第二十三話
「どこのバカだ!」
ドン、とダムドが拳を机に振り下ろした音が響き、足元の男がビクリと体を震わせる。
パソコンの画面には、『想定外のトラブルにより、オークションのタイムスケジュールを一部変更』の文字。
他のネットワークからの情報によると、どうやら一部商品が襲撃にあったらしい。
このままでは、オークション自体が中止になりかねない。
襲撃犯の目的はおそらく苗。その目的が救出にしても奪還にしても、邪魔。思わず、ダムドは奥歯を噛み締める。
その時、パソコンの画面が更新された。
『目玉商品、『魔法少女クラウン』のオークションを、五分後に開始する』
「…………は?」
□ □ □
「いいんですか? オークションの予定を変更するなんて」
「仕方ねぇだろ、オークション止めれねぇなら、せめて襲撃が起きる前に終わらせて、速攻で商品を輸送しきるしかねぇ」
「「なるほどー」」
他人事のように納得するパラメデスとクラウンに、思わず炎城はため息をついた。
あくまで雇われの護衛であるパラメデスはともかく、『商品』であり、今も牢に閉じ込められたクラウンまでもがここまで呑気なのが、炎城には理解できなかった。
「ふっ、なぜ私がここまで優雅か、分からないようだな」
「……まぁ、分からんな。何故だ?」
「それは、私が選ばれた魔法少女であり、どうあっても勝利する運命である為だ」
一応大人として会話を試みたものの、チャンネルが違い過ぎて会話が全く噛み合わなかった。
「「そっかー」」
今度は炎城とパラメデスがハモった。
パラメデス、無表情ながら空気の読める魔法少女である。
「……来るぞ」
「あ?」
「きっと来る、必ず来る、絶対に来て、助けてくれる」
「何が、来るってんだよ」
「私が来ると信じたらいつだって、絶対に助けに来てくれるんだ」
「……だからぁ、一体なにがくるってんだよ!」
「ふっ、決まっておろう」
その瞬間、パラメデスが声を上げる
「オークション開始しました。初動は……十億」
「はぁ!?」
驚愕する炎城とパラメデスをよそに、あくまでマイペースに、クラウンは会話を続ける。にやにやと、不敵な笑みを浮かべながら。
「私の親友たちは、絶対に来る」
□ □ □
「なるほど……襲撃をされる前にオークションを終わらせるつもりか」
パソコンの前で、ダムドは冷静に分析する。
中止しない意味はまるで分からないが、対応策は用意してきたらしい。ならば、その策に全力で乗っかるのみだ。
「オークションスタート、まずは千万からか……」
ダムドは無言で金額を打ち込む。値段は『十億』。ダムドの後ろでこっそり覗いていた男が悲鳴を上げたが、無視する。
最速最短で落札する。それこそがダムドにとっての最適解。躊躇する理由は一切ない。
「苗を助ける」
ダムドの目的は、それだけ
それだけのために、後先を考えずただ行動する。
「待、待て! 待ってくれ! 用意したのは五億と言ったはずだ! 話が違う!」
「はぁ?」
するりと、自然に抜き放たれたチェーンソーの刃が、男の喉笛に突きつけられる。僅かにでも首を傾ければ、高速回転する刃が男の喉を切り裂くだろう。
「話が違う? おかしな事を言う肉塊だな。私はお前と話をした覚えはないぞ」
「で、でも、流石に十億は……」
「『命の値段』とも言ったはずだが?」
「さ、さっきは、話しはしてないって」
男の首に、僅かな傷が入った。
余計な事を言ったらしい。
「用意できるだろう?」
「出来る、確かに出来るが……」
チェーンソーの回転が上がる。
口答えを遮るように
「ならばいい。もう少しだけ協力してもらうぞ」
パソコンの画面に『落札おめでとうございます』の文字。
その文字を見て、ダムドはそっとチェーンソーを男の喉から離す。
「場所の指定が来た。三十分以内に金を用意して車を出せ。逃げたら殺す」
慌てたように部屋を出た男を尻目に、ダムドは静かに思案する。
「……念の為、アレも持っていっておくか」
そういうと、ダムドは変身を解除した
□ □ □
「嘘だろオイ……十億?」
「すごい」
「ふむ、十億か、どうやら我に相応しい値がつけられたらしいな」
「こっちもある意味すごい」
「…………いや、初手十億はいくらなんでもあり得ねぇだろ。オークション全否定じゃねぇか」
