これが普通なのです
人に与える影響は、判らないのです
「ああ、なんか、全て謎は解けた、って言いたくなったよ」
「いきなりどうしたの?咲姫ちゃん?」
結果発表を見た後、皆で部室に行くと、辿り着くなり咲姫ちゃんが口を開きました。
「いやね、リリシアさんにしろ、マリエラ様にしろ、貴女が絡まないと、凄く真面な方じゃない?それが春香といると、どうしてああなるのか、理由がわかった気がしたの、さっきので」
「テスト結果でってこと?」
「違うわよ、もうっ。勉強できる、できないじゃないの」
「じゃぁ、なに?」
「さっきの会話よ、会話」
「会話?なにか話したっけ?」
「駄目だこの子。全然自覚がない天然さんのままだ」
「うん?私なんか変な事言った?」
「変な事ではありません。大変感動いたしました。あんなに素晴らしいお考えをお持ちなんて、流石はフェリノア様です」
「あの~、アマンダさん?私誰かに、そんな素晴らしい考えなんて、話した覚えはないんだけど?」
「ルイネス様と話されたではないですか、時間の長さと、貴族の責務について」
「あ~あれ、恥ずかしいな。ルイネス様相手に、あんな事言っちゃって。怒られなかったから、良かったものの、普通なら不敬罪ものだよね。あ~良かった」
「そんな認識なんだね、春香」
「え、だって昔、私が聞きかじった普通の事だよね?」
「こっちの世界では、普通じゃないみたいなのよね。そんな考えで地方領主が政治をしてたら、もっと庶民が生活しやすい世の中になってるって。そう思わない?そこの誰かさん」
「そ、そうかな?でも、この前お会いした、陛下御夫妻は凄い真面だったよ?」
「そりゃあ、国を代表する方だもの。あの方々まで、可笑しかったら、国はとうに潰れてるわよ」
「そうだよね。だからこれ位普通なのでは?」
「あのね、春香さんや、いち庶民が、国王陛下と同じ視線で、物事を考えるのが普通かどうか、考えたらわかるでしょ」
「べつに、国王様と同じ視線という訳じゃぁ~」
「いいえ、フェリノア様、私達はあの場で聞いておりましたが、この国全ての者に、聞かせてあげたいお言葉だと思いましたわ」
「はい?」
「アナスタシア様もそう思われたのですか?私もです。平民は自分達と国の為、一生懸命働きます。それは普通な事なのですが、その普通な事に意味があると。
貴族もです。民より税を受け取り国へと納め、残りで自領を経営する、ただ普通に行われるそこにも、意味があると。
その意味を考えずに過ごす事が普通の者にしてみれば、凄い言葉なのですよ。それも、自らを蔑んでいる庶民からすれば、時は皆に平等だと。その言葉には感動させられました」
「そ、そうかな?そんなに持ち上げられるほどの事では・・・」
「最初に言ったでしょう、春香。なぜリリシアさんやマリエラ様があなたを慕うのか。偶になのでしょうが、そんな言葉を、幼い時より聞かされていたら、狂信者みたいになっても仕方ないよ」
「いやいや、其処まで大それたことじゃあ~ないよ、咲姫ちゃん」
「でも、あの掲示板の前にいた生徒、1クラスも2クラスも、分け隔てなく聞き入ってたよ、春香」
「そうなの?大それたことしちゃったかな~。今後はもっと気を配らないといけないのかな~」
「「「フェリノア様は、今のままで大丈夫です」」」
「そうかな?」
「「「はい」」」
何故か皆さんより、尊敬の様な目線を向けられながらの、少々居心地の悪い時間を過ごすのでした。
その後、別の場所では、
「父上聞いて下さい。今日、テストの成績発表の後、彼女と話をしたのですが、また私の未熟さ加減が判りましたよ。まだまだ頑張らねばなりません」
「まあ、フェリちゃんとお話ししたの?どんな事?最初から詳しく聞かせて頂戴、ルイネス」
「レーネ、偉く話に食い気味だな」
「それは、あのフェリちゃんのお話しですもの。今度はどんなことを話したのか、気になりますわ。そういう貴方もでしょう?」
「まあ、そうなのだがな。それで、ルイネス。彼女とどんな話しをしたのかな?」
