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あの日の私  作者: ヒロ
2/2

私の母は何者なの?

次の朝、

私は思考回路をフル回転させていた。


そして昨夜の夢の中での会話を思い出していた。


「沖田さんってどういう子なの?」

「そうね、一言で言うと、あなたが好き。ってことかな?」

「それはそうでしょ?大親友なんだから。」

「ううん。その”好き”じゃないの。」

「えっ…」


(まさか、ね…。ホントではないはず。)


そして私はこの日から様々な人との面会が始まった。


まず面会をしたのは、お母さんだった。

私の母の名前は人見香織(ひとみかおり)だ。

見た目は髪はとてもサラサラしていて、メイクはほとんどしていないのにとても肌が綺麗だった。


こんな人がお母さんだったらうれしいなって誰もが思うだろう。

だけど私は何となく嫌いだと感じた。

昨日のことを見れば心配してくれるとてもいい人だと思った。

でも、なんでだろう?私は率直に苦手だと感じてしまった。


「夏…?大丈夫?」

「…」

「ホントに、記憶がないのね…」

「…」


私が全く話そうとしないので香織さんはとても罰が悪そうだった。

でも仕方がないのだ。私はこの人とは話したくない、顔も見たくない。そう思ってしまっていたからだ。


「そうね、こんな事今まで話したことが無いんだけど。私はあなたを産めてよかったと思ってるの。」


急になんの話をしているんだろうと思った。


「実は、お母さんね、あなたがお腹の中にいるとき交通事故に遭ったの。そ、そんなに大きいものではなかったのよ。…でね、流産するかもしれないってその時思ったの。でも、大丈夫だった。」


香織さんはポツリ、ポツリと話し始めた。

そんなことはどうでもいい。

私の、いや高校生”私”のことをどう思っているのか知りたいの。

そんな昔のことなんて…気持ちなんか10年以上も一緒に暮らせば変わってくるのに。

私はモヤモヤしながら香織さんの話を聞いていた。


「ごめん。そんなことが聞きたいわけじゃないよね。お母さん、まだ今の状況呑み込めてなくて。」

「…」

「ん…」

「聞きたいことは何もないです。もう帰ってください。」

「やっぱり、私のこと。き…」

「嫌いかどうかはわからないです。でも、苦手です。これは今の私の直感ですが。」

「そう…なの…ね。」


その時ドアを叩く音がした。


「どうぞ。」


私は看護師が来たことにホッとしていた。


「時間です。」

「そうですか…。またね、夏」


香織さんの顔は少し暗かったがなぜか笑っているように見えた。


「大丈夫ですか?」

「ええ…?」

「…」


看護師さんの様子がおかしかった。

いつもは優しく笑顔な看護師さん。でもこの時だけは香織さんに怯えているような気がした。

そして私の方を向くと変なことを言い出した。


「大丈夫ですか?」

「えっ…」


まさか面会の時間、しかも身内との面会で大丈夫ですか?と言われるほどヤバい状態だったのだろうか?


(一体この”私”には何が起こってるんだろう?)


私は不安を覚えながら眠りについた。

また、学園の門の前で立っているのだろうと思いながら。


しかし、私が立っていたのは今度は見慣れない家の前だった。


(ここはどこだろう?)


そう思いながら私はなつかしさを感じつつも、憂鬱な気分になっていた。

そう、幼いころはとても好きだった建物。そして中学・高校と学年が上がるごとに嫌いになっていった建物。そう”私”の家であった。


(こんなに立派な家に住んでたんだ。でもなんで憂鬱な気分になっているんだろう?)


