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第十九話

「というわけで、俺はお前の命を救った後、即死攻攻撃持ち、結界持ち、広範囲拘束持ち、瞬間移動持ち、未来視持ち、身体変形持ちの口裂け女と死闘を演じ、お前の指を使ってスマホのロックを解除して家を突き止め、敷きっぱなしの布団まで連れてきてやったぞ、崇め奉れ」

「ははー」


どうも、白銀(しろがね)鱗火(りか)です

天国のお父さんお母さん

私は今、メカでできたスタイリッシュなクワガタムシに平伏しております

このクワガタは私の事を助けた上、聞いた限りラスボスみたいな口裂け女と戦ったらしいです

私の知ってる口裂け女と違いすぎます

後しれっと犯罪です


「さぁ、自己紹介の時間だぜ、リカ」


こちらの名前を一方的に知っている相手に自己紹介をするのは初めてかもしれません


「俺の名は『ガノン』マスコットのガノンだ」

「あ、よろしくお願いします。私は」

「お前の自己紹介はいらん。お前は俺の自己紹介を聞けばそれでいい」


歩み寄る気が全くありませんよ、このクワガタ


「俺は無駄が嫌いだ。お前には最短で『最強』の魔法少女になってもらう」

「『最強』?」


言葉の意味が分かりません

魔法少女の目標って、もっとほんわかしたものだと思ってました

今から世界平和とか、健康第一とかに変えられませんか?


「俺は俺の指示に従わない奴が嫌いだ。俺がいうことには常に『YES』で答えろ」


これまたイメージと違う言葉が出てきました

スパルタ野球部の監督みたいなこと言ってます


「…… ほう、こんだけ脅しても眉一つ動かさないとはな。胆力だけはあるようだな」


違います、ガクブルです

表情が硬いだけです

ほら、見てくださいこの目、今にも泣き出しそうなこの瞳を

伝われ! 私の思い! 

…… 今の、すごく魔法少女っぽい気がしませんか?


「ではまずは特訓だ、移動するぞ」

「あの、学校は……」

「ザボれ」

「いえ、でも」

「返事は」

「YES!」


なんでしょう、案外やっていけるかもしれません


□ □ □


というわけで、廃墟にやってきました

別に田舎でもないのに廃墟とか探すの大変でした

ほんとに

何故か変身も禁止されていたので、二時間近く歩きました

言われた時には、パニクってスマホのマップで『廃墟』と検索してしまいまったぐらいです

廃墟カフェとか出てきました、雰囲気良さそうなので、機会があれば行ってみたいですね


何はともあれ到着です

廃墟です、結構すごいです

元は立体駐車場か何かでしょうか

かなり広めです


「ここならいいな、早速変身してみろ」


いよいよです。緊張しますね


「ではいくぞ!」

「YES! え?」


思わず返事をしてしまいましたが、意味が分かりません

私今、何も持っていないんですけど

どうやって変身するんでしょう

というかいくってどこに?


とか思っていたらガノンさんが突っ込んできました

そのまま私の右腕に、六つの足を絡ませて腕輪のような状態になります

ハッキリ言って、かなり怖いです

足が思ったより昆虫的で、背筋がゾワゾワします


「え、何で私の手に止まるんですか?」

「俺はステッキ一体型のマスコット。このまま右手を上にあげて『変身』と叫べ、それで魔法少女に変身できる」


うわ、恥ずかしい

いや、ちょっと待ってください

魔法少女の変身アイテムってもっとファンシーな奴じゃないですか

なんでこんな、某浮気性な蜂さん型変身アイテムみたいなのなんです?


「もしかして、別空間から空間を切り裂いて手元に現れたり、壊されても未来からやってきたり出来ます?」

「バカなこと言ってないでさっさとやれ」

「YES」


覚悟を決めましょう

相手は命の恩人


それに実は、魔法少女ってちょっと憧れますし


魔法少女、どんな衣装になるんでしょうか

私、知ってますよ

魔法少女の衣装は、本人の資質や性格、嗜好によって変化するんですよね

オーソドックスな甘ロリ系になる事を願います


「『変身』!」

「承認する」


私が腕を振り上げ、叫ぶと同時に、私の体が光の粒に包まれます

きました、きましたよ


いよいよ初変身です!

私の体を光の粒が覆って、覆って、


なんか、量多過ぎません?

