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児童福祉法

 児童福祉法第三十四条第一項、何人も、次に掲げる行為をしてはならない。第六号、児童に淫行をさせる行為。同じく第六十条第一項一号、第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。


 つまるところの法律が定める未成年淫行である。どうして俺が今この法律を頭に浮かべているか、なぜ俺がそんな状況に追い込まれているのか。遡ること一時間前……



「まあなんだ、今日はもう遅いし俺のベッド使っていいからもう寝たらどうだ?」

「…あなたはどこで寝るの?この部屋に他の寝床があるとは思えないのだけど」

「俺?まあそこら辺で寝るけど」

「はあ…」

「なんだよ、馬鹿にしてるのか?」

「馬鹿ね、そんなんじゃないわよ」


(やっぱり馬鹿にしてるんじゃ……)


「あなた疲れてるんじゃないの」

「そりゃあ疲れていないと言えば嘘になるが」

「なら居候の私がベッドを使うわけにはいかないわ」

「だが…」

「大丈夫、寝床は考えてるから」


 優は何かが閃いたと言わんばかりの顔をしている。それに確かに俺は疲れている。優がそこまで言って俺を気遣ってくれるのは嬉しいし、大人気ないがここはありがたく使わせてもらうこととしよう。


「それならまあ…」


 スーツを脱ごうとするが、既にスーツはハンガーにかけられていた。ちゃんと大事なものがそこにあることを確認する。もう今日も遅い、寝るとしよう。そうやってベッドに横になる。足音が聞こえ、その後に電気が消えた。優がどんな方法で寝床を作り出すのか少し興味はあったが何分今回の件は疲れた。考える余裕すらないまま俺は睡眠へと没入……


 するはずだった。だったのに。


 俺は頭の中の児童福祉法を読み返している。確か優は16か17、それで俺は26。うろ覚えだが児童福祉法でその年齢はアウトだ。それに児童福祉法だけではない、条例だってある。法律は完全にこの状況を許していないのだ。だがアレだ、優が俺と一緒のベッドで寝ているということを淫行でないと証明すれば良い。そう、それで良いのだ……いや証明できるかそんなこと。


 現実問題、俺は大人としてどうするべきだったんだ。優を起こす?それとも気づかれないようにそっと移動する?前者は流石に気がひける。なら後者か……


 あぁぁぁ。心の声が漏れてなければいいのだが。今まではまだグレーだったかもしれないがこれでは完全にクロになってしまう。未成年の異性と体が触れ合う。文面からして犯罪臭が強く漂っている。はあこれではハニトラだったのかとも思ってしまう。どうしたもの…か……



 朝になっていた。


 おいおいおいおい。どうするんだよ、まだあそこで何かしら手を打っていればこんなことには…。何もできなかった、否何もしなかった自分が憎い。いやいやこれでは語弊があるか。捉え方によっては判決が確定するような爆弾発言になってもおかしくないかもしれない。俺が裁判官の立場だったなら絶対にこいつは有罪だろと思うくらいにはこの状況は完全にアウトだった。


 だが、既成事実が覆ることはない。つまるところの諦めが肝心なのだ。と心に言い聞かせ、歯がゆいが納得もできた。それはそうと……


 夕べのように整った長髪は少し崩れてしまっているがそれでも女性の魅力をふんだんに醸し出していることには変わりない。なんならこっちのほうが魅力は高いかもしれない。


 髪に目を惹きつけられるがもちろん優の魅力はそれだけではない。白く透明感のある肌の美麗さを前面に押し出す現代的な広告に反して、優は美しく赤みがかった肌、一般的に言う所の垢抜けないあどけない雰囲気という多数派の狂騒を一遍に跳ねのけるほどに華麗な面持ちをしている。あまり女性の寝顔はまじまじと見るものではないが…


