第1話 異世界の夢
俺は夢を見ていた。
それはそれは長い夢で、俺はそのゆりかごのように心地良い暗黒の空間をたゆたいながら、とある景色を見ていた。
確か、こことは異なる世界にある“日本”という国を舞台としていた。かの国はこの世界とは違い、魔法が存在しないらしい。その代わりに機械を発達させ、平和と繁栄を謳歌していた。
そんな“日本”で、とあるRPGがあった。
そのRPGは―――『スペルボーン』という題名だった。
世界を脅かす魔王とその配下の四体の悪魔から世界を救うべく仲間と共に戦うという、いわゆる王道RPGだ。
『スペルボーン』というごく単純な名前だが、アドベンチャー要素やその他諸々のやり込み要素も充実しており、広大なフィールドや幅広いプレイスタイル、作り込まれた設定などもあって、決して有名ではないもののファンからの根強い人気を誇るゲームだった。
そんなスペルボーンの主人公が―――
―――“シリル”という、栗色の髪に青い瞳の田舎出身の好青年だった。ゲームの仕様上、性別を選択できるらしいが……
シリル―――つまりは、俺……
俺はどうやら“日本”ではゲームのキャラクターとして登場していたらしい。
色々気になる所ではあるが、どうやら夢にも終わりが来たようだ。
場面は丁度、ゲームクリアの画面に移った。人々に迎えられながら故郷に帰って行く俺ことシリルと壮大なBGMと共に、製作者であろう人物達の名前が流れていく―――丁度、スペルボーンのエンディング画面だ。何度も夢の中で見ているのだから、すぐに解かる。
長いスタッフロールの最後に製作会社のロゴと社名が表示され、BGMもそこで終了した。
そして、暗くなる画面と共に、俺の視界も暗くなっていった……
◇◇◇
体が流されるような感覚と共に、俺は長い夢から覚醒した。
目を覚ましてまず、周囲の状況を確認した。体を起こして辺りを見回すと、そこは木々が鬱蒼と茂る森だった。
俺はその森の奥地にある大木の根元に寝転んでいた。木漏れ日と爽やかな涼しい風が心地良い。
しかし、それまでの記憶が曖昧だ。さっきまで眠っていたのは分かるが、その前まで俺は何をしていたのだろう……
思い出した―――俺は冒険者として故郷の村を飛び出し、旅をしているんだった。
5日ほど前に両親との激しい口論の末、勘当される代わりに旅に出る事をようやく認めてもらった―――が、行く当ても明確な目標もなく、ただ延々と続く草原を歩いていたのだが―――急に意識が途絶え、目が覚めたらこの森の中にいるのだった。
それにしても、突然の事実発覚に頭がついていけない。一体、あの夢は何だったのだろうか。夢としてはやけに現実味を帯びている夢だったし……もしかしたら、次元を越えて別の世界を覗き見ていたのかも知れない―――
ふともたれ掛かっていた大木を見上げる。それはクスノキのように大きな、大層立派な木だった。根本がツタで覆われ、リスやモモンガなどといった小動物が枝を駆け回る”自然の要塞”とも言うべきであろう。
だが、よくよく考えてみれば、初めて足を踏み入れる筈のこの森と大木にはどこか見覚えがある。
何か嫌な予感がする―――
―――俺の勘は的中した。
『シャアアアァァァッ!!!』
直後、耳をつんざくような咆哮と地響きと共に、一体の大蛇が地面を割って現れた。この木と同じくらいありそうな大きさだ。鋭い視線で俺を拘束するかのように睨みつける。
俺はその迫力に怖気づき、その場に尻餅をついてしまった。
今まで見た事のない魔物だ。噂には聞いていたが、世界にはこんな化け物がいるのか……正直、想定していなかった。こんな事になるのなら、事前に準備を徹底しておくべきだった。だが、いくら準備を固めた所でこんな巨大な怪物に立ち向かえるのか……
俺は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。また恐怖で動揺し、後悔し諦め始めつつも、同時に強烈な既視感に襲われていた。
それにしても、何というか夢のゲームで見たような展開だ。この大蛇も、ゲームで似たような魔物を見かけたし……
そう思っていると、どこからか足音が聞こえてきた。
「―――危ないっ!」
聞き覚えのある叫び声と共に、茂みの中からピッケルを背負った一人の女剣士が剣を構えて躍り出た。そして大きく振りかぶって高く跳び上がったと思いきや、大蛇を剣でズバッと一刀両断し、一撃で倒してしまった。
斬られた大蛇はズシーン……と切り倒される巨木のように倒れ、全く動かなくなった。
「お……おおお……」
俺はその光景を見て、思わず感嘆の声を漏らした。
彼女は俺の前に背を向けて降り立ち、そしてすぐに振り返った。
「間に合った……大丈夫か? 怪我はない?」
颯爽と現れた金髪碧眼の美しい女剣士―――俺は彼女に何となく見覚えがあった。
という事で、新連載開始です。
一話2000~3000字程度を目安に書いていく予定です。まだまだ稚拙な部分が目立つかも知れませんが、宜しくお願いします。
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