第一編 Aルート マスコット会議
良い子の魔法少女たちが寝静まる夜。
その会議は、とある喫茶店で開かれる。
「みんなー! 準備はいい? マスコット会議、はっじめーるよー」
店の中央で、マイクを片手にはしゃぐシスター服の女は、周囲の参加者に確認を取る。
何体かはテンション高めの声援で応じるが、基本無視するモノが多い。
ここは秘密の喫茶店『みるき』。窓も入り口もない喫茶店。『転移』の魔法を使えるマスコットのみが入ることを許され、更にこの喫茶店自体が特殊な異空間に存在している。
半数近いマスコットが、ここで行われる会議に参加し、喫茶店は動くぬいぐるみたちの集会場となっていた。
この世のものとは思えない、ファンシー光景の中で、ぬいぐるみ姿ではないシスター服の女のは一際浮いていた。
「今回の議題はふたーつ! まず一つ目は、コチラ」
テンション高く、マイクを持っていない方の手を、全員の目に見える様に持ち上げた。
その手に握られるのは、黒い水牛をモチーフにした、二足歩行のぬいぐるみ…………否、マスコットであった。
名を、『バイス』という。
「魔法少女ダムドのマスコット、バイス。君には、『秩序違反』の疑いがある。よってこれより、裁判を開始する! 裁判長は私! イェーイ!!」
「弁護士を呼んでくれ」
バイスは気怠げに、裁判長に訴えかける。それが叶わぬ願いと知っていながら。
「さーて、じゃあ早速聞いていこうかな? バイスくーん?」
その瞬間、シスター服の女の顔が、のっぺりとした黒い影に覆われる。
「なぜ、魔法少女クラウンに、ステッキとカードを渡した?」
「…………マスコットとしての、責務を果たしたつもりだ」
「君の行動はマスコットの秩序がひとつ、『マスコットは魔法少女同士の争いに関与してはならない』に違反する行動じゃないか? さらに言えば、『マスコットとしての責務を逸脱してはならない』というのにも違反している」
「私はそうは思わない」
周囲のマスコットたちが固唾を飲んで見守るなか、バイスは飄々と弁解した。
「魔法少女がステッキやカードを紛失しない様に、魔法少女の申し出があるか、アイテムと魔法少女との距離が大きく開いていれば、届けることは間違いではない」
「なるほど。だが君はダムドのマスコットであり、クラウンのマスコットじゃないだろう」
周囲のマスコットから、そうだそうだとヤジが飛ぶ。
「その肝心のクラウンのマスコットが存在しなかった。つまり、魔法少女クラウンは『受けるべきサポートを受けられなかった』状況にあったはずだ。こちらの方が大きな問題では」
「…………」
スゥ、と。シスター服の女の顔から影が抜け落ち、ニコニコと朗らかな笑顔に戻る。
「うーん、反論が思いつかない! ということでバイスくんは無罪! おめでとー」
シスター服の女は、乱雑にバイスから手を離す。
周囲から安堵した様なため息と、つまらなそうな舌打ちが聞こえた。
「じゃあ次の議題はーそのクラウンのことなんだけど〜」
シスター服の女は、人差し指を頬に添えて、不思議そうに首を傾げた。
「魔法少女クラウン。そして銀騎士。この二人の魔法少女の担当マスコットが不在。コレは大きな問題だよー」
コレこそが本命の議題。
マスコット不在の魔法少女が、二人。
「エラーの原因に心当たりあるよーって人、いる?」
周囲からざわめきと相談の声が上がり、やがて一匹のマスコットが手を上げる。
デフォルメされた黒兎の様なマスコット、その名を『ナプラ』、魔法少女ギャッカの担当マスコットである
「単純に、マスコット魔法少女の数が釣り合ってない可能性は? マスコットの増員が必要だったりしない?」
「うーん、その点は多分大丈夫。現在のマスコット数は50体。魔法少女の最大数と同数だ」
「それでは…………考えられる可能性は二つですね」
声を上げたのはナプラではない、別のマスコットである。
もこもことした羊のマスコット。
魔法少女ゴロテス担当マスコット『アンノウン』
「およよ、アンノウン。君が会議に参加するなんて珍しいねー」
「珍しくゴロテスは今回の件に介入できませんでしたからね、任務もいつもの新人指導だけで、余裕がありそうなので」
「ふーん、それで? 二つの可能性って何?」
アンノウンはふわふわと浮遊しながら、自身の見解を告げる。
「魔法少女の総数が、50を超えている可能性。そして、マスコットが封印、もしくは殺害された可能性です」
「それ、本気で言ってんの?」
飛躍した理論とも言えるその発言に、思わずナプラは顔を顰める。
だがシスター服の女は、興味深そうに頷いた。
「あり得るねぇ」
「いやいや、ありえないでしょ。僕たちマスコットには『転移』『飛行』の魔法がある。人間如きに殺したり、封印されるなんてあり得ないし、魔法少女がマスコットに手を出すのは『秩序違反』だろう。第一マスコットがいなければ、魔法は使えない筈だ。殺害したのならクラウンは魔法少女に変身できない。」
「はい、ですのでそれを実行できるのは魔法少女でも人間でもない存在。『魔女』であると考えられます」
魔女
その単語が出たことに、周囲は大きくどよめく。一方でシスター服の女は、冷静に考えを整理し始めた。
「なるほどねぇ。『機構』に干渉できる魔女なら殺害したマスコットの権利を引き継げる。現在『魔女のゆりかご』に封印されている魔女は四人。そして活動している魔女は三人…………『秩序の魔女』と『孤高の魔女』」
気だるそうに、魔女の名を呟くシスター服の女。彼女は一つの予感を見越してうんざりとした表情を作る
「コッチは魔法少女側だけどね、もう一人のはこういう面倒なことをしでかしてそうだね。」
その一人の名は『勤勉の魔女』
「何せ、闇市の社長として、この件含むいろんなゴタゴタに首突っ込んでる奴なんだから」
□ □ □
「バイス」
魔女が関わる可能性がある以上今後の予想はやるだけ無駄として、その場で会議は終了した。
そのまま、魔法少女の元へ戻ろうとしたバイスの後ろから、ナプラが声を掛ける。
「なんだ?」
「今から第四十回『ウチの担当魔法少女の好きなところ発表会』があるけど、参加する?」
「…………いかん」