私はそんなことを考えながら明かりのついている一室を眺めていた。

そこには今日面会に来ていた香織さんが椅子に座っていた。

そして何かブツブツと言っていた。


「また、今日も遅いわね。もう9時過ぎてるのよ。何やってるのかしら?ホントイヤになるわ。

そうね…今日は…夜ごはん抜きで手を打とうかしら。」


(え、何?この人…。夜ごはん抜き?え…)


私は一瞬にしてすべての行動が停止した。

この狂気の沙汰にいる”私”の母親はとんでもない拘束魔だったのだ。


(高校生に門限はきつくない?部活もあるだろうし。遊びにも行くだろうし…)


そんなことを思っていると”我”が家に近付く一つの影が見えた。

ものすごく怯えている。”私”だ。

そうだ、”私”はこの”人”が苦手なんじゃなくて、消えてほしかったんだ。

記憶からなくなるらい。


「…ただいま。」


小声でさらに音も立てずにドアを開けていた。


「何時だと思ってるの!?」

「9時半…」

「帰ってくるの遅くない?」

「遅くないよ…だって…」

「どうせどっかで遊んできたんでしょ?」

「そんなわけ…」

「どっからそんなお金が出るのかしら。」

「だから、違うんだって!部活が…」

「また部活が遅かったとか言い訳をするわけ?そんなこんな時間までするわけないじゃない!」

「だから…もういいよ…」

「ふんっ!今夜は晩ご飯抜きだからね!」

「…」


私はこの時怒りを抑えながら、そして香織さん…いやこの時は”母親”というのが正しいんだろうか。堪忍袋の緒が切れるギリギリまで足掻いていた。

必死に自分というものを見失わないように。


でも…

もう、この時は自分自身を見失ってしまっていたんだろう。

だって、昔の”私”が記憶を消して今の”私”を形成しているのだから。


そんなことを考えていると”私”は部屋に入るところだった。

普段何しているんだろう?

そう思って覗き込むと、キチンとしている子なのだろう。勉強をし始めていた。

机の端に置かれたプリントにはチラリと90点と書かれた解答用紙が見えた。


(こんだけ成績よくてもダメだったのか…)


私はそんな風に思っていた。


「はぁ…、本当に部活が遅かっただけなのに。」


壁には全国大会優勝!目指せ金賞!


と書かれた横断幕が壁に貼ってあった。

私はそれを見て、”私”の部活が吹奏楽であることを知った。いや、思い出した。

でもなんの楽器をやっていたのかは今はまだ思い出せない。


なんで私は楽しいはずの高校生活のことも忘れたんだろう?


私はこれから知っていく自分の過去が怖くなった。


そして私の部屋をもう一回覗くと香織さんがいた。

また何かに怒っているらしい。


「また、こんな成績を!何度言ったら満点取るのかしら?」

「…」

「遊んでる暇があったらもっと勉強しなさい!」

「…」

「もう!なんか言ったらどうなの!?」

「…」


この時私は、”私”の心の声が聴こえた。


(勉強しても意味ないじゃん。)

(何?90点で何がダメなの?わからない問題もしっかり復習したのに。)

(遊んでる?何言ってるの?どこにそんなお金があるっていうの?)

(もう言い返すの疲れちゃった。)


私はこの声に共感をせざるを得なかった。


そして香織さんは呆れた声で


「もう、いいわ。お休み。」


そういって部屋を出ていった。

私の心の中はズタズタになっていて、噴火寸前の火山と巨人に踏み荒らされた花畑が広がっていた。

それでも数秒すればいつもの綺麗な景色に戻ってしまう。

これは今まで生活してきて習得してしまった”私”の特性なのだろうか?わからないけど冷静になって自分の今やるべきことをやっていた。


しかし、私の夢はここで終わることはなかった。いや、これは夢ではないのかもしれない。タイムスリップと言っても過言ではないだろう。急に周りの時間が加速していった。

これは…別の日だろうか。休日みたいだ。

”私”は休日らしく漫画を読んでいるみたいだ。

とても楽しそうに読んでいる。


ふと私は疑問に思った。あんなに五月蠅い香織さんが許すわけがない。なぜ漫画を読めるのかと。


その時階段を駆け上る音が聞こえた。

”私”は慌てて漫画を隠し、勉強をし始めた。

丁度その時に香織さんが入ってきた。


「何やってたの?」

「勉強だけど…」

「また、何か隠したでしょ。」

「かくしてない!」

「ふーん…」


”私”はほっておいて勉強をし始めた。


「まだ話終わってないんだけど?」

「…」

「暇でしょ、お風呂洗っておいて。」

「いや…、」

「あっ、そうそう。あと買い物も行ってきてね。」

「えっ…」

「じゃあ、よろしく。」


せっかくの休日も自分のために全て使えるわけではなかった。

”私”はイヤイヤながらもそつなく頼まれたことをこなしていた。

それでもやはり腹が立っていた。


(一体”私”のことなんだと思っているんだろう。)


そう毎日思っている自分がいたことを思い出した。


そこで私は決意した。明日香織さんに会ったらホントのことを聞こうと。


そこで私は目が覚めた。まるで長い間眠っていたような感覚だった。

起きたら朝の4時だった。


面会開始時間まであと6時間

何を話すのか考えることにした。

そしてメモを書いていた。


 ・私のことが嫌いだった?

