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妊娠・胎児・希望

作者: 朝原シュン

※この作品は三部作となっております。一部一部は5行の空白行で作っているため時代理解して頂けると幸いです。

 中学生の時、好きな女子を孕ませた。そして、その女子が俺の子を産んで俺に対して、


「幸せになろうね」


とほざいていた次の日、親の事情という名目で二人を捨てた。

 あれから8年くらい経つ。今じゃ俺も立派な新社会人だ。薄給ではあるが、大学の二回生時に付き合った彼女とも、円満だからだろう、順風満帆な日々を過ごしている。


 ちなみに、好きだった女子とは病院の時以来、会っていない。多分だが、捨てられたと知った時、とんでもない怨嗟を零しただろう。


 とはいえ、元々住んでいた場所とは遠く離れている。誰にも引っ越し先は伝えていないし、悟らせてもいない。俺を見つけるには日本のあちこちを見て回る必要があるだろう。そんなのは不可能だ。


 二ヶ月後、彼女が妊娠したと言うので、花でも買おうとしたときの事だった。財布を広げている途中、何か変な気配がしたので、ふっと右に視線を移す。

 そこには、髪も服もボロボロで、手足が骨みたく細く、左手にはキューピーのぬいぐるみのような物を持った女がいた。そして、こちらに視線を向けた途端、ニコッと不気味に笑って、


「見〜つけた」


と言った。俺以外にも人はいる。だが、とにかく走った。息が切れても走った。汗も吹き出た。


 そっと、後ろをチラ、と覗く。そこには、好きだった女子に近い顔が間近まで迫っていた。曲がりくねった道で撒こうと左に曲がる。だが、その道は薄汚い路地裏だった。入るかどうか、一瞬躊躇った時、思いっきり服を掴まれ、転ぶ。


 そして、女は見つけた、見つけた、と言い服や身体をベタベタ触ってきた。何か防衛手段を考え、服やポケットをまさぐった時、ペンが右ポケットにあったので、思いっきり突き刺すと、女はガッと言って倒れた。


 その後、女の唯一持っていたキューピーのぬいぐるみのような物をよく見てみると、赤ん坊のミイラだった。倒れて血を流す女と、ミイラの赤ん坊の気持ち悪さに吐き気を催し、吐いた。

 吐瀉物は、血反吐だった。俺の血反吐と女の血と、女の倒れた時に恐らく少し漏れ出た赤ん坊の体液が、隅の排水溝へと流れていった。






 医者によると、目覚める事は奇跡以外の何者でもない、との事だった。そこでふと、一つ疑問が生じた。

 何故、その奇跡を起こしてしまったのですか、神様。今の状況のどこが奇跡だっていうのか。親無し、友無し、金無し、力無し。そんな悲劇に誰も目もくれず、地球は散々回り回って。


 この小さな身長と、この貧弱な体は手を差し伸べても、その手の形は握り拳だった。でも、耐え忍ぶしか方法はなかった。


 私の母は、聞いたところによると、犯罪者だったらしい。とある男を赤ん坊片手に追い続け、見つけて、捕まえた所を返り討ちにあい、そのまま栄養失調で死んだとか。結局男は無罪放免、悪いのは母となり、私は犯罪者の娘になった。


 そして、私は隠蔽されていたものの、ふとした瞬間バレしまった。意味がわからない。こんな地獄の温床にいたくなかった。母と共に、天国か、地獄へ向かいたかった。

 私は父を探している。恐らく、迷惑だろう。だが、どうしても父の元へ行きたいのだ。本物の愛情じゃなくてもいい。偽物の愛情の中で、くるまっていたい。


 あと7年、先は長い。学校は私を世間から隔離するための刑務所のようだ。チャイムが鳴り、私は塀の中の建物へと戻った。

 7年というのは、どうやら長いようで短いらしい。気付けば、刑務所の門は出ろ、と命令していた。私は真っ先に児童養護施設ではなく、父の家へ向かった。ずっとずっと、探していた。卒業間近、ようやく見つけることができた。


 父の家はオートロックマンションのようで、他の住人が来るまで、待たなければならなかった。ただただ待ち続け、空も夜が滲んできた頃、マンションの駐車場から車の音が聞こえる。住人の一人が帰ってきた。それに混ざるように、私も入る。


