第二十八話
「うーん…… 朝ごはんはカレーとコーンフレークがいいな」
「……おはようございます」
どんな組み合わせだよ。というツッコミをなんとか飲み込んで、パラメデスはなんとかそう返した。
「…… うー」
「まだ、薬が抜けきっていないようですね」
パラメデスは安堵する。
魔法少女クラウンはまだ、動ける状態ではない。
だが、これで加勢する選択肢はよりとりにくくなった。
「闇市に雇われている身としては炎城さんを応援すべきなんでしょうが……」
安堵から思わず、パラメデスはポツリと呟く
「『同盟』としては、どちらも死んで欲しいですね」
□ □ □
炎城は、殺意を感じていた。
目の前のダムドではなく、パラメデスから。
ほんの僅かに発された、一瞬の殺気を炎城は敏感に捉えていた。
炎城は、一度でも自身に殺気を向けた人間を信用しない。
炎城はパラメデスを潜在的な敵と判断した。
つまり、それ程の余裕があった。
「あああああぁ!」
「ワンパターンだ」
ダムドの決死の猛攻を、炎城は軽々と避ける。
「結局のところ、不完全な魔法ではその程度か」
「くそっ……!」
四度
『斬撃』の魔法をダムドが発動してから、その衝突は四度行われた。
一度目、互いの能力を僅かに見誤った結果、炎城は傷をつけられ、ダムドは絶好の好機を逃した。
二度目、炎城は『斬撃』への理解を深め、ダムドは炎城の計算を根性で押し切った。
それは、気合いと執念が起こした、計算を凌駕する奇跡。
二度、ダムドは格上に勝つタイミングがあり、そして二度、そのチャンスを逃した。
不意打ちと奇跡は、一度きりの消耗品。
使い切った後の二度の衝突は、消化試合である。その二度で、炎城はダムドの魔法をすでに見切っていた。
一方のダムドの方は焦りと魔法から来る疲労により、大幅に体力を消費している。
殺せる。
と、炎城は確信する。
このままいけば、確実にその心臓を、あるいは脳天を撃ち抜ける。
だが、それは何もなければ、の話ではある。
ダムドの切り札が尽きたという確信。
その安心が無ければ炎城はトドメを刺しにいけない。
この思考は、炎城が特段臆病だからでも慎重だからでもない。
常識なのだ
対魔法少女戦においての、大前提。
その少女の形をした箱から、ナニが飛び出しても不思議ではない。
魔法少女は、非常識な存在だという常識。
だが、魔法少女にも限界はある。どんな切り札も、疲労すれば使いきれない。
だから炎城は、挑発することにした。
ダムドが切り札を使いやすいように
「所詮はこんなものか、魔法少女」
「……なに?」
「魔法少女『ダムド』は、コレで終わりか。それとも最初にやったあの、目視できないほど小さくなる魔法でも使うか?」
「!」
魔法番号64番 蟻
蟻化する魔法
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『蟻』は隠密、暗殺においては最強とも言える魔法。
だが、致命的に相性が悪い。
『蟻』の弱点は蟻化による耐久力の超低下。指で弾かれたらそのまま吹き飛ぶ軽さと大きさ。
殺意からこちらの場所を逆算できる炎城に対しては、その隠密能力も十全には発揮できない。
それを分かった上で炎城は口に出す。
あえて、『蟻』の魔法を侮ってみせる。
『蟻』の魔法に何かあるのであれば、仕掛けやすいと思わせる。
お膳立て、というやつだ。
「……再変身『蟻』」
その目論見が効いたか否か、ダムドは懐からカードを取り出し、チェンソーにかざす。
衣装の変化はない。
だが纏う雰囲気が明確に変わった。
攻撃的なものから保守的なものに
「……必ずだ」
「あ?」
「今は退く、だが諦めはしない。苗は必ず取り戻す」
「逃げるのか? ここまで好き勝手やって、俺に殺意を向けておいて、逃げられるとでも思うのか? 第一、こちらには人質がいる事を忘れたのか?」
「お前らは『商品』である苗に手出しできない。苗の価値はお前らが知っているはずだ。」
「……だから魔法少女は嫌いなんだ」
ダムドの言う事は間違っていない。ただ、間違っていないだけだ。
『墓場』としては棚ぼたで手に入った『無害認定をされた魔法少女』など、正直手にあまるのだ。
あまりに貴重すぎて、あまりに価値がありすぎて、力があるとはいえ比較的新しく、そこまで大規模な組織ではない『墓場』では十全に扱いきれない。
だからこそ、事前に情報を周知するなどといった簡単な裏工作も行わずにオークションに出した。
早めに売れれば多少の傷も許容できる。
ちなみに裏社会の『多少の傷』の上限は四肢一本、もしくは内臓ひとつ程度である。
「まぁ逃さないけどな」
銃口がよどみなく適切な位置に補正され、抵抗なく引き金が引かれる。
「『蟻』」
その瞬間、ダムドの姿が消えた。
「!」
想定よりも早い『蟻化』
炎城はダムドを完全に見失い、そこで初めてその可能性に思い至る。
「まさか……いや、そうか! 蟻化したまま飛べるのか!」
『飛行』の魔法は、全ての魔法少女が所有し、ほかの魔法との両立が可能である。
空を飛ぶ小さな蟻に、弾丸を当てられるか? 少なくとも炎城には出来ない。
炎城は銃を使う超人であっても銃の超人ではないのだ。
そして蟻は、炎城の頭上を舞っていた。
『ビルから逃げる』という潜在意識を植え付け、ビルの屋上から逃げ出そうと、周囲を見まわした炎城の意識の隙を突いた縦移動。
だからこそ、二人の戦いを、離れた場所から俯瞰していた魔法少女だけが、蟻の行方に気がついた。
「捕まえました」
魔法少女パラメデス
その右手が、蟻へと迫る。
『蟻化』した魔法少女は、確かに隠密や潜入には優れている。だが、完全な蟻化は、蟻の体の脆弱性までおも引き継いでいた。
すなわち、子供が踏んだら余裕で死ねる。
パラメデスの手は、蟻が何かをする暇すら与えず、その命を握りつぶした。




