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第七話 

「山小屋とはまた、オーソドックスな」


カフェを出た私達は、情報屋の資料で示された場所へ向かった。登山ルートが変わり、今は使われなくなった山小屋。人の住む街からも遠く離れていて、空を飛んできたのにあたりはすっかり暗くなっている。日を改めることも考えたが、私のもう一つの魔法を考えれば夜の方が動きやすい。


「「変身」」


私は指輪に、アベレージはステッキに。

それぞれの魔法カードをかざし、変身。


「『(ホーク)』半人半鳥」


魔法番号15 番 (ホーク)

鷹化による高速飛行能力や超動体視力などを獲得する魔法


更に重ねて、アベレージの肉体が変化していく。

瞳は鋭く、目を大きく見開く。

腕には少量の茶色い羽根が生え、口が僅かに裂ける。

あらかじめ靴を脱いだ両足には、鋭い爪が発現する。


「ソレ、なんか意味あるの?」

「骨が軽量化と鷹の目により、速度と動体視力が上がります。その分、防御力は低下しますが、貴方の方は『沈黙』ですか?」

「いや、連携するなら沈黙は障害に成りかねないし、別の魔法だよ『(スター)』」


魔法番号95番 (スター)

星の幻想を具現化、操作する魔法


私の周囲に、蛍の様な幾つもの光が出現する。


「『星』。なるほど、召喚系最強とも呼ばれるその魔法であれば、貴方の評価が妙に高いのも納得ですね」

「でもコレ夜にしか使えないんだよね。街中だと出力が落ちるし」


私の周りを浮かぶこの光は、私が見た星の超超超劣化コピーだ。今は数十の星を召喚できているが、ここが山で、今が夜で、たまたま月が無いからこその今のパフォーマンスだ。街ではたとえ夜でも十個ほど召喚できれば良い方だ

こうして、半分鷹のアベレージと光球を纏った私は、山小屋の扉に手をかけた。


「……君の妹、私たちの姿見てビックリしちゃうんじゃないかな」

「…………多分、大丈夫ですよ」


□ □ □


「ふん♪ふんふん♪ふっふっふーん♫」


魔法少女学園の教室を一つを勝手に貸し切りにして、花を並べ、鼻歌を歌いながら紅茶を淹れる魔法少女がいた。

魔法少女『パレード』

ゴロテスとも同期となる、古参の魔法少女だ。

金の縦ロールを靡かせる優雅な姿は、中世の貴族を思わせる。実際に、良家のお嬢様でもある。

そのご機嫌なティータイムに、割って入る声があった。


「邪魔するよ、パレード」


ショートカットの極めて無表情な魔法少女が、パレードの用意した紅茶を啜っていた。


「あら、あらあらあら。アルギアではありませんか。いつからそこに?」


唐突な来客に対し、嬉しそうに、それでいて素早くケーキとフォークを用意したパレードは、アルギアのぶんの紅茶も用意する為に、もう一度ティーポットを手に取る。


「今、来たところだよ。驚いてくれた様で嬉しいけど、今日はもっと驚くと思うよ」

「? どういうことですか?」

「メジアンは行方不明だ」

「……休暇を、取っていると聞いていますが」

「『最優』のリーダーは死んだ」

「任務が長引いていると聞いていますが」

「天内学園長の指示でそう伝えられたらしい」


ガシャン‼︎

と、パレードは持っていたティーポットを窓ガラスに投げつけた。


「随分と舐め腐ってくれますのね、学園は」

「落ち着いて。こんなところで殺気を出せば、学園長にバレちゃう」

「…………失礼しましたわ」

「大丈夫。この話は、ゴロテスから聞いた。彼女が動いているなら私達に出る幕はないさ」

「ゴロテスさんが……」


『最強』が動いている。

その事実に安心したのか、パレードは椅子に腰掛けて一度息を吐いた。


「なるほど、確かに『最強』であるあの方が動くのなら、事態の解決は近いでしょう」


そう言ったパレードの顔は、言葉とは裏腹に怒りを滾らせていた。


「ですが、彼女に任せるのはメジアンの方だけです」

「…………」

「同じチームの、『White』の仲間が殺されたと聞いて、黙って待っていられるほど、わたくしは大人じゃありませんわ」

「そりゃ、大人じゃないよ、私たちは魔法少女なんだから」

「えぇ、では」

()()()()()。行かせない」

「……あ?」

「この情報を伝えたのは私の誠意、そして、万が一他の所でこの事を知った君が暴走しない様にする為だよ」


アルギアのその発言にパレードは一瞬驚き、一瞬考え、

次の瞬間で戦闘体制に入った。

合わせて三瞬、瞬き程の時間。その時間は、アルギアの前では十分に長い。

パレードが椅子を引き、手を振り上げようとしたところで、その手が机から離れないことに気づいた。


「しまっ……」


パレードの服の袖が、フォークで机に打ち付けられている。

無論、普通の人間には不可能な芸当だ。

アルギアは、すでに変身している。アルギアのコスチュームは丈の長いキュロットとラフな白いシャツ

そしてアルギアは、普段から同じ様な服を着ている。

()()()()()()()()()


