第三十四話
「死刑だ、くそ魔法少女同盟」
魔法少女ゴッズ
『獅子』、『絶対』という強力な魔法を使用する学園の魔法少女。
傍若無人な態度と裏腹にその本質は、学園の敵を狩る猟犬。
「学園の犬が、いまさら出張ってきてどういうつもりですか? 魔法少女ゴッズ」
「そりゃ首輪が取れちまったからな、犬らしく、獲物を狩にきた訳だ」
軽口には軽口で。敵意には殺意で。
この事件に起きた一連の戦闘は二つ。
ダムド対炎城
パラメデス対銀騎士
そしてそのどちらもが、大きな実力の隔たりが間にある戦いであった。
ダムドは機転と作戦によりその実力差を乗り越え、銀騎士は乗り越えられずに敗北した。
そして、パラメデス対ゴッズ。
この二人の間に大きな実力差は存在しない。
「『獅子』」
「『狼』」
二匹の獣が激突する。
「ガァァァァ!!!!」
「グルルルルル!!」
互いの突進を正面から受けた両者は、それでも怯まずに、同時に相手の喉元へと食いつこうと牙を向いた。
それは、単なる獣同士の戦闘では無かった。
魔法少女は、『変身』の魔法により、強力な身体強化の恩恵を受けている。
その恩恵は、獣化した状態でも作用する。
結果としてその戦闘力は、通常のライオンやオオカミをはるかに超えて、小さな怪獣とも呼ぶべき存在同士の激戦と化している。
そして何より異様だったのは、その戦闘としての完成度。
獅子の前足の爪での一撃を、後ろに下がることで狼は避ける。
すかさず体格差を活かして死角に潜り込もうとした狼を、獅子の牙が阻む。
それをかわして、逆に鼻先に食らいつこうとした狼の牙を、寧ろ狼に頭突きするように弾いて防ぐ。
その攻防は明らかに野生のそれではなく、人間の論理的思考の上で成り立っていた。
故に、二匹の獣の攻防は止まることを知らない。
野生界では存在し得ない、致命傷を負わないようにする立ち回りの結果である。
二頭は距離を取り、再び人間の姿となって相対する。
二人は、同時に拳を前に突き出し、構えをとった。
それは、獣の力よりも、己の研鑽した武術のほう方が強力であるという自信。
二人の構えは、対照的であった。
パラメデスは空手のように、左半身を少し前に出し、正中線を隠しつつ、右の拳を腰のあたりで構える、合理的な構え。ただ、本来は正拳をかたどるはずの右の拳は、指先だけを曲げた『平拳』の形になっている。『浸透拳』の長いインパクトを実現する為の広く硬い掌底と、通常の隙の少ない拳での打撃を両立させる為である。
一方、対するゴッズの構えは異様。
とんっ……とんっ………とんっ。
ボクサーのように両拳を前に構える、それこだけみれば普通だが、問題は足。
つま先で地面を蹴って僅かに跳躍し、リズムを取っている。
それならば、まだ普通の構えだが、そのリズムが明らかに遅い。
地面を蹴って、着地して、また地面を蹴る。
この一連の流れを三秒近い時間をかけて行なっている。
物理法則を越えた異常、すなわち魔法。
ゴッズは『飛行』の魔法により滞空時間を制御していた。
人間の技術の果てに生まれた合理的な構えと、魔法という超常の上に成り立つ構え。
先に動いたのは、パラメデス。
狙いは、その跳躍が最高到達点に入る瞬間。放たれた矢のように、パラメデスの拳がゴッズに迫る。
最速、合理、必中のタイミング。
パラメデスが動き出すと同時に、ストンっと。ゴッズの体がゆっくりではなく、素早く落下した。
重力で落ちるよりも遥かに早く着地したゴッズは、迎え打つようにカウンターを合わせる。
「『浸透拳』」
「『風華』」
二つの拳が交じり合い。
そして、ゴッズの拳は空を切り、パラメデスの拳がゴッズの右頬を打ち抜いた。
「ガッ」
思わず、ゴッズは膝をつく。
本来であれば、一発くらった程度で膝を折ることはない。
だが、パラメデスの拳は衝撃を浸透させる。
右頬から後頭部まで。そこにあったすべての肉と骨と神経を、衝撃が巡る。
そしてもう一つ、パラメデスのカウンター返しが完璧だったことも、ゴッズの膝を折る要因の一つである。
「クク、知っていたな……」
薄れかける意識を根性で引き留めながら、ゴッズは立ち上がった。
「いや、知っているだけじゃここまで完璧に合わせられない。お前、私達の武技を、『風華』を会得しているな?」
ゴッズはその言葉を挑発のつもりで投げかけた。
『風華』は魔法少女学園の内部で創られ、今では希望者はカリキュラムとして習得できる。
それを、学園と敵対するお前が使うのかと、プライドはないのかと。
苦し紛れの安い挑発をしたつもりだった。
「はい。会得してますよ。『風華』は神が作りし武術ですから」
「……何?」
その挑発への返答は、至って真面目な狂気。
「魔法少女ゴロテスが作った武術。会得しないなど不敬に当たりますので」
「分かった、お前頭おかしんだな」
魔法少女ゴロテス。
その強さと異質さから、味方から高い信頼を得ている武闘系魔法少女の頂点。
だが、パラメデスは敵である筈のゴロテスに心酔し、それどころか神として信仰していた。
「いや、ある意味よかったわ」
ゴッズは、再び拳を構える。
その目には、まだ強い闘志の炎が宿っていた。
「同盟の魔法少女にしちゃ随分まともだと思ったら、ちゃんとイカれた脳みそ搭載してんじゃねぇか」
「まともですよ。他のメンバーと比べたら」
「五十歩百歩だろっ!」
会話を強引に打ち切って、ゴッズが一歩、力強く踏み込み、正拳を放つ。
「野蛮ですね」
心底軽蔑するように、パラメデスは言葉を吐き捨てつつ、距離を取る。
当然、敵との会話の途中に油断などしない。冷静に間合いを測り、
「え?」
その顔面に、ゴッズが正拳を打つフリをして飛ばした瓦礫がめり込んだ。
「油断しないって顔で油断してたなぁ、お前。コレぞ『風華 谷風梅』なんちゃって」
「………殺す」
パラメデスは許さない。
不意打ちを受けたのは、完全に油断していたこちらが悪い。
だがそれを今、冗談でも『風華』と名付けた事。それは即ち、神への侮辱。重大な背信行為。
「いいぜ、やってみろや」
もちろん、ゴッズのこれは先ほどの挑発が効かなかったことへの意気返し。
わざとである。




