第8話 異世界からの来訪者
「……ここは、どこ……?」
目が覚めたら、森の中にいた。
自分がどこにいるのかも分からない。
ただ一つ、エレノアとさっきまで森で魔物を倒していた所までは憶えている。確か、さっきまでジャイアントスネークの群れと戦っていた。
それで急に意識が途絶えて―――ここにいる訳だ。
だが、さっきまで一緒だったエレノアがいない。
「……エレノアさん……? どこ……?」
はぐれてしまったか、それともジャイアントスネークに負けて喰われてしまったかのどちらかが予想されるが―――
「……とにかく、探さないと……」
まだはっきりとしない意識のままヨロヨロと立ち上がり、薄暗いトウヒの森の中を歩いて行った。
◇◇◇
巨大な体躯を持つ猪のような魔物―――ビロブルス。レベルは20もある。俺よりも10レベル高い。
そんな奴の弱点は―――横腹の傷痕だ。ゲームでも奴の弱点として広く知られていた。ここを突けば、状況を打開できる筈だ。
俺は剣を構え、側面へと回った。
「あっ、待て! 一人じゃ危険だぞ!」
エレノアの忠告を無視し、木に刺さった牙を抜こうともがくビロブルスの横腹の傷痕に剣を突き刺した。
「やあっ!」
『ガアアアアァァアアッ!!』
突き刺すと、咆哮を上げて暴れ回った。
俺は振り飛ばされ、地面に激突した。
「大丈夫か!?」
「ああ……手応えあったな……」
剣を杖代わりにして立ち上がる。
ビロブルスは体勢を立て直し、再び突進の構えを取った。フーッ、フーッと荒々しく呼吸する。
「また来るぞ……!」
ビロブルスは再びドドドドドっと駆け出した。だが、弱点を突かれて弱っているのか、さっきまでの勢いは失っていた。
「うわっ……!」
二人はまた避けた。
弱点を突かれてもなお破壊力は健在だ。今度は後ろの岩を粉々に砕いた。
「くっ……」
高い報酬と経験値獲得量を期待してこのクエストを選んだが……ここまでとは聞いていなかった。
やはり、ゲームとは違ってここは現実なのだ。思い通りにいかないのは当たり前。
―――ならば、ここはエレノアに任せるしか……
「シリル、大丈夫か?」
エレノアが駆け寄って来た。
「ああ、何とか」
「あの獣……厄介だ……ここは私に任せてくれ」
剣を構え、ビロブルスの方を向く。
「……【ライトアロー】!」
エレノアは【ライトアロー】を唱えた。
剣を振ると―――その軌跡から光の矢が放たれた。
光の矢はビロブルスの横腹―――丁度傷痕に見事に刺さった。
『ギャアアアアァア!』
ビロブルスはレベルが80も上の相手の攻撃に耐えられる筈もなく―――断末魔を上げ、ドサッと倒れた。
「お……おお……」
やはり、レベル100はバケモノだ―――俺は改めて彼女の力を実感した。
俺が驚く一方、エレノアはやり切ったようにため息を吐く。
そして、ビロブルスの死骸から経験値が流れ込んできた―――俺は“13”にレベルアップした。
◇◇◇
ビロブルスを討伐した後。
俺達は日が暮れない内に町へ戻るべく、森の出口へ向かっていた。
その時、茂みからガサガサと何かが動く音が聞こえた。
「誰だ!」
いち早くエレノアが警戒し始める。
茂みから姿を現したのは―――一人の女性だった。
彼女はエレノアの姿を見るや否や、彼女の名前を叫んだ。
「え、エレノアさん!? 無事だったんですね!」
「「え?」」
状況が理解できずきょとんとする俺とエレノアをよそに、彼女は更に続ける。
「やっと見付けた……もう、どこに行っていたんです?」
ゲームには無い展開の為、よく分からないが―――俺はまたも、彼女に見覚えがあった。
切れ長の青い眼に栗色のロングヘア―――彼女はシリル・アクロイド(女)だ。
ゲームでは主人公シリルは性別を男女どちらか選べる設定だったな……そうとなると、俺が女だった場合の世界線から飛ばされて来たという事か……結論を出すなら、自然とそう行き着く。
彼女―――シリル(女)も俺に気付いたようだ。
「……あれ? あなたは……シリル・アクロイドさん?」
さも見覚えがあるかのように俺を見つめてくる。どうやら、彼女も俺と同じ夢を見ていたらしい。
「あ、ああ……そうだけど……あんたは?」
「アタシも……シリル・アクロイド……」
俺とシリル(女)はふとエレノアの方を見た。
「え? え? どういう事だ……?」
彼女は頭を抱えながら考え込んでいる。突然の出来事に頭が追い付いていないようだ。
そらまあ、この世界線のエレノアは女のシリルに会った事が無いからな。混乱してしまうのも無理はない。
「何なんだ……私、この人に会った事ないんだけど……」
急に砕けた口調になる。
その混乱振りにシリル(女)もようやく状況を呑み込めたようで、
「え……会った事無いの……? じゃあ、アタシ……違う世界線に来ちゃったって事?」
と混乱し始めた。
まあ、結論から言えばそうなるだろう。
だが、ここで話し合っている場合ではない。ここは魔物がうじゃうじゃいるダンジョンのど真ん中なのだ。
「……と、ともかく、詳しい事は後で話そう……クエストも済んだ事だし、早く町に戻ろう」
俺は二人に催促する。
「……そのようだな……シリル、君も付いて来てくれるか……?」
「……うん」
二人も同意した。