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第十一話

「『フォルテブラスト』ですわ」


 魔法少女『パレード』。その戦闘スタイルは、まさに暴力の化身ともいうべきモノだった.


 魔法には幾つかの『仕様』、そして『裏技』が存在する.


 コレはその一つ。自己強化系の魔法は、触れている衣装やステッキ、マスコットなどの『付属品』にも効果がある

 汎用魔法の『飛行』も例外ではない。考えてみれば当然である。高速で『飛行』を使えば、とてもフリルの付いたロリータやスカート系のコスチュームなど着れない。空中戦闘をすれば捲れ上がった服が邪魔でろくに動くことも出来なくなる。

 だが、パレードはその仕様を裏技に昇華する。


 魔法少女のステッキは基本的に壊れない。

 魔法少女のステッキの形状は、個人によって異なる。

 パレードのステッキはグランドピアノである。

 重さ数百キロのピアノを『飛行』を使って持ち上げている。

 重さを消しているわけではないが故に、ピアノの重さは、そのまま破壊力に直結する。


「もう一度、『フォルテブラスト』ですわ」

「ッ! 何がフォルテブラストじゃ! ただピアノをぶん投げてるだけではないか!」

「問答無用!」


 めしり、と。避けきれなかった左腕が軋む音に、メタルシップの顔が歪む。


「上等じゃ。言っておくが、儂は争いが苦手なだけで普通に超強いからの」


 度重なるダメージに、メタルシップの体は悲鳴を上げていた。

 これ以上、逃げ続ければ自分が死ぬ。

 そう判断したメタルシップは、素早く、二本の刀を抜き放つ。この刀こそが、彼女のステッキ。柄の部分が頑強そうな太い鎖で繋がった、一対の二刀。

 パレードほどではないが、変わっている。


「『フォルテインパクト』」


 刀を構えたメタルシップのその上から、ハンマーの様にグランドピアノが振り下ろされる。


「我流剣術『雨の構え』」


 グランドピアノが二本の刀の上を、レールの上を通る様に横に滑る。普通の日本刀なら折れる様な動きも、壊れないステッキなら出来る。武器が絶対に壊れないという法則の元に作られた剣術、故に我流。

 パレードが極めて『剛』よりの攻撃をするのに対し、メタルシップの動きは、『柔』。正面から、決してぶつかろうとせず、避け、かわし、受け流す。


「『滝の構え』」


 二刀がサーベルタイガーの牙の様に、地面に平行に突き立てられる。メタルシップはその真ん中で、二刀を繋ぐ鎖を握りしめた。


「そんなモノ!…………いえ」


 激昂する様にグランドピアノを振り上げたパレードの腕が止まる。


「熱くなると周りが見えなくなるのは私の欠点ですわね。相手はリーダーを殺した魔法少女。少々エレガントさに欠けますが…」


 パレードはゆっくりと地面にピアノを下ろした。


「確実に、貴方を倒しますわ」


 パレードの指が、ピアノの鍵盤を叩く。


「『重力(グラビティ)』」


 魔法番号89番 重力(グラビティ)

 周囲の重力の働く方向を操作する魔法。魔法を扱う本人だけは影響を受けない


 ド――


 ピアノから音が響いたその瞬間、メタルシップの体は()()()()()()


「ッ! 厄介! じゃが!」


 メタルシップは地面に垂直に生えた木に()()()、刀を足元の木に深く突き立てる。


「こうも足場となる木が多ければ、大した脅威にならんの」


『重力』は重力の働く方向を変えるだけの魔法。超重力で押し潰したり、無重力地帯を作ることはできない。

 森の中では、その真価は発揮できないのだ。


 レ――


 にも関わらず、パレードは再び鍵盤を叩いた。先ほどとは違う音。

『重力』もまた、違う方向に作用する。メタルシップの足が木を離れ、体が右側に大きく流される。


「無駄じゃよ」


 メタルシップは先ほど木に刺した二刀を掴み、その場に留まる。


「一本の刀なら抜けるじゃろうが、二本の刀なら刺し方によっては、抜けない。『飛行』で姿勢を制御すれば、止まることも可能じゃ」


 どの方向に重力が働いても、メタルシップは刀を起点に耐えられる。

 パレードは、一つ、ため息をついて大きく手を振りかぶった。


「……だいたい、分かりましたわ。『必殺』」


 パレードの、『重力』の作用する方向は、それぞれ対応する音階があり、その音を鳴らす事で方向を調節している

 そして、()()()()()()()()()()()