体全体を包んで、え? 顔まで覆うんですか?

やがて全ての光は合体し、一つの衣装を


「エ?」


視界、狭!

暗いです、怖いです、何より暑いです!


「コレハ…… !」


声も、なんか変です

くぐもって、自然と低くなっちゃいます!

頭を何かが覆っていて、息苦しさも半端ないです!

これ、どんな衣装です?


わずかな隙間から、手が見えます

白銀の金属を纏ったその腕が


「…………」


グー、パー、チョキ。ついでに狐、指ハート、グット

間違いなく、私の手です


「問題なく動作するようだな」


えぇ、動作は問題ありません

可動の邪魔をしない程度の、適度な隙間がプレートの間にあるので、疎外感は結構少なめです

ガチャガチャ音はしますけど


よっ、イナバウアー!


「……何をしている?」

「動作確認デス」

「そうか、やめろ」

「YES」


というか、なんかおかしくないですか?

視線がいつもより10センチ以上高いです

腕も普段の倍くらい太いです。こんなん丸太ですよ、あのちょっと細いタイプの


「……肉体ガ、変形シテイルンデスカ?」

「鎧を装着する為に肉体が最適化されたようだな」


え、何それ怖いです

声が低いのもそのせいだったんです?

もしかして、私今、ぶくぶくのおデブちゃんになってるのでは?

鎧を外そうと指を引っ掛けてみますが、びくともしません


「無駄だ。()()()()()()()。変身を解除する以外はな」


残念なような、ほっとしたような気分です

というかガノンさんはどうなってるんです?

右腕の鎧の下から声がするんですけど

もしかしておデブちゃんになった私と鎧の間に挟まれてるんですか?


「ふむ、では次に魔法を使ってもらう。『騎士(ナイツ)』と言ってみろ」

「YES。『騎士』」


シーン


失敗です

何も感じません


「成功したな」


成功でした

ステッキとマスコットを兼業するガノンさんには分かるみたいです


「では次に『(ソード)』って言ってみろ」

「ソ、『剣』」


瞬間、私の手の中に、ずっしりとした感触がしました

見れば、美しい装飾の銀剣が握られてます

持ち上げてみると、とても軽いです

私はおデブちゃんじゃなくて、マッチョウーメンになってるんでしょうか

それとも、これも魔法の効果かもしれません


これが私の魔法『騎士』の力というわけですね


「このほか、『(ボウ)』、『戦斧(ハルバード)』、『巨盾(シールド)』、『短剣(ダガー)』と言った武器を状況に合わせて召喚できる」

「ナルホド。モウ片方ノ魔法ハナンデスカ?」


魔法少女の魔法は一人二つ。私、知ってますよ

TVで見ました


()()()()()()()()()()()

「エ?」

「お前のもう一つの魔法は、極めて危険なモノだ。俺が許可するまで、使用することはゆるさん」

「…………」

「返事は!」

「イ、YES!」


これはあれですかね。よっぽど強力だけど暴走するとか、消耗が激しくて使えるのは一度限りとか

そんな制約がある魔法なんでしょうか。浪漫を感じますけど、ちょっと残念ですね


「ひとまずは、こんな所か。変身を解け」

「YES………… ドウヤルンデス?」

「……『変身解除』って言うだけでいい」

「『変身解除』」


私がそう呟いた途端に、鎧と剣が、光の粒子となって崩壊し、空中に溶けるように消えてしまった


「あー、あーあー」


良かった、声も見た目も元に戻ったみたいです

ちょっと不安でしたが、杞憂でよかったです


「では、今日はここまでだな」

「はい、学園に行くのは明日です?」

「……何?」

「? ほら、魔法少女になったのなら、まずは『魔法少女学園』で登録しないといけないんですよね?」

「……あぁ『魔法少女学園』か。駄目だ」

「……はい?」

()()()()()()()()。登録は許さん、代わりに俺が仕事を振ってやる。いいか、学園の連中には極力近づくな」


魔法少女は学園に通わなければならない


実はこれ、日本の法律で定められています。物によってはちょっとした島一個消せる様な魔法を、無闇に振らせないための制限

それを破るのは犯罪にあたりますし、何より『野良』として嫌われます


私の魔法少女ライフは、早くも暗雲が立ち込めている様です


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