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第九話 

 アベレージの顔の真ん中に穴が開いた。


 振り向いて、笑ったその顔に、穴が開いた。

 光の柱の様なものが、顔面を貫いた。

 光の柱は遠い夜空から伸びて、山小屋の側の地面に着地した後、静かに消えた。途中にあった物を焼き消して。

 血は、出ない。傷口が熱で焼かれている。ただ、肉を焦がした様な異臭だけが、辺りを漂う。

 目も、鼻も、口も。

 全てを焼き落されたアベレージの顔。

 ソフトボールより少し大きいくらいのぽっかりとした空洞。

 のっぺらぼうを思わせるその表情は、私の心に亀裂を入れた。

 アベレージの身体が、崩れ落ちる様に倒れた。


「ッッ!」


 唇を噛んで叫びたいのを我慢する。

 今、パニックになれば私も死ぬかもしれない。

 そう、今考えるべきはどうして私は死んでいないかだ。

 もっと言えば()()()()()()()()()()()()()


 相手の魔法は、遠距離からの光戦。

 おそらくビームの様な物を射出している。

 問題は、どうやって狙ったかだ。

 この暗闇の中、確実に相手の頭を長距離から狙えるとは思えない。

 魔法少女の強化された視力でも、実際にこちらから相手の姿が見えない以上、相手からも見えないと考えたい。

 そこまで考えて、思い至った。

 アベレージが死んだ理由に。


「あぁ、火か」


 山小屋一つを使ってキャンプファイヤーすれば、当然その近くにいる人影も気づかれる。


「あの時止めれていれば、アベレージは死ななかった」


 それだけ分かればいい。今は、死ぬ気でメジアンを逃す方法を考える。


「『星』」


 私は周囲を囲む星を散らす。

 炎ほど鮮烈な光でなくとも、集中させていれば狙われる。

 均等に散らすのではなく、あえて幾つかの星の塊を作ってデコイにする。

 咄嗟にできることはこれぐらいか。

 意識を、周囲に張り巡らせる。

 先ほどビームが飛んできた方向に視線を合わせ、殺気を感じ取ることに集中する。


 ジ、ジュッッ


 私から見て一番近いデコイの一つが、ビームによって焼き消された。

 反応出来ない。いくらなんでも速すぎる。

 このままでは、死ぬのは時間の問題だ。

 ならば、()()()()()()()()


()()()()()()()()()。『星』」


 周囲の星を、ビームに対して盾の様に圧縮展開する。

 次の一撃を確実に耐える。

『星』は防御には向かない。

 ほぼ全ての星を使っても、ビームに耐えれるか分からない。


「『ベガ』」


 だが、やるしか無い。私の手持ちの星で、特に大きい星を一つだけ手元に残す。一等星『ベガ』のコピー

 ビームの長所は、高い威力と超速度。

 そして短所は、攻撃範囲の狭さと、真っ直ぐにしか攻撃出来ないこと。

 なら間近で観察し、耐えた上で、ビームの軌道をなぞる様にこの星を撃ち込む。


 一か八かのカウンター戦法


 私は呼吸を整え、右手に星を構える。

 メジアンを地面に下ろし、敵のおおよその発射点を睨みつける。

 3回目の、ビームによる攻撃が行われようとしていた。


 □ □ □


「『熱線(レーザー)』第三射、装填。チャージ開始」


 魔法番号42番 熱線(レーザー)

 貫通力の非常に高い光熱線を放つ魔法

 基本射程は500メートルだが、チャージすることで射程を伸ばせる


 ()()()()()()()()()()()()()()、その魔法少女はスナイパーの様な体制でステッキを構えていた。


 野良魔法少女組織『不統合同盟』所属

 魔法少女『ラスト』


 オーソドックスな甘ロリの衣装の上から、黒いマントを羽織った魔法少女である。

 その光の無い目は皿のように大きく見開かれ、口元には薄く笑みが浮かんでいた。


「面白い」

「うん、面白いのは良いんだけどね? あれ結構やばいんじゃないの?」


 ラストに話しかけるのは、同じく黒いマントを羽織った魔法少女。

 狙撃する時に過剰に集中し、背後からの攻撃に無防備になるラストを守る役割の魔法少女。


『不統合同盟』所属

 魔法少女『ギャッカ』


「あの子デコイを消したってことは、時間稼いで誰かに助けてもらうことは諦めた。って事だろう? やけになったんじゃ無ければ、こっちの居場所を特定して、もしかしたら攻撃までやっちゃうんじゃない?」


 ギャッカは冷静に分析する。

 ここからでは淡い光としか見えない魔法少女の動向を、予測する。


「気になる事はもう一つ、もし狙撃から逃げた時に追撃する予定だった『メタルシップ』と連絡が取れない。もしかしたら、襲撃を受けてるかも」

「――――」


 返事はない。

 ラストは彫像の様に固まって、動かない。その頭の中では、幾千もの狙撃のシュミレートを行っていた。

 そんなラストに、ギャッカはヤレヤレといった風に肩をすくめる。


「ゴロテス……来ないかなぁ。来ても困るけど、会いたいなぁ」


 ラストが死ねばそれまで、暇を持て余したギャッカは、自らの願望を思わずこぼした。


『熱線』のチャージが、終わる。


 □ □ □


 頭の中で、声が渦巻く。


 来る。すぐ来る、今来る、あのビームが、気づけば目の前。

 気づけば死んでる? 星の防御が心許ない メジアンが狙われる 今からでも逃げる? 二人で、アベレージの死体を置いて? マスコットを呼ぶ? 今日、死ぬ?


