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第10話・アホかバカかどっちかにしいや!

「げほっ……むちゃしますね」

「それはこっちのセリフ。無関係な人を巻き込んでめちゃくちゃやりやがって」


 少しずつ煙がはれていくなか、魔術師が手に持っていたのは刃渡り20センチ程のナイフだった。なりふり構わずタケルを殺そうというのだろう。


 だけど()()()()()()()()。防御の型に優れた神楽流空手には、ナイフを持った相手への完璧な対処方法がある。魔法を使われるよりはずっと対処しやすいはず。


 舞季(まき)さんがナイフで刺されて亡くなったのを見ている私は、入門してすぐに“それ”の対処方法、つまり護身術を習った。


 私の言動を見ていたタケルは、なにかを察したように一緒に護身術から学び始めた。それは私たちにとって基礎中の基礎、だから今のタケルなら、余程の相手でないかぎり遅れをとることはない。 


(ぶっ倒すチャンスだぞ、タケル)

(大丈夫、まかせて!)


 アイコンタクトで会話をしていると、魔術師があと一歩まで近づいた。タケルの右手に力が集中しているのを感じとれる。


 しかしその時……時間稼ぎのつもりだったのか、おいもさんが余計なことを口にしてしまった。


「ったく、魔術師が魔法以外で人を殺そうとするなんて、プライド捨てたんか? デスショットの名が泣くで」

「おっと……そうでしたね。ふふふ、脳筋に近づくのはタブーでした」


 と、改めて呪文を唱え始めた魔術師。


「アホか、このバカいも!」

「なんやと? アホかバカかどっちかにしいや!」


 タケルの実力を知らないのだから仕方がないのかも知れないけど、あまりにタイミングが悪すぎる。


 でもまだ希望があった。……いや、希望が()()()()()


 それはレナにも聞こえていたのだろう。彼女はあえて、大声で魔術師に宣言をした。


「おっちゃん、次は確実に頭狙うにゃ」

「造作もない。貴方の射線上に立たなければよいだけです、こうやって少年のうしろに入れば当てることはできないでしょう」

「甘いな~。あーしの球筋がストレートだけだと思っているのかにゃ?」


 ――しかし。レナのこのひと言はフェイクだった。仲間だから、親友だからこそわかる《《勝機の訪れ》》。


「うおおおぉぉぉぉおおぉぉぉ……」


 レナに注意が向いた魔術師の側面に、一台の自転車が叫びとともに体当たりをブチかます。


 魔術師は、視覚の外からの強襲に数メートル跳ね飛ばされ、ズザザザザ……と、顔面から地面に突っ伏した。


「クミ、ナイス!」

「はあ、はぁ、はぁ……アカリんも姉子も体力バカすぎ」

「いや~、そんなにほめなくても」

「ほめてねぇわ! チャリで追いつけねぇっておかしいだろ」


 クミコは前輪が歪んだ自転車を蹴り飛ばすと、異世界人をビシッと指差し、『おっさん、よく聞け!』と息も()()えに吠えた。 


「第八回富士川空手道世界選手権大会準優勝、2024全日本ジュニア空手道アジア大会ベスト8、猫玉杯第17回少年世界空手道選手権大会第3位の、来年には全日本U21強化選手入り確実といわれるウチらのラブリータケちーになにしやがるんだこのクソボケ!」


「あの、クミコさん、はずかしい……です。いろいろと」


 同門の私ですら覚えてない大会の経歴がスラスラとでてくるクミコ。さすが推し活女子だ。


 そして当然のように、教室の方からもいろいろと聞こえてくる。


「キャー、なにあのおばさん」

「ねぇねぇ、ギャルだよギャル」

「え〜、ケバくない?」


「——今なんつったぁ?」


 瞬間、突き刺すような殺意の視線を向け、ミーハーとの格の違いを見せつけるクミコ。


「チャリの全力疾走でマスカラが落ちただけじゃい!」

「は~い、どうどう。クミ落ち着け~」

「あいつら、あとで呼びだし確定」

「お、おう……」


 その時、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。不審者が中学校に入り込んで爆発騒ぎを起こしているのだから通報が行くのは当然の話だ。


「時間切れですか……」


 鼻血を流しながら冷静を装う魔術師。『時間切れ』って、これだけめちゃくちゃやりながら警察沙汰にはなりたくないってことなのか?


