きで大切な人だったのだから。
中学3年生の頃。
私は受験生になった。
この時期はとにかくストレスばかりでその上反抗期だった。
そんな中おばあちゃんも認知症になってしまった。けれどおばあちゃんと話している暇なんて無かったし勉強ばかり集中していた。
『ゆうちゃんおやつ作ったんだけど…』
「いらない」
乱暴に吐き捨てるように言った。
「甘いもの食べたら太るし、それに今忙しいから勝手に部屋入ってこないで」
『分かったわ』
おばあちゃんは小さく『頑張ってね』と呟いて
部屋から出ていった。
私は1度もおばあちゃんの顔を見なかった。
集中して勉強が終わった時、気がつけば時計は10時を指す所だった。
急いで明日の支度をする。
リビングに行こうとすると、
おばあちゃんの寝室だけ灯りが付いていることに気づいた。
「おばあちゃん?」
『ゆうちゃんかい』
何かを急いで片付け布団の中に押し込む様子が分かった。
『こんな遅くまで起きていると体に良くないよ』
「知ってるし」
心配してくれたっていうのにどこまでも素っ気ない自分が嫌いだった。
『おやすみ』と言われた言葉に返事もせず
黙って自室に向い、眠りについた。
いつもはアラームで目が覚める。
けれど今日はリビングからする音に目が覚めてしまった。
嫌な予感がした。
ベッドから飛び起きて一階に降りると人が倒れていた。
すぐにおばあちゃんだとわかった。
『おばあちゃん!』
先に降りていたお母さんが肩を揺らしていた。
応答はない。
「おばあちゃん?」
「ねえ、おばあちゃん!」
私はすぐに震える手で救急車を呼んだ。
お母さんと一緒に病院まで行き、おばあちゃんが目を覚ますまでいた。
数十分後…
腕には点滴が数本、口には酸素マスクをつけているおばあちゃんが
眠っていた。
あいにく最悪な状態には至らなかったらしい。
「おばあちゃん行ってくるね」
『どこに行くんだい?』
「受験会場に行くの」
『ゆうちゃんもそんな歳になったんだねえ』
『頑張っておいでね』
「うん』
あまり時間も無く、急いで行かなきゃいけなかった。
『あ、ゆうちゃん待って。これ渡さないと』
「私急いでるから後にして」
『そうかい、行ってらっしゃい』
顔を見なくてもその声色で落ち込んでいるのがわかった。
よーいはじめ___
試験が始まった。
今まで頑張ってきたから大丈夫。
思ったよりもすらすら解けた。
手応えがあった。
お母さんに連絡しよっと。
メッセージを開くとすでに1件通知が入っていた。
『優、今すぐ病院に来て』
文面からしていい事ではないと悟った。
病院まで全力で走った。
お母さんからのメッセージから30分後。
汗だくになりながらおばあちゃんの病室についた。
死亡が確認されました。
医師からのその言葉にお母さんは泣き崩れた。
私はその場に立ち尽くしてしまった。
おばあちゃんは静かに眠っていて、顔には白い布が被された。
「お母さん、嘘、だよね…」
『優…』
まだおばあちゃんに何もできていない。
「ただいま」って言ってないよ。
「合格できたよ」って言ってないよ。
神様はどこまで残酷なのだろう。
おばあちゃん。
ごめんね。
おばあちゃんの元に駆け寄り、冷たい体を抱きしめた。
翌日。
お母さんから1つの封筒を渡された。
おばあちゃんの病室に置いてあったそうだ。
中には小さなお守りと手紙が入ってあった。
「あ…」
『ゆうちゃん、受験頑張ってね。
おばあちゃんより。』
あの日おばあちゃんはこれを渡そうとしてたんだ。
それなのに私は…
私は…
涙が出て止まらなかった。
雲一つない青空の日。
今日は合格発表だった。
自分の番号を探した。
「203…203」
「お母さんあったよ!」
そこには確かにあった私の番号。
嬉しかった。
おばあちゃん私合格したよ。
私の横を風が吹き抜けていった。
ゆうちゃんおめでとう____。
おじいちゃんとおばあちゃんの声が聞こえたような気がした。
『優ー!行くわよ』
「うん!」
お母さんの元へ走って行った。
おばあちゃんのお守りを片手に。
『家族の大切さ』をテーマにずっと前から書いてみたかった作品です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
感想・アドバイス是非よろしくお願いします。