第二十四話
『ここで最後だな』
「ジャア行キマスネ」
ビルの前で、輝く銀色の西洋甲冑が立っている。大きな体躯に無骨な鎧を装着したその姿は、都会のビル街にはあまりにもアンマッチであった。
そうです、私、白銀鱗火です。
私は、ガノンさんから伝われた、ある一つのビルの自動ドアの前に立つ。
当然、反応はありません。休館日なのでしょうか。
「オ邪魔シマス」
なので、ドアのガラスを踏み割って、無理やり押し入ります。
……これ、あとで弁償しなきゃだったりします?
「撃て!」
その瞬間閃光が、兜から覗く微かな視界を埋め尽くします。同時に走る幾重もの衝撃と轟音。これはキツイ!
みれば、黒服の男たちが、私の周囲四方八方でマシンガンを構えてます。というか撃ってます。
「その前撃ち続けろ! ここで可能な限り磔にするぞ!!」
銃声にも劣らないその怒号は、私の元まで届きます。男の大人に叫ばれると、なんとなく叱られた気がしますね。
「ドウシマショウ?」
視界は衝撃と閃光で揺らぎ、轟音は平衡感覚を奪われます。
ダメージが無くとも、この前ではまともに歩くこともできません。
困りました。ここは、ガノンさんに攻略の糸口を聞いてみましょう。
『自分で考えろよ、俺を頼るな』
「YES」
役にたたねぇクワガタ虫です。
「たしか……『アーマー・バッシュ』」
魔法少女の身体能力での踏み込みと、飛行の魔法を併用した、突進。銀の弾丸の如き突撃。
ただし、狙うのは黒服さんたちではありません。どこに向かって突進すればいいか分かりませんしね。
だから、『確かな基準』を基に方向を定めます。決して動かず、かつそこにあるとすぐに分かるもの。
足元の地面を蹴って、地面から離れる様にして、私は突進しました。
「! 天井を……」
驚いた様な黒服さんの声が聞こえます。そう、私は天井を突進でぶち抜いて、上階に避難したのです。
思ったより天井が硬くてダメージを受けましたが、なんとか逃れました。
『厳重だな、どうやらここであっているらしい』
「ドコニ行ケバイイデショウ?」
『商品は、最上階だろうな』
なるほど、流石に階段を探した方が良さそうですね。このまま何十回も天井を破るのはダメージが大きそうです。
「いたぞ! こっちだ!」
うえぇ!?
黒服さんたちがダッシュで近づいて来ます。
しっかりとマシンガンの銃口をこちらに向けてます。
ちょ、まだこっちは平衡感覚戻って無いんですが。
壁を触りながら、取り敢えず逃走します!
□ □ □
『墓場』幹部である炎城には、炎城以外の名前がない。
元の名前は『墓場』に入る時に捨てたし、忘れた。
だから極力、昔のことは思い出さないようにしている。
だが大きな仕事の度に、何故か頭を巡る、過去の記憶。
自分が特別だという確信と魔法少女への不満
幼少期は、幸せだった。
父と母と姉がいる、穏やかな時間。
回想しても、何も思い出せる事はない。それだけ特別じゃない、だからこそ特別な時間。
不幸の始まりは、母の死。そこから全ての歯車が狂った。
母が死んでから、父は明確に追い詰められていた。
仕事と家事に追われる生活。姉も手伝ってはいたが、それでも限界は出る。
やがて父は再婚した。
愛のない、家事をさせるための結婚。
だが、愛が無いと考えていたのは父だけだった。
父と義母の馴れ初めは分からない。義母は父を愛していたが、父は義母に構わなかった。
義母はそんな父に気に入られようと、家事をこなしつつも休日の父に絡んでいった。寂しがりの猫の様な、餌を与えられない犬の様な必死な様子は、なんだか見ていてとても息苦しかった。
見苦しかった、と言ってもいい。俺はそんな義母の事を好きになれなかった。姉はどうだったのか、今では分からない。
そんな日々が一日、一ヶ月、一年と続き、そして三年目を迎えた頃
義母の不満が爆発した。
「なぁ、何が悪いんだ」
がっしりと、肩を掴む義母
その目には疲れと狂気が渦巻いている。