「こちらの事情を汲んでくれたのでは?」
「そうだろうな、だがそれでも客は客。インフレする理由になっても、一撃で決める理由にはならねぇだろう」
炎城は、腕を組んで何かを考え込んでしまう。
「何がなんでも取引を成功させるっていう執着、どこから来るものだ? ……オイ嬢ちゃん」
「うん?」
「はい」
炎城の呼びかけに対して、二人の少女が返答を返す。
「……パラメデス。落札者の情報は分かるか?」
「分かりますが……申し訳ありませんが、お教えすることは出来ません」
いくら馴れ合っていても、それぞれの立場はまるで違う。
炎城は、『墓場』の幹部で出品者
パラメデスは、『不統合同盟』のメンバーで、『闇市』に雇われた代理兼護衛
そしてクラウンに至っては『商品』
炎城もそれを忘れていたわけではなく、むしろパラメデスの少女としての甘さに期待しての発言だった。
仲良く見えても、所詮は他人。もっとも『商品』である少女だけは、そう考えていなかったが。
「まぁ、だろうな」
「ドンマイだ、切り替えていこう」
「……」
たからこそ、自分を売り払おうとする人間に対しても、友人のように接する。異様なまでに距離感を詰めるのが速いため、敵と味方を量産しながら生きていく。
それこそが安藤苗、魔法少女クラウン。
だが、そんな彼女にも『特別』はいる。
信じてやまない『特別』の来訪に、今も胸が高まっている。
「さぁ、いつ来るのかなぁ。私の友達は。会うの久しぶりだなぁ」
炎城とパラメデスは、人外を見るような目で、その様子を眺めていた。
□ □ □
コンコンコン
と、軽やかなノックの音が響いた。
「入れ」
書類仕事の手を止めて、現魔法少女学園理事長『天内遥』は、入室の許可を出した。
「失礼します」
入ってきたのは、制服を着た、育ちの良さそうな少女。
ただし、全身に敵意のようなものを漲らせ、周囲のもの全てを傷付ける様な雰囲気を纏っていた。
一目で『機嫌が悪い』と分かる少女。
彼女の名は魔法少女『ルリナ』
誰よりも『正義の魔法少女』を志す者である。
「……何のようだ」
「魔法少女がオークションに出されたというのは本当ですか?」
「デマだ、帰れ」
「……火のないところに、煙は立ちません」
「そうでもない。ガキに言っても仕方ないだろうがな」
「……何か、私たちに隠しているのではありませんか? 魔法少女になりたての子が、学園に入る前に誘拐されたと聞きました」
どこか不満そうに、文句を言うルリナ。そこには目上の人物への敬意など感じられない。如何にも慇懃無礼といった体だ。
「……マスコットと学園は二つの契約がある」
一つ、マスコットは魔法少女に魔法を授けた際、学園に勧誘しなくてはならない。(ただし強要ではなく、またその後マスコットは学園に干渉しない)
一つ、魔法少女が死亡した際、極力その死体を学園まで運ぶ。
「この契約がある限り、誘拐された魔法少女が居たとしても、それは野良の魔法少女だ。学園に保護の義務はない」
「……なるほど、野良なら誘拐されても仕方ありませんね」
「っ……分かったなら、出ろ」
「はい、失礼します」
ルリナが退出した後、天内は一つため息を吐いた。
「これも、ある種の精神病だな」
魔法少女は、多かれ少なかれ、ルリナと同じような精神性を持つ。
それは『全能感』
異能の力を得て自分が特別だと、なんでも出来ると思い込む。
問題は、その期間と方向性。短ければ一日も持たず、長ければ一生引きずる。
そうして『正義の魔法少女』に固執する。
方向性が違えば、そういった社会や正義に反逆する。
魔法少女なんて、碌でもない
「……いや、碌でもないのは大人も同じか」
天内は嘘をついた。
確かに、誘拐された魔法少女はいる。
だが、マスコットはいなかった。
その魔法少女の周りにマスコットは姿を現していない。
当然、学園への勧誘も行われていない。
「『安藤苗』……一体何者だ?」
豆設定
闇市も昔は地下に巨大なオークション会場を造り、すべての競りはそこで行なっていたが、色々あってキレて変身したゴロテスが潰した。この出来事により、学園は裏組織に対して圧倒的優位な立場を得た。これ以降はオークションの規模を落とし、リスクを分散し、護衛を増やした。
豆設定
五億でも落札できた




