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第十四話

「いや、ほんと思ったより強くてびっくりしたよ」


ザリザリと銀騎士の巨体を引きずりながら、ゴロテスはそう語る。相手は銀騎士ではなく、携帯電話の向こう側の人物である。ゴロテスが楽しそうに会話をするその人物は、ゴロテスが世界で()()()に信頼している魔法少女でもある


「うん、ちょっと厄介なことになっていてね。出来れば、手が空いてる魔法少女『ゴッズ』か『テラ』辺りのそこそこ強い魔法少女をこっちに送って欲しいんだ。うん、詳しい話は後で共有しよう」


電話の向こう側で、いくつかの質問が行われる。その間も、銀騎士は引きずられるままでいる


「銀騎士を引き渡さないと自由に動けないからね。その二人が無理なら、『White』の方で手を貸してもらえないか聞いて欲しいな。出来れば『パレード』あたりがいい。……?ちょっと待って、いったん切るよ」


ガクン、とゴロテスの動きが機械的に止まる。木の根か何かに引っ掛かたのか、銀騎士を引きずっていた鎖が動かなくなったのだ

見れば、銀騎士の足が太い木の根に引っ掛かかっていた。この程度なら、一度木の根を外せばいい。そう思い、一歩近づいたところで、ゴロテスは動きを止めた。ある可能性に思い至った為だ


「もしかしてさ、君、もう起きてたりする?」


じっと、銀騎士の姿を観察する

鋭く、見下す様に


「気絶するフリをして、僕が近づいたところを、ズドンと不意打ちする。なんて、僕の考えすぎかな」

 

ゴロテスは思考を声に出して垂れ流す。倒れている銀騎士に聞こえる様に明瞭に、言葉を響かせる


「なんとなく、君がそう言うことをするタイプじゃ無いってのは分かる。正面からぶつかったから、君が悪人じゃ無いことぐらいは、分かるんだ。そして同時に今君が僕を騙し討ちしようと考えているのも、なんとなく感じる」

「…………ふざけやがってヨォ」


むくり、と。緩慢に、されど無駄のない動きで、銀騎士が立ち上がる。その動きからは、先ほどの様な高潔さの様なものはなく、気だるげな雰囲気を感じられる


「何が『分かる』だ、てめぇ、魔法少女に変身してねぇのにその強さ、その勘の良さか。チートキャラじゃねぇか。やってられねぇぜ、ごみクソガァ」

「随分、声が変わったみたいだね」


さっきまでの銀騎士と、その言葉遣いは大きく変わっていた。低く、カタコトだった先程と違い、今は高さも口調もフラットで、まるで重さを感じられない

思考がそのまま口を突いて出た様な、悪辣な言葉も、大きく威厳を損なっている


「そりゃ、()()()()()()()()()()()()違うのは当然さ」

「…………」


ゴロテスの思考が回転する。今、銀騎士は自分のことを『コイツ』と表現した。ならば、今話しているコイツは銀騎士ではなく、別の何かであるのか?

例えば、人を乗っ取る類の怪異

聞いたことはある。人間の体内に寄生し、脳を喰らい、そして、その怪異自体が新しい脳になると言う話を

しかし、今の口ぶりではまるで『共存』している様にも聞こえる

怪異との『共存』そして『共生』

そんなことが、果たして可能なのだろうか


「銀騎士、君は……」

「ソレ」


如何にも苛ついた様子で、銀騎士はゴロテスの言葉に口を挟んだ


「やめてくんねぇかな」

「……ソレ、とは」

「その『銀騎士』って言うのだよ。いや、まあ、俺はねたまには、そういうワイルドな名前も悪くねーなぁって思うけどよ、コイツはそういうタイプじゃねぇんだよ」


自分自身を親指で指を刺しながら、銀騎士はそう宣う

それに対して、ゴロテスは目を細め、注視した


「なら、なんと呼べばいいんだ?」

「あ? お前らはいつもやってる様に、魔法少女名で呼ぶもんだろうが、いや、まだ名乗ってねぇのか。まぁいい、初名乗りは本人ではなく、俺が代わりにやってやる」


文句は後で受ける。と言う銀騎士の言葉に、ゴロテスは耳を傾ける

名前には、意味がある

適当でも、当て字でも、捩りでも、真似でも

そこには、意味があるのだ




「こいつの名は、『グレイプニル』

 魔法少女グレイプニルだ、以後、よろしく」



そう、宣言すると同時に、銀騎士、否、グレイプニルは飛び上がる

不意打ちに近い行動も、今の銀騎士は躊躇いなく行える

故にゴロテスは、ソレを読んでいた

銀騎士が飛び上がるのと全く同時に鎖を引き寄せ、逃さんとする

しかし、


「弱点、自分で教えてくれて、ありがとよ」


分離(パージ)


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

正確には、左腕につけられた甲冑が、その身から弾ける様にして分離した

そのまま足から炎を噴射し、グレイプニルは一気に上昇する


「空、飛ばれるとキツイんだってな」

「!」


迂闊、明確な敵対前とはいえ、ゴロテスの発言はあまりにも迂闊だった

確かに、言った

自分の口で、『高高度に行かれると追いつく手段がない』と言う旨のことを


ゴロテスは今回、あまりにも失敗が多い


「うわ、これこっから取り返せるかな」


取り敢えず、と

ゴロテスは電話を取り出し、さっきまで話していた番号にかけ直す

数度のリコールの後、相手は電話に出た


「さっきの話、無しでいいよ。今すぐ『解除』して、情報を共有しよう。うん。いや、あの。うん。逃げられちゃった。ごめんなさい」


電話の向こうで、呆れた様なため息が聞こえた


「いや、魔法が使えない状態にしちゃ、頑張った方だと思うけどね僕。うん、いや、言い訳じゃなくてさ。ちゃんと『見極め』もある程度出来たしね」


グレイプニルを見極める

ソレが、天内学園長から言い渡された仕事であった


「ひとまずの達成率は……七割くらいかな? さっきまで九割だと思ってたけど、謎が増えちゃったよ」


二重人格の様な言動

『鎧』と『炎』の魔法

マスコットやステッキ

まだまだ調べることはある


何よりも


()()()()()()()()()()

新たに露出した腕


「……もし、あの腕が、あの姿が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


ゴロテスは、自分の目で見た光景をいまだに信じられずにいた


「だとしたら、流石にこのままでいるわけには行かないよね」


ゴロテスとグレイプニル

二人の魔法少女の因縁はまだ始まったばかりであった


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