服を購入したのです
街巡りが・・・まだ。学園は何処に?ごめんなさいです。
流石王都に大きなお店を構えるだけある、様々な服が並べられている店内を見回します。
「いらっしゃいませお客様、少々お待ちください」
何故かエミリア様にお声を掛けた後のお店の方が、私達の方へとやって来ます。気後れ気味でしたのでリリと二人、少し離れての入店になったのですが問題があったのでしょうか。
「お二人はあの方のお付きの方か何かですの?」
「いいえ違いますが。何かありましたでしょうか?」
「でしたら王都には服を扱うお店は他にもありましてよ。そちらのお店をお勧めします」
そう言われて出口を手で示されたのですが、その方の後ろに静かに近寄られたエミリア様が、珍しくお顔の色を変えておられました。
「フェリ様。先程私と一緒に居られる限り心配には及びませんと申しておきながら、失礼しました。そこの貴女、今すぐ店主のセシリー様をお呼びしなさい、すぐに」
「は、はい。すぐに」
慌てて裏へと向かわれた後、上品そうなご婦人が先程の方を連れられ、すぐこちらに来られました。
「まあ、エミリア様。お久しぶりで御座います。今日は何か急ぎのご注文でも?店の者にすぐにでも私をお召しとお伺いいたしましたが」
「セシリー様お久しぶりです。こちらのお店は何時宗旨替えされたのでしょう。身分の上下などなく、王都に居る皆に良い服を、とそれを痛く気に入られ学園の生徒、教師、従士達の衣服をお任せし、信用たると、最近では御用達の看板まで与え先ずは私達の服からと作る事をお願いされ、出入りを許されましたのに、この様子では取り下げを報告せねばなりません」
「エミリア様、申し訳ありません。何のお話なのでしょう。こちらの者からは急ぎのお召としか伺っておりませんでしたので」
「では、申します。今日私がご案内差し上げているお方を、事もあろうに入店直後、一瞥しただけでその方がお断りし、尚且つ他所のお店を勧められておりました。これは宗旨替えでなく何と?」
「も、申し訳ありません。そのような事があったとは。貴女、裏の方に行きなさい。お話が済むまでは暫くそちらにいる事、店内に出る事は許しません。エミリア様、言い訳にはなってしまいますが、お話をお聞きください」
「どのような事でしょう」
「貴女達、此方へ」
声を掛けられている方を見ると、普通の服を着た方達がいらっしゃいました。お店にお勤めの方の様なので、田舎から来た私達の服よりは良い品物みたいですが、先程の方が着ていた服に比べれば数段下の物と思われます。
「「いらっしゃいませ、本日は宜しくお願いします」」
「エミリア様、本来はこちらの二人が全ての接客をしていた、うちのお店で長く勤めて頂いてる売り子達です。今でも貴族の方達以外が来店された場合は彼女達がお相手する様になっております。ですが、今日は貴女が先ず入ってこられたので先程の方が接客に出たのだと思います」
「それで?」
「正直に申しますと御用達の看板を頂けたこと、誠に名誉で光栄なことは今も変わりません。が、それにより貴族の方の来店が余りにも増えたのです。中にはうちの売り子たちの採寸を拒否するだけでなく、罵倒や罵りを行われる方まで。仕方なくお相手できる方を雇い入れましたが、貴族に準ずる方なので、あの方もまた対応の目線が貴族なのです」
「ああ、何となくですが状況が理解、把握出来ました。セシリー様だけが悪い訳ではないことも。ですがキチンとあの方にお店の宗旨を理解して頂くよう教育が必要だと思いますわ。でないと繰り返しましてよ」
「はい、心させて頂きますわ。それで、本日の御用向きは何だったのでしょう」
「フェリ様こちらに。こちらがこのお店の店主でいらっしゃいますセシリー・オルコット様です」
「お初にお目にかかります、セシリー・オルコット様。アレイシス子爵家のフェリノア・アレイシスと申します。宜しくお願いいたします」
「ご丁寧なご挨拶ありがとう御座います。店主を務めておりますセシリー・オルコットです。これからご来店の際は気軽にセシリーとお呼びください」
「セシリー様ですね。でしたら私の事もお店の方々含め、フェリとお呼びください」
「ティファです。よろしくお願いします、フェリ様」
「エレナです。宜しくお願いします、フェリ様」
「はい、お二人ともよろしくお願いします。で、本日は学園に入学するにあたり制服の記入済み購入用紙を辺境伯様経由で事前にお渡し済みとの事なので、受け取りに参りました。あと、似合う服でもあればと、うちの侍女とも話していたのですが、このお店の品々は私では・・・・」
「辺境伯様の処から、学園の制服の依頼は確かに受けておりますが・・・、持って来られた家令の方曰く、そのお方の容姿は普通の方々とは違うので来られた際、気後れと驚きとで、放置などせずキチンとお相手する様にと言い遣っておりましたが、その方とはまた別なのでしょうか?お一人様分しか受けてないと思ったのですが」
「フェリ様、私服の購入も検討されてるようでしたら、店内にいる間だけ、魔法を解かれることをお勧めしますわ。セシリー様は信用に値する方だと思いますし、勧められる服の色合いもかなり違うものになるとおもいます」
「エミリア様がそう仰るなら。はい、これでよろしいでしょうか?」
「「うわ~凄い。なんて綺麗で艶やかな色なのでしょう」」
「うちで扱う、儀礼用の服に使う黒のベルベットよりも見事な。ため息が出ますね」
「これが私の本来の姿なのですが、おかしいでしょうか?」
「辺境伯様直々に言伝をされる意味がわかりますわ、それにエミリア様が一緒にいらした意味も。これはそのまま街を出歩かせるにはいきませんわね。制服は私がお出ししてきますので、ティファ、エレナ、お似合いの服をお願いしますわよ」
「おまかせください。自慢のお店で服が劣ると思ったのは初めてですが、精一杯選ばせて頂きます」
「エレナだけでなく、私も頑張ってお勧めをさせていただきます」
「あの~、皆様余り大事にしないで下さいませ。ああ~所持金が~・・・リリ止めて」
「お諦めください。貴族のご令嬢がお金の心配を口に出されるのは作法上よくありませんよ。それにあるでしょに・・・」
「フェリ様。不躾ながらこのお店とは懇意にさせて頂いております。私の方で後で請求を受けておくことも出来ますので、必ず今後必要になる物は購入しておいた方が良いと思いますよ」
「エミリア様。そう申されてもこの様な上等な服、着ていく場所に心当たりが御座いません」
「学園に通えば、他のご令息、ご令嬢方ともお付き合いが出来るかもしれません。何より私の知る限りお一方がお会いになりたいと仰ってましたから、是非購入しておきましょう。皆様よろしくお願いします」
それからは暫くの間、皆様の着せ替え人形と化し、今まで購入した事もないような大量の服を買う事になりました。
支払いを済ませ、購入したうちの一つを着せられた後、魔法を使い色を戻すと、空いている端の方を借り荷物を全て空間に収納し、やっとお店を出るのでした。疲れました。
楽しく読んでいただけたら幸いです。