「こら、逃げんな!」

「嬢ちゃん待ちや、こいつは逃がすしかないで」

「なんでよ」

「今は逃がしておけ。嬢ちゃんだけでなく、ギャル子やレナ子まで命が危険になるで」


 ……クミコとレナまで?


「とっとと行け、デスショット。そしてもう二度と来るな」

「そうは、いかないのですがねぇ……」


 結局私たちは理由(わけ)もわからず、魔術師が黒い転移門(ゲート)に入って行くのを見ているだけしかできなかった。


「おいもさん、なんで逃がすのよ」

「嬢ちゃんたち、奴を捕まえたあとどうするつもりやった?」

「そんなの、警察に渡すのがいいんじゃないの?」


 法治国家なんだから当たり前だと思う。昨日も今日も死人がでていないのが不思議なくらいだし。


「なあ、足元を見てみい。どう考えても屋上の焦げ跡と同じやろ。ここでヤツを捕まえて警察に渡したら、屋上での戦闘と合わせて嬢ちゃんのことがバレてまうで?」

「アホか、あいつをのさばらせておいたら、またタケちーが危険になっちまうだろ」

「……ギャル子、冷静になりや」


 タケル絡みでキレた時のクミコは、言葉使いが粗暴になっていつもの思慮深さがどこかに行ってしまう。


 ……それもまた魅力のひとつといえなくもないけど。


「もしワイらのことがバレてみぃ。死んだ人間を生きかえらせた石と、それに適応して生きかえった人間や。マスコミが大騒ぎして家族や学校にも迷惑をかけて、さらには世界中の研究機関から狙われるのがオチやで」


 ただでさえ【黄泉がえりJK】なんて話題になってしまっているのだから、真相が明るみに出たらプライベートなんてなくなるな。


「どこかの国に拉致されて、その後は『人類の為』って名目でバラバラ分解やな。もちろん口封じのためにギャル子もレナ子も一緒にバラされて家畜のエサや」

「そんなの許されるわけ……」


「”世界中の“言うとるやろ。日本人の道理や道徳が通用せぇへん国がどれだけあると思うとんのや」


「そうか……そうだね。アカリん、ごめん」

「あ~、いやいや、私もわかってなかったから大丈夫」


 マジか〜、私の立場ってそんなに危ういものだったとは。……これは少し自重しなきゃ。

 

「ワイらはドロンするが、ショタ坊はこのまま残って警察に説明してくれ。本当のこと言うても信じてもらえへんから、適当に『知らない』とか『わからない』で大丈夫や。あとな、ワイのことだけは絶対に秘密やで。嬢ちゃん……アカリの命にかかわることやからな」


「アカリちゃんの……」

「ああ、くれぐれも言葉は選んでな」

「僕にできるかな」

「できるできないやない、やるんや!」

「う……うす!」


「あ、そうそう、取り巻きの嬢ちゃんたちには顔見られてるから、ショタ坊から口止めしておいてくれへんか? 今いった通り、アカリたちがここにいるってわかるとかなりマズいんや」


 どうやら私たちは、認識阻害(スタンド・ジャマー)の魔法をおいもさんが使うより前にミーハー女子たちに認識されてしまったらしい。一度認識された相手には、この魔法は効果がないそうだ。


「アカリん、姉子、ウチらもさっさと逃げないとヤバイよ」

「タケル、ここ任せるね。あとでちゃんと話すから家にきて」


 ……とはいったものの、私が一度死んでるなんて話はショックでかいだろうな。

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