第三十話
なぜ魔法少女ダムドは敗北したのか。
それは、幸運と必然であった。
『斬撃』の魔法による必殺技。たとえスカイツリーだろうが一太刀に両断するその異常な攻撃範囲と攻撃威力。
その異常な攻撃範囲が災いした。
駆け出した炎城の直感は再び死を予期していた。それは、ダムドがチェンソーを構えたその瞬間からだ。
炎城は足を止めぬまま、思考のみを加速させる。
自分はこのままだと死ぬ。何故だと。
その死の予感は尋常のものでは無い。炎城には回避の方法がまるでわからない。
コレがダムドの切り札か? それより他の魔法少女が奇襲を仕掛けるのか? 炎城が考えを整理する前に、その足は斬撃によって作られた穴へと到着する。
だからとりあえず、待ち伏せを牽制する意味で一発だけ、弾丸を穴に撃ち込んだ。
それは、第三者から見れば意味のない行動であった。否、むしろ商品に甚大な傷すらつけかねない、愚かな行動であった。
だが、結果として、その弾丸は持ち上げられたチェンソーへ衝突し、更にはその跳弾はダムドの脇腹にめり込んだ。
炎城にとっては幸運であり、同時に必然の結果である。
炎城には経験がある。
それは直感のようでいて、直感よりも確かなものだ。
『統計』と言い換えてもいいだろう。
今まで積み重ねてきた戦いの記録がその肉体に刻まれ、行動を最適化している。
だから
「くそっ」
その右腕を犠牲にしたとしても、炎城は勝利していた。
確かに、炎城の弾丸によりチェンソーは逸れた。
たが、その程度で直撃を避けれるほどに、『スカイリッパー』の攻撃範囲は甘くはない。
切断された右腕の断面から鮮血が、溢れる。
「勝った。俺は、確かに魔法少女に勝った、のに」
その血の流れは、命の流出に他ならない。
炎上はゆっくりと、穴の中に倒れ込み、その後階下の床に激突し、沈黙した。
屋上に残されたのは、最初に気絶させられた男と、1人の魔法少女のみ。
「まさか、相打ちがいいとは言いましたが、本当にそうなるとは思いませんでした」
残された魔法少女パラメデスは、予想外の結果にほくそ笑んだ。
「あるいは、今ここで攫ってしまうのもいいかもしれませんね。私達の『お姫様』を」
魔法少女『ダムド』、裏商会『闇市』、裏組織『墓場』、野良魔法少女集団『不統合同盟』。
様々な思惑の集ったこの事件、その終着は今、『同盟』所属の魔法少女、パラメデスの手の中にある。
少なくともソレが、落ちてくるまでは。
轟音と共に、それは落ちてきた。空を裂く流星のように。
ダムドによって真っ二つにぶった斬られた屋上を、豪快に破壊しながら、落ちてきたソレは。
銀色の甲冑を、身に纏っていた。
「どなたですか、あなたは」
「魔法少女」
□ □ □
皆さんお久しぶりです。私です、白銀鱗火です。
行き当たりばったりのクワガタ虫の計画に乗った結果、こうして役立たずの魔法少女もどきになった私です。
『急げ、オークションの取引が終わる前に資料を回収しろ』
私は例のホテルの一室で戸棚を漁っています。
ちなみに今は変身していません。そちらの方が都合がいいそうです。
「コレ、今何してるんです?」
『口よりも手を動かせ、商品にされた魔法少女を救いたいのならな』
いや、ソレはずるいんじゃないでしょうか。そう言われると反論しづらいです。でも手を止めないなら多少の雑談くらい許してほしいです。
『ソレだ』
とか考えてたら見つかりました、目的の文書。表紙には何も書いてません。本当にコレであってます?
『間違いない、コレだ、懐に入れて変身しろ』
「YES」
裏技、というらしいです。魔法少女が変身する際、元々着ていた服は消失、変身解除時に再出現する使用を利用して、大切なものを身につけた状態で変身し、ソレを不可侵の領域に保存するのだとか。
面白いこと考える人がいるもんですね。
『外に出ろ、空を移動して取引に使われそうな、かつここからそう離れていないビルをあたるぞ』
「YES」
またもや行き当たりばったりな作戦ですが、それしかなさそうです。
私はホテルの屋上から離陸し、ガノンさんの指示のままに他のビルに視線を向けたその時でした。
ナニカ、透明な何かが、空に打ち上げられました。
それは僅かな空間の歪みのみを従えて、空を駆け上がり、雲を両断します。
その光景は確実に、現実の物理法則を超えた神秘、魔法によるものでした。
『……あそこだな』
あそこですね。
□ □ □
「どなたですか、あなたは」
「魔法少女」
というわけで、現場に到着した私です。
でもコレ、どういう状況ですかね。
屋上は割れて今にも落ちそうですし、なんか穴開いてますし、私が着地した時にひびまで入ってます。
その上で気絶している男が一人、こちらに敵意マシマシの視線を向けてくる可愛らしい女の子が一人。
『敵だな』
ガノンさんが私だけに聞こえる音量で断言します。
いや、まだわからないでしょう。商品とされた少女かもしれませんし、助けに来た少女かもしれません。
「どこの組織の魔法少女かは知りませんが、この取引は『闇市』の膝下を借りて行われています。それを承知の上での行動だと受け取って構いませんか?」
敵でした。
それにしても好戦的です。
「聞こえてますか? 私は『同盟』所属の魔法少女パラメデスと申します。あなたの目的は商品となる魔法少女の略奪と考えても宜しいでしょうか」
すごいです、この人。
敵意満々なのにめっちゃ丁寧に名乗ってきました。
この誠意には同じ誠意で、こちらも堂々と名乗り返して、
「…………」
「…………あの、聞こえてますか?」
あ、私まだ魔法少女名決めてないんでした。
「なるほど」
あ、何やら納得していただいた様です。なんだ、結構話ができる人みたいですね。
私、一言も喋っていませんけど。
「会話する余地はない。ということですね」
「違」
ウ。
という前に、パラメデスさんは突撃して来ました。
速いです。僅かのうちに距離がつまり、そしてその拳が私の鎧の胸部に向けられます。
しかし、鎧相手に拳のスタイルとは予想外です。一撃を受けつつ、ひとまずは間合いを取ることを優先したければ。
「『順転拳』」
ポツリと、パラメデスさんはそう呟きました。
そしてその、異様なまでに回転をはらんだ拳が、鎧の中心に激突します。
当然、パラメデスさんの拳は私の体は一切動かすことは叶わず、私は再びの会話を求めて一時後退します。
そして私が口を開いたその瞬間。
トロリ、と。私の口の端から何か熱いものが滴りました。
「エ?」
僅かに遅れて、自分が吐血したことに気づきます。
原因は明白。目の前の魔法少女、パラメデスさんです。
でもなぜでしょう? 弾丸すら弾く、『鎧』の魔法を何故ただの拳が突破できるというのでしょうか?
あるいは、コレが彼女の魔法?
「違いますよ」
私の内心を見透かした様なタイミングで、パラメデスさんは教えてくれます。
「『順転拳』は鎧通しの拳。つまるところ、ただの技術です」
……マジですか?




