ep.1 青年と青竜
目の前に見えている世界が夢であるなら、どんなに良かっただろう。
今見ているのが夢で、眠ると本当の素晴らしい世界に帰ることができる。
いやでも、もう一度寝たら結局辛いのか。
「ほんならもう!!腹括るしかないやろがぁ!!」
というか、帰るも何もこの世界しか知らないのだが。
《 ep1. 青年と青竜 》
青い瞳の巨大な竜は、この小さな小さな過疎村の主だ。
岩山で彼に対峙しているのは、黒髪つり目の青年A。
竜の討伐に来たというわりには軽装で武器も短剣1本だが、どこか堂々とした立ち居振る舞いをしている。
彼はこの広大なリストニア王国を旅をしながら、魔物を狩って生計を立てている。
俗にハンターと呼ばれる彼らは、チームを組む者もいれば一人きりでは魔物討伐に向かう者もいるのだ。
「なんでこんなでっかいトカゲが棲みついとんねん!あんのババア、騙しやがったな?!」
リストニア王国魔術協会認定ババア、もとい仲介業者のノンノばぁさんは街の魔術師達に仕事を流すことを生業としている。
依頼は簡単なC級~超難度のSS級まで、幅広い。
協会認定の仲介業者は様々だがSS級まで扱う所はかなり少なく、高額な報酬を求めるハンターには人気なのだ。
「絶対報酬ガッポリもうて、美味い飯ガッツリ食うて、それからそれからーーー」
「何を独りごと言ってんですか、アルマ様。」
長い足から繰り出される蹴り技は、ドン、と重低音を響かせて竜の右頬にクリティカルヒット。
美しい銀髪のポニーテールが良く似合う、ハスキーボイスの美青年Bだ。
シャラリと靡くネックレスには高級そうな金細工と宝石。
とても足を使っての体術などできそうにない細身で宙を舞い、軽々と着地して見せた。
だが巨大な竜は怯んだのみ、まだまだ体勢を建て直して襲ってくる。
「ルイス!来てくれたんか。」
「アレクに聞いたらここだって言うから。またあの婆さんの依頼受けましたね?全く、毎度毎度。」
彼の名はルイス=バーン、王国で最も位の高い騎士である。
腰にぶら下げたサーベルを使うことはほぼなく、その長く端正な両足で獲物を蹴りあげることの方が多い。
騎士なのに足技使いなのは些か引っかかる所だが、幼少の頃より馬に乗るのは苦手で地に足を付けていた方が落ち着くのだそうだ。
「お人好しも大概にしてください、アルマ様。屋敷に帰りますよ。大賢者である貴方が受けるような依頼ではありません。」
アルマ=ロールズ。
その名を知らぬ者は、恐らくこの王国では赤子を除いていないだろう。
齢16にして魔王を打ち倒し勇者と呼ばれた後、20歳の時国王から“大賢者”の称号を賜ったリストニア王国最強と謳われる男。
「しゃーないやろ、過疎村ていうてもまだジジイとババアが住んどんねん。主がこんなでかいトカゲとは思わんかったけどな。」
「トカゲって、どっからどう見ても竜ですけど。まぁ、だからSSランクの依頼なんですね。」
悠長に話し込んでいる時間はない。
アルマの右脇から竜が突進してきた次の瞬間、鼓膜が破れそうになるくらいの大きな破裂音。
硬い鱗がビッシリの脳天に、ルイスの踵が入っていた。
「アルマ様に触れるな、殺すぞ。」
「いやもう死んどる、死んどるから。いっつもやりすぎやねん、お前は。」
今日はでっかい竜鍋パーティーで決まり。
つづく
お読み頂きありがとうございます。
初めて書いた作品です。
拙く短いですが、少しずつ続けていければと思います。