 マンションに入って、ひたすら父の苗字を探す。偶然にも、一つの部屋だけだったので、少し背伸びをして、インターホンを押した。


 は~い、という声と共に出てきたのは、少し年配のおばさんだった。ああ、これが私の新しい母?なのか。奥の方から聞こえる足音が私の弟か、妹か。


 その時、母が、


「あの?どちら様でしょうか?」

と尋ねる。私は母に対し、


「貴方の夫はいますか?」

と伝える。


「ええ、居ますよ?」

と答え、父の名前を奥へと投げつける。そして、向こうから父がやってきた。躊躇わずに言った。



「お父さん」



 その瞬間、私は押しのけられ、勢いよく扉が閉まった。しばらく、呆然とする。そして、気付いた、悟った。その現実が受け入れられなくて、何度も扉を叩いて、お父さん、と呼ぶ。すると、扉が開いた。


「迷惑です。子供が泣いてるんですよ?」


父の家は固く閉ざされた。

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。父の名前を何度も呼び続ける。しばらくすると、父が出てきた。泣きながら、お父さんと何度も言い続ける。そして、私は父の家の一員となった。


 まず、父と風呂に入った。湯船に入って5分後くらいに、父に刺された。

 グサッグサッグサッグサッグサッと。何でなんて考える暇すら与えられず、刺される。いつの間にか、視界が暗くなり、前が見えなくなった。






 彼と出会ったのは中学生のとき。その時彼は、白馬の王子様に見えた。気付けば私は、彼の好きな女性になっていた。

 彼の好きな髪型。彼の好きな眼。彼の好きな体型。彼の好きな顔。彼の好きな性格。そのすべてを兼ね備えた王女になった。


 王子に尽くすのが王女の役目。彼がやりたい事、挑戦したい事。その全てを王女は守り、支えるの。そんな素敵なことを沢山してあげる。


 一年経った頃、王子の子供が、私のお腹の中にいた。そして、王女の娘は無事、幸せな顔をして腹から出たの。おぎゃ、おぎゃって、声をあげて。

 私、嬉しさのあまり、王子にこう言ったわ。


「幸せになろうね」


って。王子は少し感激のあまり、話せなかったみたい。でも、私に向かって、うん、って言ってくれた。


 でも、何故か次の日から来なくなった。でもね、心配しなくても大丈夫。白馬の王子様はいつも、深夜一時に私の額にそっとキスしてくれる。そのキスが私と王子を繋げる唯一のモノなの。


 1ヶ月後くらいかしら。私が再び学校に来た時、王子様は居なかった。ひそひそ話では、私は捨てられた人として扱われた。でもね、そんなのは単なる幻想。噂に過ぎないわ。


 だって、絆の深さを誰もが見誤っているもの。きっと皆は深夜一時の王子様に気付かない。家族も知らずに泣いている。誰も彼も絶望ばかり唱えてて、本当に哀れね。だって、王子様はいずれ後継者が必要になるもの。


 二年経った時、娘がサッと姿を消していたわ。慌てて、色んな所を探して、娘の名前を呼んだのだけれど、見つからない。いつの間にか帰ってきた、父と母がたった一言、捨てたって。

 私、何もかも差し置いて、父と母を脅して、捨てた所へ向かったわ。でもね、全くいない、見つからない。暗い暗い夜の中。私の心も捨てられて。暗い暗い夜の中。そっと涙が溢れていたの。


 でも、一人の力じゃ何ら一つ変わらない。娘も守れない、己の力不足を恨んだわ。

 気付けば5年かしら。娘は探せど探せど、全く居なかった。一目見るだけで良いのにね。


 深夜一時の王子様。手荒になって、息子を作ろうとしているの。だからね、作ったの。王子の息子。何ていうかは分からないけれど、きっと素敵よね。でもね、お医者さんに言われたの。王子の息子じゃないって。


 だから胎児を引きずり出した。悲しかった。虚しかった。希望もなにもあったもんじゃないと思った。この時の悲しさは、娘を失った時以上だったわ。だからね、貴方を探したの。


 どこに居るの?王子様。私ずっと、探しているの。何百もの日を重ねたわ。右手の嘘の子は、ゆっくり黒ずんでいったわ。報われない夜を何度も過ごしたわ。

 するとね、私の苦しみが届いたのかしら。神が手を差し伸べてくれたのよ。私の王子様の右顔が、そっと辺りを照らしたのかしら。久しぶりにあったからか、私、嬉しくなっちゃった。


「見〜つけた」

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