第四十五話
コツコツ、コツコツと、
冷たいアスファルトの床をハイヒールが叩く。
冷たく暗い地下の廊下を、威風堂々とした様子で歩く女。
魔法少女学園学園長『天内遥』
そしてこの場所こそ、法により全ての魔法少女が所属すべしとされる公的機関。魔法少女学園。その存在しないことになっている地下である。
やがて天内は、一つの重厚な扉にたどり着いた。網膜や掌紋、パスワードを入力し、ようやくゆっくりと扉が開かれる。
長い廊下、複雑な経路、厳しいセキュリティを超えて、ようやく辿り着ける、その扉の先には
普通のリビングがあった。
暖色の照明に、ダイニングテーブル
奥にはキッチンが備え付けられ、入り口近くにはテレビとソファが備え付けられている。
いくつかの扉が設置されているのを見れば、その先にも部屋があるらしい。
天内は周囲を見渡し、ソファーの上に寝転ぶ一人の少女を見つける。
「あっ、学園長じゃん。なんのよう?」
「魔法少女『ハイエンド』が死んだ」
「そっかぁ、それで…………」
少女はソファ立ち上がり、天内の顔を正面から見る。
少女はハイエンドと全く同じ顔をしていた。
「今日からお前が魔法少女『ハイエンド』だ」
「りょーかい。はぁ、この地下ぐーたら生活もおしまいかぁ」
魔法少女ハイエンドは複数人いる。
学園長を含む極々一部の者のみが知るその秘密。
クローンでは無い。これは、もっとおぞましいモノだ。
「じゃあ、バックアップも作っちゃうね。『変身』」
気だるそうに、懐を弄りステッキとカードを探す少女……ハイエンド。
「? あれ、無い………あっそっか」
「もう回収されているだろうな。呼び出せ」
「来て『ガパス』」
パンパン、と。二回ハイエンドが手を叩くとほぼ同時に、空間転移によりその場に亀のぬいぐるみが現れる。
正確には、ぬいぐるみでは無くマスコット。
魔法少女ハイエンド担当マスコット ガパス
「……」
「ガパス、私のカードとステッキを持ってきて」
「…………」
ガパスはすぐにまた何処かへ転移したかと思うと、ソファの上に腕時計とカード一枚のみが転移されて来た。
「相変わらずだな、お前のマスコットは」
「うーん、すごい嫌われてるなぁ」
他人事のようにいうハイエンドだが、天内は内心穏やかでなかった。
ガパスがハイエンドを見る目は、マスコットが魔法少女を見る目では無い。忌々しい化け物を見る目だ。
当のハイエンドは、気にも止めず、すでに腕時計にカードをかざしていた。
「じゃあ改めて、『変身』」
ハイエンドの体が瞬時に寝巻きから黒いセーラー服に変化する。
「『時』『領域拡大、範囲指定』」
さらに魔法を起動。ハイエンドの周りに、複数個の青いシャボン玉が出現する。
その内の一つが、滑るように移動し、膨らみ、さっきまでハイエンドが寝ていたソファを包み込んだ。
「『巻き戻し、十分前』」
領域内の時間が、十分間巻き戻る。
「『領域、解除』」
空気に溶けるように領域が消え、残ったのは、十分間時間が巻き戻ったソファとそこで眠る一人の少女。
ハイエンドは、少女の頬をぺちぺちと叩く。浅い居眠りだったのか、すぐに少女は目を覚ます。
少女はハイエンドと全く同じ顔をしていた。
「おはよう、十分前の私」
「…………『ハイエンド』が死んだの?」
「そうみたい。だから今は私が『ハイエンド』であなたが『バックアップ』」
「りょーかい。といっても私はただゴロゴロゆったりしとくだけだけどね。二度寝する」
「いーなー。いっとくけど、私が死んだら次はあなたが『ハイエンド』だからね」
「分かってるよ。頑張って死なないようにしてね」
これこそが『ハイエンド』のおぞましき仕組み。
範囲指定した上での時間操作。炎城を殺した時の逆の使い方で、魔法少女ハイエンドは、無限に自身を複製できる。
死が致命的にならない怪物。ある種の不死身であるが、個人としては毎回死を経験しているはずなのに、この軽さ。
ある種の超人。では無い。
何かが優れた超人とは違い、欠落しているのだ。人間性が。
試さなかった訳ではない。秘密裏に、魔法少女や軍人、天内自らで、同じ様に複製体を作る実験をした。
発狂、廃人、反逆、鬱
いづれかの理由で、複製体は役に立たなかった。当然だ。クローンや影武者では無く、複製体といってもそれは、時間軸が違うだけで本人そのものなのだ。
受け入れられるわけが無い。
唯一、魔法少女ゴロテスなら耐えられるだろうと予想できるが、魔法を使うハイエンドがそれを拒否した。
現状、この不死性を獲得しているのは、ハイエンドのみである。
「もし、その力を他の魔法少女が知れば、お前こそが『最強』だと呼ばれるだろうな」
本心からつい出た天内のその言葉に、二人の怪物は首を傾げた。
「「ありえない、『最強』はゴロテス以外に考えられないよ」」
そうして、魔法少女ハイエンドは復活する。
あくまで『最優』の魔法少女として。
豆設定
『バックアップ』は当然ながら一人では無く、さまざまな場所で、潜みながらもダラダラする生活を送っています。




