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第六話 

黒スーツと、十把一絡げに表現してきたが、彼らはモブであっても雑魚でない。

彼等はアベレージがもし無理に資料を奪いに来ても返り討ちにする実力を備えた黒スーツのエキスパートだ。だから、一人が気絶さらせられたことに動揺はない。

そして、一連の動きで残った三人は理解した。

ゴロテスは徒手空拳の戦闘において隙はない。


「へぇ」


ゴロテスは、思わず感嘆の声を漏らす。

黒スーツ達の行動は、シンプル。ひとりは銃を撃ちながらの特攻。もうひとりはひとり目に構うことなくゴロテスに向けて銃を連射。最期のひとりは呆けている紳士服の男を部屋から外に連れて行く。最適と言っていい行動に、ゴロテスの顔から笑みが溢れた。

自分に降り注ぐ弾丸を気にすることなく、挑発するように拳を構える。


「いいね。少しだけ、君たちの土俵でやろうか」


□ □ □


「あはははははは。ヤバイねアレ‼︎」

「ちょっと、待って下さい! 何故あなたが……」

「悪いけど聞こえない! 今の私に話しかけても声にならない! この声も聞こえないだろうけど!」


私は『沈黙』を使って部屋からアベレージを連れ出していた。男どもが逃げた方向とはできる限り逆方向に逃げる

出来るだけ高高度と低高度の飛行を繰り返しながら、されども全力で逃げる。

『最強』の魔法少女、ゴロテス

私も肉弾戦を得意とする魔法少女として、話には聞いていたし、いつか手合わせをとも考えていた。だが、ゴロテスが構えた瞬間、そんな考えは霧散した。

アレは、別の生き物だ。男と女とか、大人と子供とか、そんなレベルではない。似ているだけで種が違う。猿と人間、もしくは猫と獅子。それほどの違いがある。


「まぁ、追うなら私達じゃなくてあの紳士服さんだろうけど、一応ね」


十分な距離を取った所で、私は『沈黙』を解除した。


「もう喋れるよ。なんだって?」

「少し……待って下さい」

「あぁ、ごめん。普通はあんな飛行することはないよね」


『飛行』は『変身』と同じく全ての魔法カードに共通して入っている、所謂『汎用魔法』と呼ばれるものだ。

空中を移動できるが、実際に走ったり歩いたりする様に体力が必要になる。浮いたりゆっくり移動する分には問題ないが、スピードを出したりムリな角度を付けたりすれば、この様に体力のない魔法少女はバテてしまう。


「本当にごめんね。逃げるのに夢中で気が回らなかった」


私は変身を解除して再びアベレージの手を引く。今度はできるだけ優しく、誘導する様に。


「ゆっくりできる喫茶店でも探そう。お詫びに奢るよ」


アベレージは少し考えた後、こくりと頷いた。

これでようやく、まともに話ができる。

私は、正義の魔法少女になる。どうすべきかは、全ての話を聞いてからだ。そうしてから、アベレージへの対応を決めればいい。

協力するなり、守るなり、殺すなり。


□ □ □


「うぅ……」


一方その頃、紳士服の情報屋は首を掴まれて唸っていた。掴んでいるのは当然、ゴロテス。

足は宙に浮いており、地面には護衛の黒スーツが転がっている。


「『ゆりかご』……期待していたほどではなかったな。いや、もしかしてここは本部じゃなくて一支部にすぎなかったり、する?」

「……っ!」

「答えてよ。情報屋なんだろう?」

「……支部、だ」


絞り出す様なその声に、ゴロテスは情報屋が呼吸ができる様に力を抜いた。


「ッ…………ゴホッ。……はぁ、貴様、魔法少女が我らに手を出して、無事で済むと思うなよっ!」

「呼吸も絶え絶えなのに声を張り上げるなよ、見苦しいな。大体、僕の何処が魔法少女に見えるんだ」


ゴロテスは、情報屋の瞳を覗き込み、問いかける。


「白々しい、知っているぞ! 魔法少女のステッキやコスチュームは、必ずしも同一ではない! そのジャージが、貴様のコスチュームなのだろう!」


そう、コスチュームやカードをかざすステッキは必ずしも同一ではない。

大抵の場合、フリフリの動きやすいロリータ服になるが、スーツや学生服、メイド服など、本人の気質に合わせて変化する。

ステッキも同じく気質に合わせてベーシックな杖型から変化するがこちらはコスチューム以上に変化しやすい。ルリナは指輪、ゴロテスであれば二の腕につけるタイプのバングル、珍しいものは剣や銃など様々だ。

