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異世界の夢を見た男  作者: クリーミー
第一章 始まりの大陸
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第6話 ヨークの町

 目が覚めると、そこは町の路地裏だった。丁度日陰にあるのか、暗くジメジメとしている。

 ゲームとは訪れ方が違うが、まあ到着できたので良しとしよう。


「う……うぅ……」


 体を起こして辺りを見回すと、隣にはエレノアが倒れていた。彼女が携えていた剣や、担いでいた袋も無造作に投げ出されていた。


「え、エレノアさん……」


 体を揺すると、彼女はすぐに目を覚ました。


「ん……シリルか……」


 そして体を起こし、辺りを見回した。


「確か……私達はさっきまで何を……」


「ええと……キコさん達に町まで送ってもらったんだっけ……」


「……そうだったな。早く行こうか……」


 そして剣と袋を持って立ち上がった。俺はキコから貰ったネックレスを首に掛け、彼女に続いた。



 ◇



「わあっ、大量ですね!」


 町のギルドの集会所にて。

 袋の中身を確認した受付嬢がキャッキャッとはしゃいでいる。


「大量な上に、全てがほぼ無傷……!」


 と言って依頼書に『解決済』とのスタンプを押し、報酬の金貨100枚を渡した。


「これなら、より質の良い魔法装備が作れそうですね! ありがとうございました!」


 と受付嬢はペコリとお辞儀した。


「ふう……これで終わったな……」


「ああ……どこか宿を探さないと……」


 ピッケルを返却し、集会所を後にした二人は街道に出た。

 ここが“ヨークの町”か……ゲームで何度も見たので見慣れているが、実際に訪れてみると『スペルボーン』舞台の聖地巡礼をしているようでワクワクする。

 ヨークの町は主人公シリルことゲームでの俺が最初に訪れる、いわゆる“始まりの町”だ。世界中の冒険者が集まる一大拠点として栄える商業都市であり、序盤ではアイテムを買い揃えるのにうってつけの場所だ。

 それにしてもこの素朴ながらもカラフルで美しい街並み―――田舎者の俺にとってはロマンを掻き立てられる。


 道行く通行人達がこちらを見ている。


「すげえ……あんな美人、ここにいたっけ?」「綺麗……となると、隣の男は恋人かな?」「羨ましいぞ、あの男……!」


 ゲームで散々聞いた台詞を飛ばしてくる。みんなエレノアしか見ていないようだ。

 まあ、美人でレベル100なのだから注目されて当然か……



 ◇



 二人はヨークの町にある一軒の宿へと入った。その頃には既に夜になっていた。


「いらっしゃい……って、エレノアか」


「ああ、また来たぞ。ジェロームさん」


 ジェローム―――ここで宿を経営する壮年の男性だったな。エレノアはこの宿の常連らしい。


「また泊まりに来たのか?」


「ああ。一晩ここに泊まらせてくれないか?」


「分かった。なら金貨5枚だ。それで、そこのあんちゃんは……」


「彼はシリルだ。まあ、仲間だな……」


「そうか……そんじゃ、2階の3号室が空いてるからそこで寝泊まりしな」


 彼はそう言って階段の方を指した。



 ◇



 ジェロームに案内されて、俺達は指定された個室に入った。

 暗い個室には丁度2人分のベッドが置かれている。


「……はぁ~っ……疲れたぁ~っ……」


 部屋に入るや否や、エレノアが大きくため息を吐いてベッドに寝転んだ。それほど疲れているのだろう。

 二人とも疲労困憊だったので、今夜はさっさと寝る事にした。


「ふぅ……」


 ベッドで眠るこの安心感……数日振りだなあ。

 自然と眠くなっていく。


「……シリル、ちょっといいか?」


「ん? 何?」


 隣で眠るエレノアに声を掛けられ、俺は彼女の方を向いた。


「……今までありがとう……実を言うと、私の事をしっかりと聞いてくれたのは君が初めてなんだ……」


「そ、そうかな……?」


 まあ、彼女の気持ちも分からなくはない。

 家内から迫害され、冒険者として町に逃げ出しても孤独だった。彼女の人生は、孤独という言葉を体現させたような物だからな……唯一の知り合いであるジェロームとも、腹を割って話した事なんて無かったし……



「だから……」



「だから……私と、パーティを組んでくれるか?」



 彼女はクールな性格だが、その裏側はとても純粋で寂しがり屋なのだ。当然、男として拒否する事はできない。


「……分かった。一緒に、冒険しよう」


 そう答えると―――



「ふふ……ありがとう」



 と、彼女は優しく微笑んだ。






 ◇◇◇






 翌朝。

 宿を後にした二人はヨークのギルド街を訪れていた。

 ギルド街は冒険者の為の様々なサービスを提供している、いわば商店街だ。ちなみにクエストと冒険者登録は集会所にて取り扱っている。

 しかしながらも、ここの賑わい振りはゲームと全く変わらない。防具や武器を売る装備屋の他に、食堂、医療所、保険所、アイテム屋といった店が軒を連ねる街道は多くの人々が行き交っている。


「……よし、これで揃ったな」


 装備屋にて。

 胸当て、脛当て、厚底のブーツ、剣を一通り買い揃えた俺は早速装備してみた。意外に似合っている。


「どうだい? 着け心地は」


「バッチリだよ。何から何までありがとう」


「そうか。それじゃあ、今度は冒険者登録だな」



 ◇



 ギルドの集会所にて。


「……それでは、こちらがシリル様のステータスになりますー」


 能力鑑定を終えた後、マニュアル通りの台詞で話す受付嬢が鑑定結果として俺のステータスを告げる。


◆シリル・アクロイド

【年 齢】 18

【レベル】 8

【職 業】 冒険者

【クラス】 剣士

【スキル】 【魔物特攻】


「ふーむ……こんな所か……」


「さて、これで私と冒険できるな」


「ああ、そうだな」


 さて晴れて冒険者になった事だし、早くレベルを上げて、エレノアに追い付かなくては。

 その為には―――まず、クエストを受けるべきだな。

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