予想外の出来事に硬直したパレードの肩に、机越しに放たれたアルギアの蹴りが直撃する。

そのまま後ろに倒れたパレードにアルギアは飛びかかり、自分の体を使って四肢を固定する。

アルギアは、ゴロテスと同じく魔法戦よりも近接戦闘を得意とする魔法少女である。ただし、武人に近い性質のゴロテスと違い、アルギアは不意打ちや騙し討ちに特化した『暗殺者』ともいうべき才能を持つ。

それはゴロテスにも真似できない、唯一無二の特異性、不意打ちにおいて、アルギアを上回る魔法少女は存在しない。


「魔法少女パレード。普段からステッキを持ち歩かない君は不意打ちに極端に弱い」

「っ離しなさい!」

「……リーダーを殺したのは、黒いマフラーの魔法少女らしい」

「!」

「もし、彼女らが動いているなら、今私達が動く訳には行かない」

「……そうですか、わかりましたわ」


パレードは抵抗をやめて、脱力する。

その後、痛そうに顔をしかめた。


「それにしてもアルギアさん、本気で蹴りましたわね」

「っごめん、手加減出来なかった」


アルギアは力を抜いてパレードを解放する。


「隙ありですわ!」

「えぇっ!?」


アルギアの拘束が緩んだ瞬間、パレードはアルギアの襟を掴み、立ち位置を反転させる様に地面に叩きつける。


「理屈では分かりましたけど! 感情は別ですわ!」

「ちょっ、待って!」

「待ちません!」


パレードは扉を蹴破る様にして教室を出た。

残されたアルギアは、苦虫を噛み潰したような表情で追いかける。


「まずい、パレードが変身すれば、私じゃ手がつけられない」 


ただし、変身できればの話だ。今現在、変身しているのはアルギアのみ、変身による身体強化の差でパレードはすぐに追いつかれる。

パレードもそれが分かっているのか、逃走しながらあるギアを撒くための材料を探す。

アルギアももし何かしらの不確定要素が絡んでも対処できる様に、部屋から持ち出したフォークを隠し持っていた。


そして二人は、同時にソレを見つける。


「あぁ?」


ゴロテスについて質問するために、たまたま学園に来ていたゴッズを。

先程まで警戒すべき学園長室にいたからか、すでに変身している。

ここで、走る二人は選択を迫られた。

ゴッズはアルギアとパレードのどちらとも一応の交流がある。ならば、どちらの味方にもなりうるはずだ。

最初の一言、なんと声を変えるかで、ゴッズが敵が味方か変わる。


「捕まえて!」

「助けてください!」


アルギアは、瞬時に自分の失敗を悟った。

ゴッズは性格は荒く、傲慢な態度を取るが、魔法少女である。

魔法少女であるのなら『助けて』という言葉を無視できるはずがない。


「……分かった」


一瞬でアルギアはゴッズに押さえつけられた。

向かってくる途中で、ゴッズの眼にフォークを投げつけたが、眼球に弾かれてしまう。

アルギアにとってゴッズは最も相性が悪い、天敵のような存在である。

アルギアは不意打ちを成功させるため、基本的にチームの人間以外には、わざと自分を弱く見せる。

しかし、ゴッズの『絶対』は出来ると確信していることが必ず出来る魔法だ。勝てると確信出来る相手には、必ず勝ててしまうとも言える。

ゴッズの前では不意打ちの為の弱く見せる擬態が逆の効果を持つ。

『絶対』を発動したゴッズ相手には、アルギアは絶対に勝てないのだ。


「しまった……」

「ふむ、それでコレはどういう状況だ? 説明しろよ、アルギア」


こうして、魔法少女広報チーム、通称『White』の中でも、最も暴力的な魔法少女、パレードが今回の事件に参戦することが決定した。


豆設定

広報チームである『White』は、全員が実力者である。

世間に顔出しする以上あっさり死ぬことが許さない。

かつては戦闘に向かない無力な魔法少女が担当していたが、裏組織に狙われる事態が多発した。

最終的に見た目がよく、それでいて高い戦闘力を持つ魔法少女が集められた。

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