「今回彼女は、テスト前の期間、仲の良い女子達を集め、勉強会を開き、教えてあげていたのですが、その成果か、皆成績が上がっていたのです。キャロライン嬢はルイスを抜きましたし、アナスタシア嬢すら。十位以内に入ったのです」
「まあ、凄い。公爵家の令嬢の方々の成績は、報告が上がて来ていますが、前回は散々でしたものね。それが十位以内なんて凄いわ。それも彼女自身はまた一位なのでしょう。素晴らしいわ」
「はい。その事も凄いのですが、やはり彼女は人間性が凄いのだと実感させられました」
「で、どんな所でそう感じたの、ルイネス?早く続きを」
「はい、母上。で、試験結果を見ていたら、勉強に対する裏技、と言うかコツがあるそうなのです。それを彼女の友人であるカトリーナ嬢がついつい口にしてしまい、ロイスがそんなものが有るなら、私やヨシュアに劣る自分に教えてくれと言い出したのです」
「それで?ロイスにはなんと彼女は答えたんだい?」
「その答えまでは普通の会話でしたが、ロイスには、彼自身はなんらお二人に劣らない頭の良さをお持ちです、ただお二人が勉強に割かれている時間をも剣の修行に当てているからだと、それを改めれば、すぐにお二人に並べますよ、と申していました」
「うむ、なかなかに鋭いな。私もお前の友人として、よく見ているが彼女と同じ見解だ」
「そんなのはどうでもいいのです。さあ、早くルイネスを唸らせた言葉を聞かせなさい」
「母上、唸らせたって、ご存じなのですか?」
「いえ、母の勘よ。それより早く」
「で、その後、ロイスが言ったのです。剣の時間は減らしたくないと、それに対し皆の前で彼女はこう言ったのです、ならば諦めてください、と。持っている時間は、全ての人間が平等なのですから、と」
「ほう」
「まあ」
「なので、そこで私が言ってしまったのです。だが貴族優位だな、と。
そうしたら、彼女はこう言ったんです。確かに貴族の方が、自分の為の時間を自由に作る事ができる、と。その間平民は働かねば食べていけないのだからと」
「それの何処が、凄い言葉なのだ?」
「貴女、まだお話は終わっておりません、そうですよね、ルイネス」
「はい、彼女曰く、それは同じ長さでも質が違う、と。平民は同じ時間を使い労働という役割を全うし、自らと国を養うのだ、と。そして養われる国の貴族は責任として、その自由と言った時間を、その間、働いてくれる者達を、より良く導くために使わなくてはならないのだと」
「ほう、そのような事を」
「私は王子として、王子だから良い成績を残さないといけないと思っていました。
ですが、違うのですね。王子としての威厳や対面の為でなく、民を導く為に勉強して行かないと行けなかったのだと、本質が違うのだと教えてもらいました。それを心に止めて時間を使えば、より有意義に時間を過ごせると」
「ああ、その時の彼女の話している言葉を、彼女の口から、そのまま聞きたかったわ。出来れば、フェリちゃん名言集を作って貴族に配りたいわ」
「だな。ルイネス、彼女の言葉は、お前が思っている以上に重いのだぞ」
「父上、それはどういう事でしょう」
「彼女はそれを心に刻み、五歳の頃から、この国の為、身を犠牲にして嘆きの森に挑み、民を救ってきた。その言葉を実践して、な。
ただ知っている者の言葉と、実践した者が言う言葉の重みは違う、そう言いう事だ。
それがお前たちが過ごして来た時間と、彼女が過ごした同じ長さの時間だと、な」
「情けないです。本質を教えられたばかりなのに、彼女の本質までは見ていないとは」
「だが、気付けたのだ。この前から、お前は変わった。だからこれからも、それ以上を目指せばいいのだ。期待しているぞ」
「ルイネス、フェリちゃんを遊びに連れて来なさい」
「理由がなければ、出来ませんよ、母上。それに夏季休暇に、彼女の領に皆で行く事になってますし」
「なに、そのような事に?」
「え、ルイネス、そこを詳しく」
などという、王族とは思えない会話を、食事をしながら話しているのでした。
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