プロローグ 始まりは太陽のように
異世界転生というものに於いて必ず存在する問題点って行く先の安全性と死ぬ間までの過程だよね。
それは大学からの帰り道で起きた事だった、国道を渡る横断歩道は長く広くそれでいて青信号の時間が短いものだから注意をよそに向けがちな子どもがわたり切るのは少し酷な事だったのだろう。赤に切り替わる信号、まだ横断歩道を渡る子ども、フィクションならばお誂え向きにここに暴走トラックでも突っ込んでくるのだろうが生憎ここは現実世界、そんなことが起きることもない筈、なのだが。
アスファルトを削り取る勢いで突っ込んでくる巨大トラック、それを理解した瞬間、体は自然と動き出していた。道路の中腹あたりをゆっくり歩く子どもを突き飛ばし離脱させる、その勢いのまま離れるつもりだったがもう遅かった。
第一に感じたのは強い衝撃、次いでバキリという鈍い音と共に浮遊感を感じた。
落下の際にも打ちどころが良くなかったのか腕から鈍い音が鳴り激しい痛みを包み隠さず送り込んでくる。更に肺が圧迫されてるのかカヒューカヒューと薄い呼吸しかできず視界も霞んでいる、だが生きてはいた。
生存した、という希望をもった目が最後に写したものは、停止せずこちらに向かってくるトラックの姿、そして眼前に迫るタイヤの黒だった。
今度は吹き飛ばされることはなく巨体の下敷きにされる。だがエンジンは止まらず高速回転するタイヤがぐちゃぐちゃと肉体を削り飛ばし骨を破壊し瞬く間に人だったものをただの肉片へと細分化していく。
撥ねられた体は衝撃で潰れたのか薄くなり腕の片方は半ばから削り飛ばされてそこらへ放り出され、足は完全に潰れて見る影もない。そして誰かを定義するのに一番重要であった頭はタイヤの下敷きになり潰れ、千切れた頭髪と脳の破片をそこら辺に撒き散らす。
たった一瞬の出来事が日常を黄色混じりの赤が汚していく、その光景に立ち会ってしまった人たちはどれだけ不幸で残酷な事だったろう、誰かが子どもの手を引いてやれば、親が子どものことをちゃんと見ていればこんなことにはならなかっただろうに。
周りの大人たちが慌ただしく動く中子どもは突き飛ばされた痛みに泣いていた、その姿を唯一綺麗に残った一対の玉がじいっと見つめていた。
次に意識を取り戻したのは息苦しさによってだった。
目覚めた世界は見渡す限りの空色、ウユニ塩湖を彷彿とさせるような空と地面の境が融けて混ざり合った幻想的で神秘的な世界だった。
「なぜ自分はここにいるのか?」という疑問は一時として頭に残らずただただその景色に見惚れていた。地面に立っている筈なのに宙に浮いているような不思議な感覚に身を委ねていると頭の中へ声が響いてきた。
『子を助け命を落とした勇敢なる青年よ、生前最後の善行は私の心を打った。故に君を新しい世界へと転生させよう、他者のために命を賭す覚悟のある君に相応しい尽きぬ肉体と共に』
そう言い終えるや否や体が緩やかに前方に灯った光へと引っ張られていく、景色は流れて段々と白一色へと染まっていく。
その過程で体は指先からボロボロと崩れて千切れ飛んでいく、指がなくなれば次は髪を、髪が飛べば脳が、脳が飛べば腕がというように光に進むにつれて体は形を崩していく。
不思議なことに痛みはなかった、血も吹き出ることはなかった。まるで元々の状態に戻るように肉は自然と離れていき最終的に片腕と体そして目だけになった時、光に包まれて痕跡を残してこの世界から消えていった。
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次回更新日は未定です、気長にお待ちください。