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第十話

「どうすっかのう、暇じゃ」


『不統合同盟』所属

 魔法少女『メタルシップ』

 ポニーテールに巫女服、のじゃ口調。首には黒いマフラー、腰には日本の刀と奇抜な格好をした魔法少女である。


「儂の役目はアベレージが『熱線』から逃げたら追撃して殺すこと。でももう死んでおるしのう」


 魔法少女は強い。だからこそ、超遠距離から『熱線』で殺すのがベスト。可能な限り直接戦闘は避け、逃げれば背中を斬りつけるのみ。

 もう一人魔法少女がいたが、メタルシップに追撃の意思はない。目的はアベレージを殺すことだし、他の魔法少女を無理して攻撃する必要はない。

 ギャッカあたりは、ついでに殺そうとするだろうが、メタルシップにそこまでの情熱はない。戦いたくない争いたくない。殺したくないし、死にたくもない。

 嫌われ者で悪者でも、戦争より平和をとる。

 それがメタルシップのスタンスだった。


「それじゃ、やる事ないし先にアジトに………うん?」


 帰ろうとしたメタルシップの足が止まる。何か、妙な音が聞こえたからだ。風を切る様な音。


「何か、素早い何かが真っ直ぐ近づいているのか? この森の中で?」


 木々が邪魔になり、真っ直ぐは近づけないはず。

 ならば答えは


「上か!」


 黒い怪物体が、夜空を引き裂いて落ちてくる。

 メタルシップは全速でその場から離れる。

 音の聞こえたタイミングからみて、かなりの高高度から落ちてきている。質量にもよるが、少なくとも半径50メートルは吹っ飛ぶだろう。


「『メテオフォルテ』ですわ」


 そんな声が一瞬響いた後、怪物体は着地し、メタルシップは吹っ飛ばされた。地面を転がり、背中を木にぶつけて何とかその場にとどまる。


「なんという、破壊力じゃ」


 ザッザッザ、と。

 同時にザリザリ、と。


 地面が衝撃で捲れ上がり、舞い上がった土煙の中を一人の少女が歩いてくる。


「あなたが、リーダーを殺した黒マフラーの魔法少女ですわね」

 金髪の縦ロールをたなびかせた少女。魔法少女としての甘ロリな衣装が、正装のようによく似合う。


『White』所属

 魔法少女『パレード』


 片手でザリザリと()()()()()()()()()()()()()()()、彼女は会敵した。


 ポニテのじゃ口調マフラー巫女服日本刀少女

 対

 縦ロールお嬢様口調甘ロリピアノ少女


 キャラの強い二人の魔法少女が、夜の森で激突する。


 □ □ □


「『銀騎士』」


 私は咄嗟に、一歩前へ出る。

 銀騎士は、魔法少女を助ける存在。

 だが、野良である事に変わりはない。

 何かしらの問題があって、学園に所属できない魔法少女だ。


「ニ、ゲロ……」

「…………!?」


 疲労と、喋ると思っていなかったので反応が遅れた。

 低い、地の底から響くような声が鎧の中から聞こえた。


「……逃がして、くれるってこと?」


 こくりと、銀騎士は頷いた。

 残りの体力的にも、状況的にも、信じるしかない。

 私はメジアンと、アベレージの遺体を両脇に抱えた。


「ありがとう。それと、死ぬな」


 銀騎士にそれだけ伝えて、私はその場を離れた。


 □ □ □


 銀騎士は後悔していた。

 間に合わなかった、と。駆けつけた時には一人死んでいた。もう一人も満身創痍、助け出すべき魔法少女もひどく衰弱していた。

 幼女趣味の男が金で裏組織の人間を雇い、広報担当の魔法少女を誘拐した。

 そんな噂を辿って、調査を重ねた末にこの山に辿り着いた。

 けど、遅かった。


 遅れたなら、遅れた分の仕事はする。せめて、あのレーザーを打った魔法少女は捕まえる。


「あの魔法は『熱線(レーザー)』だ、500メートル以内であれば()()無しで連射してくる。距離を詰めるなら気をつけなハニー」


 銀騎士の右腕から、そんな声がした。


「ワカッタ」


 アドバイスを頭に入れ、空を飛ぶ銀騎士。少しずつ、レーザーの発射元に近づいていく。


「?」


 レーザーは飛んでこない。

 もう向かいの山との距離は500メートルを切っている。

 にも関わらず、撃ってこない。

 こちらの場所を特定出来ていないのか、すでに逃げたのか。後者ならば、厄介だ。


「ココカ?」


 できる限りレーザーの軌道をなぞったつもりだが、それも完全に正確とは言い難い。

 到着した山肌には誰もいなかった。


「ニゲタ?」

「いや、違うな……奴らがここで罠を貼ってたなら、それなりの痕跡がある筈だ。単純に『熱線』の軌道をなぞりきれなかったって事だ。この辺りを探せば……」


 その瞬間、銀騎士の視線の先、メリメリと木が倒れる音がした。


「!」


 咄嗟に、銀騎士はその方向へ駆け寄る。

 おそらく、あそこに魔法少女はいる。だが、何だ?

 逃げるにしても留まるにしても、木を倒す理由がわからない。

 何かの合図か?