 ・なんでこんなに厳しかったのか?

 ・なんで私の話聞いてくれないのか?

 ・過保護モンスター母親?

 ・私を子供だと思っていたのか?

 etc


ここまで書いてメモをゴミ箱に投げ捨てた。

こんな事聞いても今は意味ないだろう。そう、私は記憶が無いのだから香織さんが本当のこと言ってくれるはずがないのだから…。

じゃあどうやって聞けばいいのか…

そんなことを考えていたらいつの間にか看護師さんが病室に入ってきていた。


「人見さん、大丈夫ですか?」

「はい…。」

「そう、お母さんが来ているんだけどどうする?」

「面会させてください。」

「分かったわ。でも何かあったらすぐナースコール押してね。すぐに向かうから。」


やはり看護師さんの様子はおかしかった。普通身内の面会にここまで心配しない。

昨日のことと言い、何かあるに違いない。私はそう確信し、何を聞きたいのかがはっきりと決まった。

そして数分後香織さんが入ってきた。


「おはよう、夏。」

「…おはようございます。」

「本当に記憶なくしているのよね?」

「はい…、なんでそんなこと聞くんですか?」

「いや、何でもないのよ。」


そう、私は記憶がなくなる前の”私”と同じ態度を取っていたため驚くのも無理が無い。

私は香織さんに率直に聞いた。


「私は香織さんにとってどういう娘でしたか?」

「そうね…。私にとってはかわいい娘だったわ。とても賢くて、言うこともしっかりと聞いていて…」

「そんなことを聞きたいんじゃないんです!」

「…。どういうこと?」

「香織さん、私に虐待してましたか?」

「…!?」


急に香織さんの顔が青ざめた。


「いや、違いました。香織さん、本当に私のお母さんですか?」

「…」

「答えてください。」

「なんで、そう思うの?」

「看護師さんの気に掛け方が異常だったので。」

「そう。」

「じゃあ、私の本当の”母親”ではないんですね?」

「いえ、正真正銘あなたのお母さんよ。でも、過保護すぎたかもしれないと思ってるの。」

「どうしてそう思うんですか?」


そう聞くと香織さんは自分の昔話をし始めた。


「お母さんね。小さい頃からとても厳しい家庭に育ったの。特に中学生、高校生になるとエスカレートしてたわ。多分この時期が一番女の子が大人になっていくからだと思うんだけど…。」


(じゃあなんで私にも厳しくするの?)

そんなことを言いたかったが我慢をした。ここで何か言うと喧嘩になってしまうとスイッチが入ってしまったから。


「私もね。最初はなんで門限が高校生になってもあるの?なんで友達とカラオケ行ったりしちゃダメなの?ってでもね大人になるとわかるの。今は昔よりも簡単にいろんな人と繋がれるとても便利な時代になったでしょ?そのせいでいろんな事件に巻き込まれている女の子がいっぱいいるの見るととても胸が苦しくなるの。」


こんな事を聞くと確かにと思ってしまうがそれ以上に私は親に敷かれたレールを歩くのだけは憂鬱だったのだ。だって、楽だけどその分自分を犠牲にしないといけないからだ。

そんな人生を送るのだけは嫌だ。そんなことを感じていた。これが”私”の本心か知らないが私の本心ではあった。


「そんなことして私のためだと思っているんですか?」

「…ええ。そうよ。」

「今の私から言わせると正直迷惑です。」

「そう。でもね。」

「でもじゃないんです!」

「…」

「ここまで言いました。改めて聞きます。私はあなたにとってどんな人物でしたか?」

「それは。私の叶えることのできなかった夢を叶えさせてくれる娘だと思っていたわ。」

「それは私が純情だったからですか?」

「いや…そうでは。」

「そうですか。じゃあいつあなたは私をあなたの第2の人生としてレールを作っていたんですか?」

「あなたを産んでからよ。」

「そうですか。それは私がなんでも言うことを聞いてくれるからではないんですか?最初あったとき昔は愛おしかったって言いましたよね。それは何でも言うことを聞いてくれる時期だったからじゃないんですか?」

