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第二話 

「ただいま帰りました」

「お帰りなさいませ、お嬢様」


 私の帰りを出迎えたのは家令の椎奈さんだった。あらかじめ父が伝えていたのか、玄関で待っていてくれた様だ。

 彼女には私も世話になっている。この屋敷で唯一の味方だ。

 その証拠として、彼女は決して私の名前を呼ばない。


「食堂で旦那様がお待ちです」

「あぁ、すぐ行きます。荷物を私の部屋に運んでおいてください」

「かしこまりました」


 身支度を整えて、食堂に向かう。

 気分は勿論、最悪だ。


 □ □ □


「魔法少女を辞めろ、莉奈」


 開口一番

 父は私の顔を見るなりそう宣った。

 これだから、この人は嫌なんだ。


「もうお前も中等部に入る、危険な遊びにかまける余裕はないはずだ」

「……問題ありません。成績も、一定のラインをキープしています」

「無駄を切り捨てろと言っている」


 父はかちゃかちゃと音を立てて食事をする。

 椎奈さん曰く、これは父の悪癖らしい。婿養子として結婚した後にマナーを学んだ父は、感情が荒ぶるとマナーが保てなくなるらしい。

 つまり、怒り心頭というわけだ。


「18まで魔法少女を続けさせるつもりはない。中等部に入るまでに辞めろ」

「待って下さい! いくらなんでも急すぎます!」

「話は以上だ。これに関してはお前の意見を聞く気はない。これは家長としての命令だ」


 ギリリ、と。

 思わず、奥歯を噛み締めてしまう。

 その衝動に身を任せる様に私は席を立ち、食堂の扉に手を掛けた。


「待て、食事は取らんのか。椎奈がお前の為に用意した物だぞ」

「後で自室でいただきます」


 私は父から離れたい一心で食堂を後にした。


「お嬢様……」

「ごめん椎奈さん。後で私の部屋に食事を持ってきてちょうだい」

「……はい。かしこまりました」


 自室に戻った私は着替えも忘れて自分の枕に顔を埋めた。


「変身、したいなぁ」


 私の居場所は、きっとここじゃない。

 学園に戻りたくて仕方がなかった。


 □ □ □


 雨の中、一人の魔法少女が街を彷徨っていた。

 赤い、ファンシーな衣装を身に纏うも濡れて肌に張り付いたそれは、とても魔法少女に見えなかった。

 じっとりと濡れて細くなったその姿は、剣呑な目つきも相まって飢えた犬の様にも見えた。


「どこ、どこに行ったの?……『メジアン』」


 探しても探しても見つからない、彼女にとって他の何よりも大切な双子の妹。

 もう一週間も見つからない行方不明の妹。


『妹探しには付き合えない。妹が見つかったとしても他の魔法少女に手は貸させないし、お前が動くことも禁ずる』


 先日学園長から言われた言葉が、頭の中でリフレインする。

 当然だ。魔法少女は警察じゃない。

 魔法少女の仕事は、怪異を殺すことと野良の魔法少女を取り締まること。

 それ以外のことに対して特権など持ち合わせない。

 行方不明は警察の領分だ。

 理屈は分かっている。だが納得など出来るわけがない。

 そうして、魔法少女『アベレージ』は今日も彷徨う。

 愛する妹を探し続ける。


 □ □ □


「出てきちゃった」


 私は今、屋敷を飛び出して街へ繰り出していた。

 開放感と背徳感が、私の中でないまぜになって渦巻く。

 部屋に戻った後、変身したいという欲に駆られて思わず変身。その後、魔法少女の飛行能力で窓から飛び降りて、そのまま正面から門を開けて出て行った。

 門を開ける際に発生する警報や開閉音に関する心配はいらない。()()()()ならそんな問題は全く問題にならない。


「さてと、どこに行こうかな」


 屋敷から抜け出したことに後悔はない。

 あんな空気のない水槽の様な家に用はない。私は魔法少女、名前はルリナ。

 決してそれ以外の何者でもない。


「今日、寝るところ探さないとね」


 もう家に戻るつもりはなかった。かと言って魔法少女としての仕事を療養している現在では学生寮を借りることも難しい。

 幸い、魔法少女として働いて出た給金はそれなりにある。

 これを使えば、一週間ほどホテル暮らしを送ることも難しくはない。

 ちなみに家からもお小遣いが毎月振り込まれているが、これらは全て手をつけずに残してあるし、今後も使う予定はない。

 問題は、ホテルがなかなか見つからないところだった。

 最悪、一日中街を歩き回ってもいいかもしれない。そんな思いまでよぎるなか、私はコンビニで買った傘を携えて、夜の街を楽しむ。大人からちょっかいをかけられる心配はなかった。魔法少女に変身していれば、大抵の人間は手を出してこない。

 自分より強い物には怯えて道を開ける。人間なんて大体そんな物だ。


 だから、後ろから唐突に手を掴まれた時、心臓はうるさいほど跳ね回った。

 じっとりと濡れた手袋の不快感に、思わず振り解こうとしても、全く動かない。


 私の手を掴んでいたのは、獣の様な目をした魔法少女だった。


 こうして、私、魔法少女『ルリナ』と彼女、魔法少女『アベレージ』は出会った。


 □ □ □


 きっと私達この時、出会ってはいけなかった

豆設定

学園に所属する魔法少女は、多くが何らかの任務を任されているが、保護者や本人が拒否すれば任務は免除され、学園に行く必要もなくなる。

ただし、この場合も魔法少女学園に所属していることに変わらないので、卒業式や緊急的な用事では呼び出される。

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