 銀騎士は、遂に森が切り開かれた場所に出た。


「……コレハ、ドウナッテイル?」

「! 君は」


 銀騎士の目の前に広がるのは予想外の光景だった。地面に転がる二人の、黒いマントを付けた魔法少女。

 そしてただ一人立っている、緑髪の魔法少女。

 視線を合わせた二人は、初対面にも関わらず、互いの名前を知っていた。


「『銀騎士』……」

「ゴロ、テス?」


 □ □ □


 銀騎士到着より、少し時間は遡る。


 第四射を防がれたラストは、不機嫌そうにギャッカに報告した。

「『熱線』が防がれた」

「……珍しいこともあるものだね。攻撃力最強クラスの『熱線』が日に二度も破られるなんて」

「……逃げる? ……それとも、もう一回撃つ? 見た軌道をなぞってくるなら、そのまま撃ったら当たると思う」


 防がれるのを分かっているのに撃ちたくない。そう言わんばかりの渋々の確認だった。ギャッカは少しだけ思考する。

 無論、出来れば撃ってもらいたい。だが此処でラストにストレスを溜めたくは無い。むしろ、自分から言ったことを褒めるべきだ。褒めないけど。


「うん、撃って」


 ギャッカのその言葉に、ラストは絶望的な表情を浮かべる。


「ただし、銀騎士を撃たなくていい。さっき反撃してきた方の魔法少女を狙って」

「もう、目印はない。流石に移動してると思うし、狙えない」

「さっきと一緒で勘でいい。大切なのは、狙いが銀騎士でないと銀騎士に教えることだ。上手くいけば、こちらが狙えると勘違いして、銀騎士が魔法少女を守る為に退却するかもしれない」

「! 『熱線(レーザー)』第五射、装填。チャージ開始」


 こちらの狙いを伝えると、ラストは嬉々としてチャージを始めた。ギャッカら褒めるのは苦手だが褒める以外にも士気をあげる方法を心得ていた。


「さぁ、どうするかな。そろそろ連絡が取れない『メタルシップ』も心配になってきたし……」


「人の心配より、自分の心配をした方がいい」


 ギャッカの視界を拳が埋め尽くした。


「え?」

「『熱線』!」


 咄嗟に、ラストがその拳に向けて『熱線』を飛ばす。

 拳を振るった下手人は、当たり前のようにそれを後ろに引いて回避する。


「そんな、この距離で『熱線』を避けるなんて……」

「は、はは。何で、こんなところにいるんだゴロテス!」


 緑の髪をたなびかせて、下手人―ゴロテスは、真っ直ぐにギャッカに目を向ける。

 その目線を受けて、ギャッカは表情を緩めた。


「あぁ、ゴロテス、ゴロテスゴロテス! ゴロテス!! 何で君が此処に! やばい! 好きだ! 愛してる!」


 ギャッカは、先ほどまでの冷静な態度が嘘のように狂乱した。

 その事に対し、思わずゴロテスは眉を顰める。


「……誰だ?」

「あぁ! 覚えてないだろうとも! 君はそういう人間だ! 君はそういう人間なんだ! だから大好き! 好きでラブで恋してる! だから……」


「殺してほしいなぁ」


 その狂気に満ちた言葉と目に、ゴロテスは戸惑う事しかできない。

 そして、そんなギャッカの肩をラストが掴む。


「何! 今ちょっと忙しいんだけど! 私は今ゴロテスに殺して、」

「ダメ」


 ラストは、じっとギャッカの目を覗き込んでいた。その皿のような目が、ぐるぐると渦巻くような瞳が、ギャッカを落ち着かせる。


「……そうだね、ごめん。()()()()はなし。それが同盟のルールだったね」

「………分かったなら、いい」


 そのやり取りをゴロテスは、値踏みするように見ていた。『不統合同盟』の情報は少ない。その言動も貴重な情報となる。


「というわけでゴロテス。口惜しいが、ほんとーに口惜しいが、此処から去らせてもらうよ」

「逃すと、思うのかい」

「こっちのラストとは目が良くてね。遠距離を見る事に関しては魔法少女一だと思っているよ」

「………むふ」


 心なしか、嬉しそうにラストが腕を組み、アピールする。


「……それが、どうしたと?」


 ゴロテスはスルーした。

 ラストはちょっと傷ついた。


「目がいいってのは、遠くを見るだけじゃない。動体視力も含めてだ。特に、変身した彼女は弾丸ですらスローに見える、らしいよ。変身しているならともかく、()()()()()君になら、逃げることくらいできるさ」

「…………」


 ラストは腕を組みかけたが、さっきのことを思い出してやめた。

 その結果二人の視線が一瞬だけ、何か残念な物を見るそれに変わっていた。

 ラストは『どうせならやればよかった』と後悔した。


「勘違いするなよ」


 ちょっとおかしくなった空気を変える為に、ゴロテスは言った。


「僕は何も、身体能力だけで『最強』って呼ばれてるわけじゃないよ。僕は武術を磨いたからそう言われるんだ」

「? 武術ってのは『より速く動く』技術だろう?」

「そういうのもあるけどね。武術ってのは基本的に、」


 トンっ、と。ゴロテスはゆっくりとギャッカの目の前に()()した。


「『早く動く』技術だよ」


 動体視力は、関係ない。その動きはギャッカにもはっきり見えた。ゆっくりと、正面から近づいてきただけ。なのに、一切の反応が出来なかった。


「「!」」

「遅い」


 そして今度こそ『速く動く技術』が使われる。

 ギャッカに想定外があったとすれば、その一撃が()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。


 右手でラストを

 左手でギャッカを

 それぞれ殴り飛ばす。分かりやすい暴力。故にそれは、格の違いを理解させる。


 ラストは地面を数度跳ね、木にぶつかって止まった。

 ギャッカは直線的に吹っ飛ばされ、木にぶつかり、その木をへし折ってからその場に崩れ落ちた。


『最強』の魔法少女ゴロテス。その強さに、一切の隙はない。

豆設定

ラストの超人的視力は、動体視力よりも遠視の方が有用。

今回は夜なので『星』の魔法の光を目印にしていたが、昼なら普通にスコープなし遠距離狙撃が可能。

近距離レーザーはむしろテンパる。ゆっくり呼吸を整えられる狙撃の方が好き。

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