「…」

「そうでは…」

「じゃあ、高校生いや中学生になってからの”私”のことはどう思っていたのですか?」

「それは…」


外では子供たちがサッカーをしてはしゃぎ回ってた。

それに比べここはまるで刑務所だった。私にはそうだったが、香織さんには閻魔大王の前にいる感覚なんだろう。反抗しつつもなんでも言うことを聞いてくれてた娘が急に記憶をなくしてしかもその娘に問い詰められてるのだから。


「もういいです。あなたとの面会はこれでおしまいにします。」

「…」

「看護師さんにもその由を伝えます。」

「それだけは…」

「看護師さんだけは何か知ってるみたいでしたし。」


香織さんはそれっきり黙り込んでいた。

そして時間になったのか看護師さんが戻ってきた。

これは私が決めたわけではなく担当医が決めたそうだ。

急にいろいろ話しても困惑するだけであろうという私への配慮だった。


「人見さん入りますね。」

「どうぞ。」

「お母さん、時間なので外に出ましょう。」


そういって憔悴しきっている香織さんの背中を押しながら病室を出ていった。

私は看護師さんに後でもう一度来るようにお願いをした。

そして、もう一度来てくれた看護師さんに香織さんを部屋に入れないようお願いをした。

そしてなぜ看護師さんが香織さんの面会の時に心配をしていたのか気になって聞いてみた。

そしたら意外な答えが返ってきた。


「それは、妹から打診があったのです。」

「いも、うと?」

「あなたの妹さん、人見麻央さんと言います。」

「人見麻央…。ほかに私の家族は?」

「弟の春輝さん、お父さんの勇さんの四人家族です。」

「春輝さん、勇さん。そう、私にはほかに三人家族がいるのね。で、麻央さんからの打診というものは?」

「そうでした。妹さんからは」


「看護師さん!」

「どうしたの?」

「お姉ちゃんにはお母さんを近づけさせないで!」

「どうして?」

「だって、お姉ちゃんが事故に遭った日の朝、お母さん、お姉ちゃんを殺す計画をしてたの!」

「えっ!?」

「私しか知らないことなの。でもお姉ちゃんが事故に遭った連絡があってすぐに計画を隠してたんだけど…。でも見たんです!だって、殺害計画のノートがあったんです。お父さんも関与していたかわかんないけど…。とにかくお姉ちゃんが危ないんです。」


「そう言って私たちに忠告してくれたの。」

「そうだったんですか…。」


私はそれを聞いたときもしかするとお母さんの計画殺害をしって自殺しようとしたのではないかと思った。それでも疑問に思ったのは香織さんの行動だった。

”私”を殺すつもりだったらなんで私が意識が無くなったときにお医者さんにすぐ駆け付けたのだろうか?

いやもしかするともうあの時から殺害計画は始まっていたのであろうか?私はとても怖くなった。

そして看護師さんにお願いをした。


「すいません。ここに監視カメラを置いてもらえますか?あと、食事も私のだけは別で持ってきてほしいです。お願いします。」

「分かったわ。もう人見さんに全て話したしね。」

「前から気にかけていたんですか?」

「そうですよ。ここの看護師は全員あなたが狙われていることを知って、お母さんが来るときは神経をすり減らしていたんですよ。でも監視カメラまではやりすぎなのでは?」

「私は、香織さんにもう来ないでください。って言ってしまったんです。なんで夜に来る可能性もあります。”私の母”ならやりかねないです。なので、お願いします。」


それから様々な準備を行い、そして疲れて寝てしまった。

この日は夢を見なかった。


そして明日からは妹である麻央さんとの面会が始まる。

妹とのことでとてもワクワクしていた。

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