故に、情報屋の指摘は正しい。相手がゴロテスでなければ。


「悪いが、今日の私はステッキもカードも持ち合わせていないんだ」


そういうと、ゴロテスはジャージの上着を脱いで、タンクトップ1枚の状態になる。


「馬鹿な……」

「コスチュームは変身解除以外では脱げない。常識だよね」

「ならば何故、私達の店を潰した」

「潰したのはマジでたまたまだよ。入り口がわかんなかったから、取り敢えず抜け穴が無いか、反響で調べようと床を殴ったら抜けた」

「…………」

「呆れないでよ。まぁ、今の僕は一般人だし、表向きにはチンピラの襲撃ってことになると思うよ。そして僕の目的は、コレ」


ピラリ、と。

ゴロテスは一枚の写真を情報屋に見せる。


「この魔法少女、『銀騎士』についての、全ての情報を寄越せ」

「……報酬は?」

()()()()()。じゃ不服かい?」

「……いや、最上の報酬だよ。だがいいのか? 裏商店と魔法少女が取引など」

「ダメに決まってるから一般人として来たんだ。というかそれで言ったら私が来た時も二人ほど、魔法少女がいただろう、彼女たちは良いのか」

「あぁ、彼女は、? 待て、二人……?」

「……いや、一人だったね、見間違えちゃったよ」

「そうか……なるほどな」


ゴロテスは後悔していた。段々と余裕が出たのか、情報屋の顔から恐怖が消え、思考を取り戻し始めている。


「銀騎士、か。よく知っているよ。私達の支部をいくつも潰しているからね」

「僕もそう聞いている。同時に他の魔法少女も助けられたと。一方で解せないことがある」

「ほう? 何が解せないと?」

「あの魔法少女のマスコットが見つからない」

「マスコット? ……そうか、ならばアレは、魔法少女ですら無い? いやしかしあの魔法は間違いなく……」

「情報屋?」

「……私の推測混じりで良ければお話ししましょう。銀騎士は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なんだと?」

「かつて存在したと言われる、ステッキやマスコットを必要としない魔法少女。その流れを引き継ぐ者が銀騎士なのではないかと」

「マスコットがいらない、か…………来い『アンノウン』」


ゴロテスの呼びかけに応えて、一体の羊のぬいぐるみが空から降り立つ。ゴロテスのマスコット『アンノウン』である。


「『アンノウン』質問する。マスコットを介さず魔法少女になることは可能か?」

「解答。魔法少女には必ずマスコットが存在する。もし見つからないのであれば、それは何処かに自分のマスコットを隠してしまったという可能性だ」

「なるほど、となると『銀騎士』が学園に所属しない理由はそこか?」

「………銀騎士に関しては他にも幾つか情報がありますよ」


紳士服の男の発言に、アンノウンとゴロテスの注目が集まる。


「曰く、銀騎士は、二つの魔法を同時に扱える。らしいですよ」


□ □ □


「……そうか、妹が行方不明なのか」

「そうです。魔法少女『メジアン』。私よりもずっと優秀な妹です」

「メジアン……随分な有名どころが出て来たね。行方不明とは聞いてなかったけど」

「学園長が、情報を規制しているんですよ。勝手に動かれない様に」

「あぁ、そういうことするよね。あの人は」

「…………騙して、すいませんでした」

「今、謝るの? 私まだなんの被害も受けてないけど」

「もう、二度と会うことはないと思うので」

「……え? なんでそんな話になるの? もう居場所がわかったなら乗り込むだけじゃないか」


そう言ったルリナに対して、アベレージは思わず眉をひそめる。


「もう貴方を頼る気はありません。メジアンの名前を出せば、協力してくれる魔法少女もいるでしょう」

「天内学園長に内密で?」

「………」


痛いところを突かれたのか、押し黙ったアベレージに対し、ルリナは楽しそうに話しかけ続ける。


「学園長は厳格だが、慕われている。その上大人らしく交流網も広い。だから、謹慎中の私に目をつけたんだろう?」

「……何が欲しいんですか?」

「何も。ただ、囚われの少女を救い出す役割は、いつだって『正義の味方』のための物だよ」


こうして、今度こそ私たちの同盟は結ばれた。


「じゃ、メジアンを助けに行こうか」

「……え、今からですか?」

「もちろん。善は急げっていうからね」

豆設定

魔法には『固有魔法』と『汎用魔法』がある。

一人二つのオリジナルの魔法である固有魔法と違い、『変身』による肉体強化と『飛行』による魔法少女と付属物に対する飛行効果は、全ての魔法少女に共通するものである。

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