「う、がぁあああぁ!!!」


 恐怖と思考を振り切って、雄叫びを上げる。同時に私の視界を光が埋め尽くした。

 来た! 星をより集中、圧縮させる。


「ああああ!!」


 ギャリギャリと、星が削れる音がする。打ち消しきれなかったビームの一部が、私の足を掠めた。

 無理だ。と、直感する。

 耐えきれない。このまま死ぬしかない。


 怖ひ?


()()()()()()()()


 心の、枷の様なものが外れた。

 手元のベガを振りかぶる。

 ビームはまだ消えていない。盾にしていた星もまだ大分残っている。

 でも、関係ない。

 役に立たないものは、別のことに役立てる。


 盾の形を変える。錐のように、矢尻のように。

 ビームを()()()()ための形に変形させる。


()()()()()()使()()


 ベガを盾にぶつける。衝突する盾とベガは一体となり、ぶつけた勢いのまま、真っ直ぐ、正面からビームを引き裂いて進む。


「ぶち抜いてやる」


 あれ? これでいいんだっけ? たぶん大丈夫、だって負けたくないし。うん、そうだね。


 星の塊は、ビームで減衰しながらも、真っ直ぐ中心を進んでいく。全ての星を攻撃に使う、この一撃。

 これで決められなかったら、私は負ける。死ぬ?

 星が引き裂いたビームが、肩を撃ち抜く。

 痛みを忘れようと、顔が勝手に笑ってしまう。


「はは、『超彗星』!」


 □ □ □


「美しい」


 その光の激突を、ラストはうっとりと眺めていた。

 少しずつ、確実にこちらの『熱線』を引き裂いて近づいてくる。

 その輝きに、ラストは見惚れていた。

 目前に迫る、その時まで。

 ラストは静かに、目を瞑る。

 こんなに美しい物で死ねるなら、後悔はなかった。


「いや、避けろや!」


 蹴り飛ばされた。

 超彗星はラストの顔を掠めるだけにとどまる。


「痛いなぁ、何すんだよ。もうちょっとで死ねたのに」


 超彗星は掠めただけ、それだけでラストの顔に甚大なダメージを与えていた。

 右目は熱により潰され、右耳は顔の側面ごと消し飛んだ。

 もし、直撃したのならば、頭ごと爆散していただろう。

『熱線』で威力が減衰していなければ避けられなかった。

 何より、ギャッカが蹴り飛ばさなければ、間違いなく直撃していた。

 その事に、ラストは不満げに文句を言う。


「はぁ、せっかく綺麗に死ねると思ったのに。あーあ、今のがきっと最後の綺麗に死ぬチャンスだったんだ、私はもう分かってるもんね、もう死ぬ時は泥と血に塗れて死ぬしかないって」

「そんな事、今更言わずともわかる事だろう。綺麗に死ぬ可能性なんて『同盟』に入った時から無いんだよ」

「…………そうだねぇ、まぁ、まだやるべきこともあるし。ありがとねギャッカ」


 ラストは再度姿勢を整え、ステッキを構える。


「狙えるかい? 光はもう見えないけど」

「うん、勘だけどね。まだ動いてないと思うよ」

「……まぁ、外してもいいか。こっちが生きてると分かったら、何らかのアクションがあるかもしれないし」


 ラストは呼吸を整え、集中する。


「『熱線(レーザー)』第四射、装填。チャージ開始」


 □ □ □


 私は、『超彗星』を放った後、その場を動けずにいた。

 全身に力が入らない。頭がガンガンと痛む。視界が歪んで倒れたい。

 だが、倒れるわけにはいかない。光を目印に狙っているというのはあくまで私の推測だ。もし今倒れた私が狙われたら、近くで寝ているメジアンを巻き込みかねない。

 だから、絶対に倒れるわけにはいかない。


 ぼんやりとした意識の中、遠くで光が見えた。

 さっき間近で見た光。『超彗星』は、外れた。

 ビームは、放たれた。


 悔しいなぁ


 私は静かに目を閉じた。


「……………………?」


 まだ、生きてる? あのビームの速度なら、もうとっくに死んでいるはずなのに、いつまで経っても生きている

 おそるおそる目を開く。


 視界に広がるのは、眩い銀色。

 銀色のナニかが、目の前でビームを弾いている。

 私を守っている?

 大きなソレはビームを防ぎ続け、遂にはビームが消えるまで耐え切った。

 あの威力の高いビームを、あっさりと。


 私の目の前で、ソレが振り返る。

 眩い西洋風の甲冑を見に纏った、ソレ。

 聞いたことがあった。魔法少女を助ける、鎧の騎士。


『銀騎士』と

豆設定

学園に所属しない、野良魔法少女集団『不統合同盟』

彼女たちの目的はそれぞれ違う。

だからこそ、全員の望みが叶う大団円を目指して協力する。強い絆と契約で強固に結ばれた組織である。


ちなみに、個々の色が混ざり合い一つになるという理念からチームカラーは黒であり、全員がコスチュームの上からなんらかの黒いアイテムを身につけている。

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