第7話 初クエスト
ギルドよりクエストを受注した俺達は、町から北へ離れた森を訪れていた。
キコ達の森とは違い、こちらは高い針葉樹が生い茂るタイガだ。そして薄肌寒い。
この森は主人公が最初のクエストを受けて入るダンジョンだ。ゲーム通りに行くならもっと別のクエストなのだが、今回受けたクエストの内容は―――
「……ええと、『ビロブルス討伐』だったな……」
「ああ、そうだな」
生まれて初めて経験するクエスト―――何気に緊張する。
この森は魔結晶の重要な資源地帯だが、ビロブルスはここの奥地を住処とする魔物で、このせいで魔結晶が中々手に入らずギルドは困窮しているとの事。
そして今回のビロブルスはレベル20の強敵。あのエビルトレントよりも強い。
(勝てるかどうか分からないけど……やってみるしか……)
そう思い、キコから貰ったネックレスを握り締めた。
すると突然―――
木々の間から巨大な蛇が姿を現した。
「こいつ……ジャイアントスネーク!」
エレノアが剣を構える。
そういえば、この森はジャイアントスネークの縄張りでもあったな。
だが、レベルは変わらず5のままだ。今の俺なら、倒せない事はない。
しばらくして、同じ魔物が一体、また一体と次々に姿を現す。威嚇するように、赤く細い舌をシュルルと伸ばす。
「こんなに……沢山……!」
いつの間にか、俺達は大蛇の大群に囲まれてしまった。
いきなり大群イベントとか聞いてない。
俺はレベル8とはいえ、流石にこの大群は難しい。しかも魔物との戦闘経験も無いし……一騎当千のエレノアなら何とかできそうだが、いい加減彼女に頼ってばかりでは男として情けない。せめて1体くらいは一人で倒せるようにならないと。
「……エレノアさん、あなたはそっちを! 背中は任せてくれ!」
「……分かった!」
互いに剣を構え、ジャイアントスネークの群れに突っ込む。
これも、ゲームと同じ展開だった。とはいえ予想外のタイミングだ。本来なら、この大蛇の大群はもっと奥の方で発生するイベントの筈だが―――そんな事に構っていられない。
「うおおおおっ! 【ファイアブレード】!」
俺は【ファイアブレード】を唱えた。【ファイアブレード】は炎魔法の一種で、レベル6で習得する。そして炎に耐性の無いジャイアントスネークに対しては多大な効果を発揮する。
そして俺のスキル【魔物特攻】も合わさって、より多くのダメージを与えられるだろう。
炎を纏った刃をジャイアントスネークの腹に叩き付ける。
すると刃はいとも簡単に鱗を切り裂き―――早速一体を倒してしまった。
『ギャアアアアッ!』
「……す、すげえ……」
格下の魔物って、そんな簡単に倒せるのか。レベルが3つ違うだけでこんなにも倒しやすくなるのか……
そんな事を思いつつも、次々と大蛇を斬っていく。
「はあっ! やあっ!」
夢中になって倒していると、奥の大蛇がこちらを睨みつけてきた。
あの目は―――【蛇睨み】を発動した時の目だ。【蛇睨み】は蛇系魔物が持つスキルで、名の通り相手を睨みつけて動けなくしてしまう厄介なスキルだ。
当然だが、レベル関係無く格上の相手にも通用する。俺はその鋭い視線に拘束されて動けなくなってしまった。
「なっ、まずい……!」
動きをピタリと止められる。その隙に、残った蛇達が一斉に襲い掛かる。
「……危ないっ!」
寸での所で、エレノアが間に割って入ってきた。助かった……
「はああああっ……【ライトブレード】!」
光る刃を振り払い―――あれだけいた大蛇を全て薙いでしまった。
戦闘が終わった後の森には、蛇の死体がゴロゴロと転がっていた。
「これで全部か……立てるか?」
エレノアが手を差し伸べる。俺はその手を掴んで立ち上がった。
「ありがとう……何から何まで、助けてもらってばかりだな……」
「気にする事はないさ……さあ、早く進もう」
「……そうだね」
そして、ジャイアントスネークから経験値が流れ込んできた―――俺は“10”にレベルアップした。
◇◇◇
森の奥へと進み続ける事数時間。
かなり奥地へと進んだが、魔物が一体も現れない。
「魔物がいない……この森にはうじゃうじゃいると聞いたが……何故だ……?」
エレノアが首を傾げる。
まあ、エレノアはレベルが100もあるんだからな……ゲームでの魔物は格上の相手を見つけると逃げ出すように設定されていたな。そうとなれば、この世界でもその設定が習性に表れているのだろう。
「まあ、エレノアさんがレベル100もあるから……」
「……」
冗談交じりに話すと、彼女は黙り込んでしまった。
◇
遂に森の最深部に着いた。
昼でもなお暗いほど木々が鬱蒼と生い茂り、魔物の声が低く聞こえ、草花の香りが立ち込める。人の営みひとつ感じられない、恐怖すら覚えるほどの大自然の懐―――ダンジョンに相応しい雰囲気だ。
その更に奥には洞穴がある―――ビロブルスの住処だ。
「……遂に、来たな」
「ああ」
警戒していると、洞穴の中から大きな獣が姿を現した。
人間を丸呑みにできてしまいそうなくらいに大きな体を持つ猪のような姿をした魔物―――こいつがビロブルスだ。顔には巨大な牙、横腹には大きな傷痕がある。ブルン、ブルンという特徴的な息からその名が付けられたそうだ。
警戒するようにこちらを睨みつける。
『ブルルルルッ!』
「……来るぞ!」
剣を再び構えた瞬間、ビロブルスが突進して来た。
迫り来る巨体―――当たったらただの怪我では済まない。
ズドン!
「うわっ!」
咄嗟に避ける。エレノアならまだしも、今の俺なら一撃で死んでいただろう。
ビロブルスがぶつかった木は大きな音を立て、根本からへし折られてしまった。
「ひっ……」
その破壊力に思わず足がすくむ。
思い出せ―――ビロブルスにも弱点がある。
それは―――横腹の傷痕だ。
◆ビロブルス
【分 類】 獣系 / ボス級
【レベル】 20
【ランク】 D
【スキル】 【咆哮】
森の奥地に棲む大型の魔物。突進はかなり強烈。