『ピアノ・ムジカノヴァ』


 パレードの最も優れた才能は、戦闘ではないし、頭脳でもない。芸術、すなわち作曲家としての才こそが、パレードの本質。


 必殺 ピアノ・ムジカノヴァ

 即興で、相手に合わせて最適な曲を作り出す。

『重力』でも()()()()()()()でも使える、2パターンの効果を持つ必殺技である。


「即興曲、『船』」


 パレードが、メタルシップに送る曲は、ひとり連弾。

 一人で、高速で鍵盤を叩く。

 一秒間に2回近い音の連鎖が、夜の森に響き渡った。


「う、おおぉぉ!」


 それは当然、その速度で重力が切り替わるということでもある。

 落ち葉や石や土が、踊る様に空中で乱舞する。

『飛行』の魔法などまるで役に立たない。目まぐるしく変わる重力の中で飛ぶなど、悪手極まりない。

 メタルシップはただ、万力の様な力で刀を掴み、全身の筋肉を引き絞って、同じ姿勢をキープしていた。

 3分ほど立ってからだろうか。

 やがて、静かに曲は終わりを迎えた。

 メタルシップは耐え切った。

 そして、


 掴んでいた刀から手を放す。


「?」


 意味が分からなかった。

 またすぐに、同じ攻撃が来る可能性もあるのに、刀を手放すわけがない。木に刺した刀から手を放したことで、メタルシップの体は地面に向かって落下する。

 思わず、『飛行』の魔法を発動しようとするも、発動出来ない。否、そもそも体が全く動かない。

 メタルシップは背中から地面に激突し、思わず呻き声を上げる。

 さらに、口を突いて出たのは声だけでない。胃の中のものが吐瀉物として吐き出される。再び体に力を入れるも、ぴくぴくと痙攣するだけで動けない。本当に、意味が分からなかった。()()()()でも起こした様に、体が全くいうことを聞かない。ただ、ひどく気分が悪かった。


「乗り物には、強い方ですか? もしそうなら、初めての感覚かもしれませんわね」

「……な、……にお」


『何を言っているんじゃ?』

 メタルシップはそう言おうとしても、まともな声になっていない。乗り物?


「そう、ただの乗り物酔いですわ。景色が歪んで、内臓が偏って、三半規管がぶっ壊れてるだけですの」

「……ぁ?」

「そもそも、同じ所で留まったからと言って、地上を生きる生物が、重力の影響から逃げられる訳がありませんわ。最初から、私の狙いは貴方を重力で吹き飛ばすことではなく、貴方を動けなくすることですわ」

「ク……そ、がぁ」

「あら、もう回復し始めてますの? 本当に化け物じみてますわね」


 そう言ったパレードは、グランドピアノを持ち上げて、地面を転がるメタルシップに近づく。


「安心しなさい。命までは取りませんわ。貴方の罪は、貴方の行動のみで贖われます」

「そりゃ、……ありが、いの。。」


 グランドピアノが、高く、持ち上げられた。


『フォルテインパクト』


 メタルシップの体に、グランドピアノによる一撃が振り下ろされた。


 パレード対メタルシップ

 ここに決着


必殺技解説 即興曲、『船』

本来であれば重力の操作による強制的な乗り物酔いは複数回重力攻撃を受けた際の副次的な効果であるが、重力に耐えられることを見越して、乗り物酔い特化の曲構成に変更。本来なら地面に叩きつけまくる曲や、ひたすら二つの壁に叩きつけまくる曲で戦う。


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