 法は許さないが本心は彼女のことをいつだって愛くるしく感じているのは確かだ。というより、優のような美しさを持つ女性を幼馴染にしておいてそう思わないわけがないだろう。そういう意味では彼女は魔性の女というやつかもしれない。顔、髪、匂いという実体よりも雰囲気とも言うべきか、いわば第六感を強く惹きつけられるのだ。


 これぐらいにしておこう。精神の自由はあれどこんなことを常日頃に思っていてはいろんな意味でもたない。少し惜しいが現実問題、起こさないのはまずいだろう。


 とはいえどうするべきか。俺みたいな青春時代を勉学に捧げた陰キャは女性を起こすときにどこに触れれば良いか分かりかねる。下手に物色してはそれこそ法に触れるであろうか。ここは慎重に……


 少しテンパりながらも俺は優の肩を揺すった。当たり前な話だが揺すると言っても今どきのギャルがいつメンの女友達にするような揺するではない。差し支えのないように細心の注意を払ってマイルドに肩を揺すったのだ。


「…」


 流石に慎重になりすぎたか、優は目を覚まさない。もう少し強くか…だがマイルドにの心を忘れてはならない。そおーっと、そおーっとだ。


「…」


 そろそろ起きそうだからか先程まで横向き寝だった優は仰向けの姿勢に変わった。だが1つ問題が生まれてしまった。なんと仰向けに変わったと同時に優の手が俺の体に触れてきたのだ。


 これはこれは由々しき自体だ。やはり女というものは恐ろしい。こちらが考えに考えながら細心の注意を払って起こそうとしているのにも関わらず、目の前のこの女はなんにも考えずただただ睡眠を謳歌しながら俺の身体に触れようというのだ。なんとも理不尽な世の中だ。もういい、この際大人としての威厳を示さなければならない。大人を、否()を弄んだ代償は高いぞ。


 俺は心に覚悟を決めついにがっしりと優の肩を掴む。マイルドに?そんなものは知らん。


「あ」


 世の中というのは真に真に理不尽だ。どれだけ考慮に考慮を重ねても運命というものは絶対的に不変かつ残酷だったのだ。


 どういうつもりかしら?良い度胸ね?ぐらいの言葉が飛んでくるのではと思い、どう反撃しようかと少し悩んだが優の方はというとまだ寝ぼけているのか俺の顔をただジーっと見つめて黙ったままだった。


 優の寝起きはあまり、いやこれまで一度も見たことがないだろう。凛々しく上品な普段の優からは想像できないほどの、可愛さを前面に出したようなホンワカとした顔。こんな印象的な顔を一度と見たことがあるならば絶対に忘れることがない。


 シングルサイズのベッドの上に暫し無言の時が流れる―もちろんこれまでも無言だったが。最初に口を開いたのは俺の方だった。流石に我慢できなかった。


「そろそろ起きろよ」

「…」

「おい、いつまで寝てるつもりだ」

「…」

「そっちがその気ならこっちは写真でも撮っちゃおうかな〜」


「は?」


 さっきまで可憐な女の子という感じの優は既にそこにはいなかった。まずい、不味い、拙い。流石に調子に乗りすぎた。こんな失言、法律的には百歩譲ってシロかもしれないが週刊誌的には完全にアウトだ。【男性弁護士、女子高生をベッド上で盗撮、裏切られた品行方正】なんて見出しがついてもおかしくない。


「ごめん、でも夜這いをしかけた優に言われてもなーって感じだけど」

「…」


 向こうから寄ってきたとはいえ、こっちは大人。流石にこんな悪役みたいなセリフ、自分でも口に出したことに後悔せずにはいられない。でも優はあまりそこに付け込んで攻撃しようなんて様子ではないようだ。流石に自分にも少しぐらい非があると感じてくれればいいのだが。


「別に何もなかったから良いじゃない」


 右の人差し指を自らの少し乾いた唇に当てながら優はほくそ笑む。まあ簡単にこんなことするもんではないと少しでも優が分かってくれれば俺はそれで充分だ。


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