第四十九話
カタカタカタカタ
「うん、いいね。ブラインドタッチも少しずつできるようにしていこう」
あれから一週間。
私はひたすらキーボードを叩いていた。
『プログラミングとかやってみたいです』
そういった私に対して、先輩から課された課題は『写経』と呼ばれる練習法だった。
簡単なプログラミングをひたすらに打ち込み、それが終われば先輩にチェックしてもらう。
白銀先輩は、チェックと同時に打ち込まれたコードの意味を細やかに説明し、口頭で軽くテストをする。
それの繰り返し。
楽しいか楽しくないかで言えば、案外楽しかった。
長時間の作業は疲労はあれど、確実に身についていくと言う実感がある。
困った。
私はまだ入部届を出していないから正式な部員じゃない。
そしてパソコン部に入りたいが、もしあの質問について白銀先輩に詰められれば弁解は難しい。
…………いや、もう一週間も経つし、その間聞かれることがなかったのだから問題はないか。
次の日の放課後、私はこっそりと入部届を出しに行った。
□ □ □
「今日はわたくし、『パレード』が皆さんのお相手をしますわ」
訓練一週間目、飛行訓練。
三人の新人魔法少女、『クタラガ』『ニアス』『クラウン』は、室内グラウンドの真ん中で浮いていた。
魔法少女全員が使える汎用魔法『飛行』によるホバリング。
この一週間である程度使いこなせるようになったが、それでもまだ練度が足りない。
だからこそ、魔法少女パレードの協力が必要であった。
「それでは、上に参りますわ。『重力』」
ポーン♪
「なっ」「クソ!」「ちょっま」
パレードが軽く、鍵盤を鳴らす。
それと同時に、三人の新人魔法少女たちは飛行魔法の制御を失い、あわあわと手を振りながら天井に激突した。
『重力』の魔法による、重力の逆転。
この場における重力は、下ではなく、上へ向かう。
「戻しますわよ」
ポーン♪
続けて別の鍵盤を叩き、それと同時に重力は、本来あるべき下方向へと切り替わる。
今度は何とか墜落せずに空中に止まる三人。たが、その体制は安定しているとは言い難い。
「右ですわ」
ポーン♪
そしてそんな体制では、次の重力操作を乗り切れない。
「左ですわ」「前ですわ」「下ですわ」「左ですわ」「上ですわ」「前ですわ」「上ですわ」「左ですわ」「右ですわ」「後ろですわ」「左ですわ」
ポーン♪ ポーン♪ ポーン♪ ポーン♪ ポーン♪ ポーン♪ ポーン♪ ポーン♪
「くそっ! やってられるか!…………うお!」
「く、クク、重力操作とは面白い! ぷぎゃ!!」
「まじしんど…………ちょ、疲れたんだけど」
クタラガは訓練から逃げようとするもそもそもまともに移動すら出来ず翻弄され、
クラウンは余裕の表情を見せるも時々壁や天井に思いっきり激突し、
ニアスは意外なことに、文句を言いながらもだんだんとその場に留まり続けることが出来ていた。
「そうですわね…………今日はここまでとします。明日も同じ訓練をしますわ。遅刻しない様に! それではわたくしはこれで」
そうしてパレードがさった後、残された三人はグラウンドの中央にへたり込んだ。
「あの女、涼しい顔しやがって。やられる身にもなってみやがれってんだ」
「うん? くたっち気づかなかったの?」
「くたっ、ち? それ俺の名前か?」
「うん、クタラガなんだからくたっちに決まってるっしょ」
何が決まっているか、クタラガは分からないが、それよりも気になることがあった。
「気づかなかったか ってのは、何の話だよ」
「あの人、ずっとお手本見せてくれてたっしょ。だってピアノ弾いてる間、5センチくらい浮いてたもん。距離的にも多分、重力の魔法の射程圏内にいたんじゃね?」
「何だそりゃ、見せる気のない手本なんて意味ねーだろ」
そう、本当にこの手本には大きな意味などなかった。
何回かやっていれば気づく奴は気づいて、パレードにコツを聞きに来る。そしてそのコツは気づかない奴にも伝播し、コミニュケーションの足掛かりとなる。
それこそがパレードの、否、魔法少女学園の目論見であった。
ただ、ギャルは観察の天才である。
その超人的観察眼は魔法少女ゴロテスに匹敵する。
ニアスはただほんの少しの時間、パレードが飛行魔法を使用しているのを観察しただけで、そのコツを見取っている。
ゴロテスと違って即座に再現するほどの肉体センスはないものの、それでも格段に成長スピードが早い。
「それでね、飛行魔法のコツって奴なんだけどさ、あんたら教えてほしいっしょ?」
「っ! いらねぇよ」
「いる! ぜひ教えてくれ!」
悪意のないニアスの問いに、クタラガは思わず苛立ち、クラウンは笑顔で教えを求めた。
「えっとねー。こう重力が切り替わる前に、グイッとやるじゃん?」
「!?」
「そんで、あとはあの人の指示聞いて、次の方向がわかったらギュン! と重心を移動させて、最後にふわっとする訳よ。分かった」
「うむ、なるほど大体わかったぞ!」
「!?」
ニアスとクラウンは同じ感覚派の様で、互いに通じ合った。
一方でクタラガは今更聞くことも出来ず『グイッ』『ギュン!』『ふわっ』について、一人で頭を悩ませることとなる。
豆設定
パレードの飛行訓練時、指示の数とピアノの音の数が同数でない。これは、パレードが指示だけ出して三人がビクビクするのを楽しむイタズラをしているため。




