入寮です
登場人物二人の紹介を兼ねたら、長くなってしまいました。
「お嬢様、学園に着きましたよ」
「あっ、着いたのね。リリありがとう」
「今、学園の門を通りすぎた所なので、もうすぐ寮に着くと思います」
地元の領を出て、予定通りの日数で到着出来たので、今日は入学式の数日前です。
小さい頃から私に仕えると言ってきかなかった村の子のリリシアは、とうとう家族の反対を押し切って、我が家が子爵になったのを皮切りに私専属の侍女になりました。といっても貧乏子爵に専属の侍女など雇えるはずもなく、お友達兼お手伝いといった処を、お小遣い程度でやってもらっています。
私と同い年のリリは村では立派な働き手なので、彼女の両親に申し訳なく、直接会って話をしたんですが、大変でした。
「アレン村長、御免なさいね。あの位の給金しか渡せないで。幾ら娘の方から言いだした我儘といっても許してもらえないでしょうね」
「いえいえ、お嬢。金額なんかはどうでもいいんです。実際村の年頃の女の子は皆、同じことを言ってますから。ただそそっかしいうちの娘が、役立つどころかご迷惑をお掛けしないかと、それが心配で」
「そばにいて、話し相手になってくれているだけでも、大変助かってます」
「そう言っていただけると恐縮です。なんせお嬢が学園に行くと五年間、たまにしか会えないと聞いた途端、村の子供達を押しのけての押しかけ侍女ですからね。余程離れたくないんでしょうが、我が娘ながら呆れます」
「優しくて明るい、いい子ですよリリシアは。良ければ本人の希望通り我が家に預けて頂けると嬉しいのですが、よろしいでしょうか?」
「こちらの方こそ、娘をよろしくお願いします」
その会話を珍しく大人しく聞いていたリリは、その後はもうニコニコ笑顔で、ガッツポーズを掲げると、
「これでお嬢様とずっと一緒に居られます」
と大声で叫び、早速拳骨を貰っていました。
リリは小さい頃から一緒だったので、私がする事に結構寛容なので、他の人だとガミガミ怒られそうなことも、黙って見逃してくれるので、気持ち的にも助かってます。ただかなり呆れた顔をされることもありますが、それがやりすぎの目安になるので、言った通り本当に私の良い支えです。
そんなことを横に居るリリを見ながら思い出し考えていると、とうとう学園の裏手の離れた場所に建っている、三階建ての大きい建物が二棟並ぶ場所に到着しました。
事前に聞いたところによると、右が女子寮という事だったので、馬車はそちらの前で止めてもらい、ここまで送って頂いた辺境伯様紹介の馬車ごとお借りし、お世話になった御者様にお礼を述べ、ほんの気持ちの小袋を渡します。
「長い期間、遠い所までお送りいただきありがとう御座いました。こちら些少では御座いますがお納めください」
「とんでもない。辺境伯様より既に費用は頂いでおります。その上こんな可愛らしいお嬢様方をお送り出来る楽しい旅でしたのでいただけません」
「そう言わずにお受け取り下さい。ご存じの通り私は貧乏貴族の娘、本当に帰りの宿で飲み物を購入出来る位しかお渡しできません。なので、遠慮なくお受け取り下さい」
「なれば、そのお心遣い嬉しく頂戴いたします」
「はい、ありがとう御座います。お帰りもお気をつけて」
「お嬢様がこちらで健やかに過ごせますようお祈り申し上げます。それとお休みでご実家に帰られる際は、いつでもご連絡ください。喜んで往復路の送迎をさせて頂きます」
「その時は、またよろしくお願いしますね」
「はい、では失礼します」
その会話を皮切りに馬車は帰路につきました。私は正面に見える玄関の扉の前に立つと、すかさずリリが扉を開けてくれます。
「どうぞ、お嬢様」
「ありがとうリリ」
お礼を言って中に入ると、目の前にメイド服を着た美人な方が立っておられました。その若いのに貫禄のある佇まいから、礼儀作法をしっかりと学んであるのが垣間見えます。間違ってもうちのリリでは出来ませんね。それに、何故かお顔に見覚えがありそうで、なのですかさずスカートの裾を摘み上げ、少し頭を下げ、目線を相手の足元にむけると、挨拶を始めます。
「お初にお目にかかります。辺境伯家の寄り子をさせて頂いている、アレイシス子爵家が三女、フェリノア・アレイシスと申します。これから卒業までの間、こちらでお世話になる事になりましたので、侍女のリリシア共々、どうぞよろしくお願いします」
「ご丁寧なご挨拶ありがとう御座います。私は女子寮の寮館長を仰せつかったエミリア・ルーズベルトと申します。宜しければエミリアとお呼び下さい」
「ありがとう御座いますエミリア様。私の事もフェリノアかフェリとお好きな方でお呼び下さると嬉しいです。」
そう答えながら、背中に冷たい汗が流れます。
(なんで、なんでこの方が?名前を聞いて思い出しました。この方はルイネス王子ルートで登場する王妃様付きの侍女のお一人だった筈)
「フェリ様ですね、畏まりました。これからはそう呼ばせていただきます。それにしても・・・聞いていたお噂と随分違うので驚きました」
「お噂、ですか?」
「はい、鍬を手に持ち畑を耕し、野原を駆けまわる野生児だと。そのお噂が本当ならお世話するのが大変そうだと、勝手に想像しておりましたが、杞憂も甚だしいですね。こんなしっかりしたご令嬢なのですから」
「いえいえ、初対面の方々に失礼をしない様にするのが精一杯です。なのでこれからは色々とご指導頂けると幸いに存じます。で、ご無礼を承知でお伺いしても宜しいでしょうか?」
「何でしょうか?お応えできるものでしたら、失礼などと考えず質問して頂いて結構ですよ。これからこの寮で一緒に生活するのですから、どうぞご遠慮なさらずお尋ねください」
「では、失礼して。エミリア様はもしかして、西の伯爵家次女のエミリア・ルーズベルト様でしょうか?」
「え、どうしてご存じなのですか?私はそれ程有名な令嬢という訳ではありませんのに」
「いえ、西の伯爵家には礼儀作法を収めた美しい御令嬢が居ると聞き及んでおりましたので」
「まぁ、そんな。それ程お褒め頂くようなものではございませんが、フェリ様のお言葉嬉しく思います。ではこれからは無用な遠慮などせず仲良くさせてくださいね。それとまた後程こちらの決まり事なんかをご説明いたしますので、お食事のご用意が出来ましたらおよびしますので、お食事をしながらお話いたしましょう。お部屋は一階のこの廊下の一番奥になります、鍵をお渡ししておきますわね」
「ありがとう御座います、では後程。リリ行きますよ」
「はい、お嬢様」
案内された、これから長く過ごすお部屋に、リリと共にそそくさと向かうのでした。
楽しく読んでいただけたら幸いです。