「なぁ、教えてくれよ。あの人の子供なら分かるだろ」
分からない。だからこそ、ただ首を横に振ることしか出来なかった。
「なんだぁ、ソレ。『無理』ってことか? 私には出来ないってことか?」
恐怖が胸の奥底から湧き上がって喉を塞いで、首を振ることしか出来ない。
「なぁ、なんとか言えよ、何とか言えよなぁ!」
激昂と共に拳が飛んでくる。振り回す様な乱暴な動き、握りも甘く、ビンタに近いソレは、しかし幼い子供を怯えさせるには十分な重さだった。
思わず、尻もちをつく。腰が抜けて、立てない。
「…………」
そこで義母は、傷ついた様な顔をした。
意味がわからない。殴ったのは自分なのに。
情緒不安定
そんな状態が何日も続く。父や他人には愛想良く過ごし、普段の生活で唐突に不満を爆発させる。
特に激しく殴られたのは姉だった。
その差は身長。
成長期の姉は義母にとって、屈まず腕を振れば殴れるサンドバッグの様なもの。
決して、幼い弟を庇ったわけではない
その証拠に、姉は中学校を卒業すると同時に家を出て、上京した。
「いつか、きっと帰るから」
そんな戯言を残して。
姉とはそれ以来、一度も会っていない。
□ □ □
「メッチャ、重厚ナ扉デスネ」
『おそらくここが商品の保管庫だな。』
やっと着きました!
マジ迷路みたいな構造のビルでした。ゴミの様なユーザビリティです。もしかしたらわざとこう作ってるんですかね。建築法はクリアしてるんですかね、可愛い女子の突進で天井破れるあたり、怪しいかもしれません。
『ただ、コイツをどうするかだな』
「デスネェ」
『…………』
「ドウシマシタカ?」
『いや、中の魔法少女に怖がられねぇかなと思ってな』
……あぁ、なるほど。今の私は魔法少女だけど魔法少女じゃ無いんでした。
想定してみましょう。
閉じ込められた暗い部屋。誘拐された少女が微かに差す光に顔を上げると、
そこに立っていたのは甲冑鎧を着込んだ、2メートル近い巨体。
『大丈夫デシタカ』と尋ねる声は地の底から響く様に低く、カタコトに聞こえる。
……これはダメです。どう考えてもキラキラした魔法少女のすることじゃありません。
『鎧はどうにもなんねぇ、せめて声だけは抑さえろ。今後、人前に出る時はな』
「…………」
『俺といる時はいいんだよ』
「YES」
決めました。私はもうカッコいい路線で行きます。目指すべきはヒロインではなくヒーローなのです。
そうと決まればビシッと背筋を伸ばして、この扉を…………扉を?
『開いているな』
「……中、誰もいないみたいですね」
『……だな』
私の気合い、どこに向ければいいんでしょうか。
□ □ □
「すやすや」
「嘘だろ寝やがった」
商品として輸送されている最中だというのに、クラウンこと安藤苗は眠りに落ちていた。
「……落札者との連絡、取れました。このまま予備のビルへ移動します」
「おう、了解した」
法少女クラウンとパラメデス、そして炎城。
彼らは今、犯罪者を収監するための車、所謂護送車に乗っていた。
当然、載せられているのは犯罪者ではなく魔法少女である。
「……今更ですが、よくこんな大きい車、運転できますね」
パラメデスは助手席でノートパソコンをいじりながら、運転席の炎城に疑問をぶつける。
「あ? あぁ、俺の前職はバスの運転手だからな。それに比べりゃ易いもんだ」
「運転手さん……意外ですね、魔法少女に慣れている様なので元々そっち系の人かと」
「俺は、魔法少女が嫌いだ」
「私は結構好きですけどね」
それは炎城に向けられた言葉か、それとも魔法少女に向けられた言葉か。
炎城がそれを聞く前に、パラメデスは再びパソコンへと視線を戻した。
「情報が入りました、襲撃犯により、先程までいたビルが襲撃されたと」
「間一髪か、あとは時間と尾行に警戒しながら行くしかねぇな」
「うまく逃げれてよかったです」
炎城は、大人である
子供の相手をいちいちするほど、暇ではないのだ




