魔法料理教室?
気が早いけど、大魔法回です。
森を全力で北向きに走ること数秒、200mぐらい進んだところで開けたところに出た。どうしてそんなに森の中を早く進めるのかって?それは俺の異空間収納の丸太たちに聞いてくれ。どうやら東西を結ぶ抜け道のようで、そこでは、なんかの魔物の群れが馬車を転がして遊んでいる。
馬車ってあれだよな、人が乗るやつ。中に誰か乗ってたら危険だ。とりあえず魔物に《鑑定》かけてみるか。
[オーガ・キング レベル:132][オーガ・ジェネラル レベル:98][オーガ・ジェネラル レベル:76][オーガ レベル:47][オーガ レベル:41][オーガ レベル:33][………………
計20体弱ものオーガ軍?がひしめき合ってた。確か父さんが、オーガは俊敏で剛腕だから剣術の修行に向いてるって言ってた気がする。うーん……よし!魔法でいこう。
まず初めに《水弾》で軽く洗います。次に《風刃》で細切りにして、最後は《炎旋風》でこんがり焼いて完成です。
このまま異世界でオーガ料理専門店でも開いちゃおうかな。オーガ全滅の危機?そんなことは神様に相談してくださいって、俺か?もしかして俺が倒したら天罰とか言っていいのかな。
馬車の中を見たが、人影は全く無かった、オーガ肉片ならわんさか有ったが。この肉は…、廃棄だな。剣術修行ができる相手なんて、不味いに決まってる。でも素材には使えるかもなので一応収納しとこう。それより馬車の中に居た人を探さないと。オーガって実は木の実専門の超グルメだから襲われても食べられる訳じゃないし、生き残りが居るかもしれない。
えーと…どっちだけ。群れは左から来た。そして、俺は右に曲がった。だから、えーと…えっと、戻る方向でいいのか。
よく見たら足元にいっぱい足跡が有りました。オーガさんのでっかいやつ。それを辿って進んでいくと1km程進んだところに何かが見えてきた。この世界に降り立った時からいつか見てしまうと分かっていた物。そう、分かっていたのだが、
「ゔっ、やっぱり実物は気持ち悪い。これはダメなやつだ」
四肢を千切られ横たわる騎士たち。誰の物なのかわからない頭たち。メイド服や、スーツのような物を着込んだ人も居た。試しに広範囲回復魔法を掛けてみたが手応え無し、生存者0だった。
「この人たち結構お金ありそうな格好してるよな。どっかにボス?親玉?リーダー?どれも無愛想だけど、まあそんな感じのは居ないのか?」
一周回ってみたけど、やっぱり誰もがどっかしら千切れて無くなってる。やっぱ魔物って怖い、食べるわけでも無くこの惨状にするのはどうかと思う。
真ん中に血に汚れたドレスの少女の遺体を見つけた。多分17とかそのぐらいの歳だ。この世界の成人は15歳だから、一応大人の扱いなのか?この子だけドレスってことは他はこの子の護衛だったのかな。
『守るべき相手は、1に女の子、2に自分、3に街の人、最後に男友達』
不意にそんな言葉を思い出した。でも、彼女もう死んでるよ。もうお亡くなりになってるんだよ。今更どうやって……、
「ってそっか、実践はまだだけどあれが有った…」
異空間収納から一冊の本を取り出す。俺にとっての禁書、『超級・神級魔法、詠唱大全』だ。人間が行使できる極限の魔法である超級魔法と、神すらも苦戦する神級魔法。これら2つには他の魔法と大きく違う所があった、詠唱だ。下級・中級・上級魔法の詠唱がイメージを固めるためであるのに対し、超級・神級魔法の詠唱には、魔力の質を神力に近く、目的に特化したものに変質させる効果がある。故に、詠唱は必須なのだが…………、やっぱ地球人には恥ずかしすぎる。詠唱はできれば使わない方針で行きたかった。
少女の体は所々千切れてはいるが、この程度なら大丈夫だろう。それに死後数週間経ったわけでもないから神級を使わなくても済みそうだ。肉体の完全な再構成や、死後長時間経過した遺体の蘇生は人にも扱え得る超級魔法ではできない。そして、それができる神級魔法は俺の能力の埒外だ。俺の能力では魔力的にも技量的にも確実に足りない。
本をめくって目当てのページを探していく。あった、これだ。背に腹?精神に命?は替えられない。
「やってやろうじゃないか。初挑戦だから失敗しても祟らないでくれよー」
大きく息を吸って、詠唱を始める。
「『延々と輪廻を繰り返し』『刻々と流れる時の誘い』『抗うことを許されぬ』『絶対的な世界の不条理』『常世と幽世を繋ぐ時』『時は再び流れ出す』『今一度此処に君を求む』《超級蘇生魔術:常世の導き》」
俺の体からすぅっと力が抜けていく感覚がする。1度にここまで急激な魔力の減少を感じたのは初めてだ。ざっと最大値の8割ほどだろうか。ここまで一気に抜けると少し気持ち良いかもしれない。
彼女の体から光柱が天に向けて突き抜ける。その柱は神々しいほどの光を放ちながら世界の壁さえも突き抜けていく。白買った光はやがて光は赤,青,緑と別れ、遂には虹色の光塵が舞う。彼女の体に徐々に集まり、座れるかの如く溶け込んでいく。光が収まると、静かだった彼女からは微かに息の根が聞こえた。
実際に使ったことでこの蘇生魔術の欠点が露わになった。魔力消費が異常なのもあるが、1番は回復効果が薄いことだろうか。
“常世の導き”の下位互換であり上級魔法の“常世の鎖”には回復効果が無く、肉体損傷があるとその場でもう一度死亡してしまう。そのため精神攻撃による死亡時のみ蘇生することができる。今回は怪我による死亡だったため上級魔法で済ませることができなかった。
それでも実際使ってみると“常世の導き”の回復効果は最低限しか無かったようだ。蘇生後は血が止まって呼吸こそ安定しているが、四肢欠損はそのままだった。
「これで成功ってことか。仕方ない、完全回復しとくか。魔力足りるかな?」
《完全回復》をかけると、完全に体の中が空っぽになった感じがした。もう魔力の限界だ、流石にこれ以上は無理だろう。横になりステータスを開いてみると、『MP:20 / 3785000 』の文字が見えた。魔力回復薬買っておけばよかったな。
今週末はお休みです。