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第四話 

 アベレージは裏小道を歩く。

 極めて複雑な、ルートで街の奥深くに潜る様を、私は上空から覗いていた。

 それにしても、不思議な道だ。こうして目で辿っていても、見失いそうになる。


「もしかして、わざとそういうふうに作られてる、とか?」


 思わず、そんな予想が口を突いて出る。

 無論『沈黙』の効果で音としては意味をなさないが、独り言なので問題ない。


「あ、やっと店に入った」


 極めて無意味な独り言を呟きながら、私は周囲に気取られないようアベレージの後を追って店の前に降り立つ

 店の名前は『ニャンコカフェ ゆりかご』。


「ね、猫カフェ?」


 いや、いやいやいや。

 こんな入り組んだ路地裏に猫カフェがあるわけはない。

 これは、少女が入りやすい、若しくは入っても不自然でない店として猫カフェを選んだと見るべきだ。

 ただ、一応店として機能しているなら、正面から入るわけにはいかない。

 私は警戒心を強めて、店の裏口を探し始めた。


「あ、普通にあるんだ」


 裏口は普通に見つかった、意外と隠したりしない様だが、ここから入っていってもちゃんとアベレージのところに行けるかどうかが問題だ。


 ガチャリ


 そんなふうに考えていると、ちょうど裏口から黒いスーツを着た男が出てきた。扉の前で考えていた私と目が合う。


「やっほー、調子はどう? 聞こえないだろうけど?」


 男は私の方を指差して声を上げた。

 否、上げれてはいない。

 パクパクと口が動いただけで、声になっていない。


「えーと『だ、れ、だ、お、ま、え、は』かな」


 私の『沈黙』は私が出した音だけでなく、私が原因となった音も消す。この特性が普通に不便なのもあって、最近は読唇術の練習中だ。


「練習に付き合ってくれてありがとね」


 私は笑顔で伝わらないお礼を言うと、つま先で男の顎を蹴り抜く。

 本来なら骨が砕ける音がしたのだろうが、無音。

 男はそのまま後ろに倒れ盛大に背後のものを崩すも、無音。


「仕方ない、お邪魔しまーす」


 裏口を入るとすぐに、別の黒スーツが立っていた。

 男は何かを叫んで、銃を取り出す。

 その動作まで含めて、全くの無音。

 角度の問題で読唇術は使えなかった。残念。

 それにしても銃を使ってくれてよかった、これで少なくとも違法的な店ということに確信が持てる

 私は男を肘打ちで気絶させて、店の奥に進む。

『沈黙』は潜入に置いて強い効果を発揮する。

 それは、バレない、という意味だけではなく、一人や二人にバレても問題ない、という意味もある

 私は黒服をのしながら先へ進んだ。


 □ □ □


「いらっしゃいませ。お待ちしておりましたアベレージ様」

「御託はいいです。取引の続きをお願いします」


 猫カフェを通り過ぎて、事務所へ案内される。

 地下へと続く隠し扉を抜けた先にあったのは広く、立派な応接室であった。

 部屋の中心のいかにも高価そうな机とソファーでアベレージと紳士服の男が対面していた。

 周囲には護衛のためだろうか、黒スーツの男が数人、無表情で立っている。


「取引の件ですが、こちらはお望みの商品、『魔法少女メジアンの居場所』を用意しております」


 紳士服の男はニコニコと、翁の能面の様な笑みを浮かべる。


「対価として頂くのは『魔法少女アベレージの両手両足』」


 魔法少女の手足は売れる。

 魔法少女の多くは表舞台に出てこない。学園に選ばれ、本人の同意があれば『広報部』として人前に出る仕事ができるが、それは例外の類である。ただ、裏社会においては別だ。監視カメラやスマートフォンで撮られた魔法少女の戦いがダークウェブに腐るほど流れている。そうして表舞台に出ない魔法少女にもある種のファンがつき、そして悪趣味な遊びが流行る。金のない魔法少女の手足を買い取って、その状態で戦う姿を見せ物にするのだ。高い身体能力を持つ魔法少女を無理やり従わせることは難しいが、自分から切ってくれるなら問題ない。ついでに保存した手足は後で返すと言えば大抵の魔法少女は協力する。実際には客に売りつけるので返すことはないが、多くの魔法少女が手足を無くしたことが原因で早死にするので問題がなかった。


 男は笑みを絶やさぬまま、机の上に幾つかの書類と、液体がなみなみと入った巨大な瓶を並べる。

 この瓶に、今から切り落とす四肢を入れろ、ということだろう。


「対価は、用意できません。妹を助け出すのに、この手足は必要ですから」

「……ほう」


 アベレージの返答に、男は笑みを変えぬまま声だけを低くする。


「では、このお話は無かったことにすると?」

「いいえ、今回は代わりとなるものを持ってきました」

「……代わり? 今のあなたに代わりとなるものが用意できるのですか?」


 アベレージは黙って、カバンから異物を取り出す。

 ビニール袋と新聞紙に包まれた()()を男に手渡す。


「これは……?」

「首ですよ」


 手渡された袋の重さと大きさ、血痕付きの新聞紙から、男はソレが正真正銘の人間の生首だと直感する。


「……誰の?」

「『最優』の魔法少女の首ですよ」

「‼︎」


 その言葉に、初めて男の顔から笑みが消えた。


 □ □ □


「ウソォ!」


 応接室の扉の前で、私は思わず声を漏らした。

『沈黙』の効果が無ければすぐに部屋の黒スーツに見つかっていただろう。

 それにしても『最優』の魔法少女か。

 魔法少女学園には三つの切り札がある、と言われている。


 一つ、『最強』の魔法少女『ゴロテス』

 一つ、『最優』の魔法少女『ハイエンド』

 一つ、『最奥』の魔法少女(名称不明)


 その内の一つが落ちたとなれば、波乱は免れない。


「というか、後先考えなさすぎでしょう」


 つまり、ソレほどに手に入れたい情報があるということ。


「俄然、興味が湧いてきたな」


 私のスタンスは常に変わらない。

『理想の魔法少女』として動く。それだけだ。

豆設定

学園の切り札である『最強』『最優』は、自然に流れた噂ではなく、学園長の天内が故意に流したものである。

多くの魔法少女に目標や心の支えとなる存在が必要だとしての行動であったが、『最奥』の存在までもが流出したのは天内にとっても予想外であった。


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