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魔法少女グレイプニル! 〜正義の魔法少女になれない私だけど、魔法少女を助ける為に暗躍します〜  作者: 鈍色錆色
第二編 Bルート 愛と花

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第五十七話

「断る」

「……なんで? 最強になれるかもしれないんだぞ?」

「いや、別になりたく無いし……」

「そうか……」


 炎堂はニアスの拘束を解き、立ち上がらせる。

 そして、ガシッと肩を掴んで頭を下げた。


「頼む。弟子になってくれ」

「えぇ?」


 先程とは打って変わって下手に出る炎堂に、思わず困惑の声を漏らすニアス。


「給料も出そう」

「金かよ」

「金は嫌いだったか?」

「嫌いってわけじゃ無いけど、ここで金は嫌でしょ」

「なら、欲しいものを言ってみろ。できる限り用意してやる」

「…………」


 ニアスの欲しいものは、ある。

 だが、それをこの男に明かしていいものかを迷った。


 欲とは弱みだ。


 付け入る隙を与えるのは、危険だとも思う。

 けど、それを言えば炎堂は、既に弱みを曝け出しているのだ。

 なら、多少ならこちらも心の内を見せるべきなのかもしれない。


「……家が欲しい」

「家?」


 友人の家や野宿で暮らしていくのは限界がある。

 何より、変わり続ける環境では心を休めることはできない。

 母親の元に帰ると言うのも、ありえない。

 だからニアスは、家を望んだ。


「なんだ、そんなことでいいのか、ならさっきまでいたアパートを貸してやるよ」

「あんたと一緒の家は嫌だ」

「勘違いすんなよ。別に俺はここに住んでるわけじゃねー。あの部屋は、この辺りで活動する時に使ってる拠点の一つだ。好きに使え」


 炎堂がポケットから出した鍵を、ニアスは恐る恐る受け取る。

 誰かに鍵を貰うという経験は、初めてのことだった。


「…………弟子って何すればいいの」

「そうだな、取り敢えず今日は……」

「今日は?」

「…………考えてなかった。どうしよう」

「…………」


 結局、その日はその場で解散となった。

 ニアスはアパートで、炎堂は自分の別の家へ帰って行った。


 ニアスにとっては初めての自分の家。否、厳密には母親と過ごした家があるのだが、アレを、家と認識したことは一度もなかった。


「あったかいな」


 その日はよく、眠れた


 □ □ □


「おはよう」

「おはよう。何やるか決まったの?」


 次の日、ニアスがアパートの駐車場に行くと、柱にもたれる炎堂の姿があった。


「あぁ、教えるのが得意な部下がいてな、そいつに相談した」

「そう。今日は何をするの?」

「仮想敵は『最強』だからな。対抗する材料を一つずつ作って行く方針だ」

「なるほど、具体的には?」

「走れ」

「…………一応、なんで?」

「『最強』は魔法少女だ。魔法少女は体力を鍛え上げる事を重視する。対抗するには、最低限戦えるだけの体力が必要になる」

「待って」


 説明を終えて立ち上がる炎堂をなんとか静止させ、もう一度座らせる。


「魔法少女って何?」

「言ってなかったか? あの女は『学園』の魔法少女だ」

「聞いてない」


 ニアスと同じくらいの少女とは聞いていた。

 だが、少女と魔法少女ではまるで話が違う。

 少女は人間でも、魔法少女は人間とは呼べない。

 現実を歪める超常の力。物理法則すら無視するヒーロー。


 力も、社会的地位も高い。特に『学園』の魔法少女は裏社会にすら恐れられ、魔法少女を食い物にしている裏組織であっても、学園に所属していない、もしくは見放された魔法少女しか手を出せない。


「気にするな。大した問題じゃない」

「一度……つるんでた奴らと一緒にこっそり魔法少女と怪異の戦いを見に行ったことがある」


 ニアスの脳裏に焼き付いたその光景。

 ふわふわとした衣装の少女が怪物に手を伸ばした次の瞬間、怪物は突然降ってきた雷に落ちて死んだ。

 空は晴天だった筈なのに、一瞬で雨雲ができて雷鳴が轟いた。

 魔法少女は電話片手に雑談しながらの余裕を持った戦闘であった。否、戦闘にすらなっていなかった。


「アレは人間がどうこうできる存在じゃない」


 人間の『最強』になれるとしても、魔法少女は人間の区分にない。


「あ、その点は問題ない。『最強』は魔法少女と怪異以外に変身しない。あれは、魔法を使わない魔法少女だからな」

「それは…………魔法少女と呼べるの?」

「呼べる。あの女ほど英雄(ヒーロー)と呼べる存在はいないからな」

「じゃあ、貴方や私は悪役(ヒール)になるってこと?」


 ニアスの問いが予想外のものだったのか、炎堂の動きが止まる。


「…………そろそろ走るぞ」


 結局、炎堂はなにも言わずに走り出し、ニアスもそれについて走り出した。

 なんとなく聞いただけで、別にどうでもいい質問だったから。


 □ □ □


「はぁ、はぁ、はぁ、っ…………はっ、はぁ」

「ここまでだな」


 いったい、どれほどの距離を走ったのか?

 決められたコースの周回。変わらない、同じ景色を何度見たのか?

 分からない。分かるのは時間だけ。


 およそ四時間。ぶっ続けで走り続けた。


 そこそこのペースのまま、休憩なし、水分補給のみのマラソン。

 終了した瞬間、ニアスは駐車場の床に崩れ落ちた。

 汗と一緒に、自分が溶け出していく感覚。

 アスファルトが体の熱を奪い、意識が遠のいていく。


「大丈夫か?」

「……………………」


 大丈夫な訳がなかった。

 炎堂は息を切らせていない。

 走っている時と直後はまだ少し息を荒げていたが、もう普通に喋っている。


 男と女の差

 子供と大人の差

 鍛錬した時間の差


 その全てを同時に味わった。


 結局、ニアスが喋れるほどに回復するまで、二十分近くかかった。


「お前、何か欲しいものあるか?」

「…………アイス食べたい」

「そうか」


 ニアスとしてはダメ元の頼みであったが、炎堂は近くのコンビニでアイスを買ってきてくれた。


「なんで、買ってくれたの」


 口の中をソーダと冷気で癒しながら、ニアスは尋ねる。

 正直、こういうものは禁止されると思っていた。栄養を管理され、自由な食事は認められないと。


「…………俺はこの前、冷静じゃなかった」

「うん」

「『最強』に囚われて、暴走した。けど、お前に『最強』になりたくないって言われて、落ち着いた」

「あんた、ひどかったよ、色々」

「正直、報酬家だけじゃ足りないと思う。だから、ルールを決める。」

「ルール?」

「修行を一日進めるたび、お前の望みに出来るだけ応える。今日は走った。だから、アイスを買った」

「…………なるほど」


 お互いが健全に利用し合うためのルール。ニアスとしては否があるはずもない。

 家だけで満足するつもりだったのに、追加で報酬が発生するのだから。


 ただ一つ、言っておきたいことがあった。


「それ、アイス買った後でいうのずるくない? 先に聞いてたら別のもの選んだのに」

「はは」


豆設定

この世界では人口の減少が進んだ結果、建物に対して人間の量が少なすぎる状態になっている。

結果として管理しきれない格安のアパートがカスみたいな目的に使われたり、廃墟や放置された空き家にゴロつきが棲みついたりなどの問題が起きている。

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