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2話 ひとりで

「フェイ、珍しいな、今日は一人かい」

村に帰った僕に気づいたギルべが気さくに声を掛けてきた。彼は誰にでも人懐こく声を掛け気遣ってくれる、村の調整役のような人だ。

「ギルべさん、こんにちは。ちょっとありましてね」

ごまかしてはみたけれど、彼女が勇者様と一緒に村を出て行くことになればわかってしまうことではある。でも自分では言いたくなかった。今日は、あまり村の人と顔を合わせたくなかったので狩りに出るには遅い時間だったけれど、狩猟装備をまとい森に向かった。僕の狩猟装備は一般の狩人が武器は1メルドに満たない短めの竹弓を基本にし動きやすく手足まで覆う厚手の布の服をまとうのに対して、服装こそ同じようなものだけれど板金で部分的に補強をした1メルド20セルチの板弓をメインに刀身80セルチのブロードソードを補助に装備している。神様から頂いた職業補正の祝福で小柄な僕でもこれだけのものを自由に操ることができる。村では”大物狩のフェイ”なんて呼ばれて、これでも狩人としては1人前以上だ。当然村の中では余裕のある生活をしている方だと思う。そんな僕と幼馴染の彼女はいつも一緒にいたので村では婚約者もしくは事実上の夫婦として扱われていた。そう、余裕のある生活をしている年頃の男と、その男と仲のいい年頃の女。となればそういう扱いは当然だった。そして、僕の中でも彼女は特別な異性だった。自然な流れで男女の仲にもなった。近いうちには教会に届けて正式に夫婦として同居するつもりだった。彼女も僕の事を特別な異性として見てくれている、”ただ一人の男”として愛してくれている、そう思っていた。いや実際10日前まではそうだったのだろう。その僕たちの15年をたった10日でひっくり返したのが勇者様だった。森へ向かう途中でギルべさんを見かけたので声を掛けておく。

「ギルべさん。森に行ってきます。明日か明後日には勇者様が立たれるでしょうから出立の宴用に何か狩ってきますよ」

「お、おいフェイ、今からって。しかも一人でか?アーセルはどうした」

「アーセルは勇者様と一緒にいますよ。大丈夫、明日の昼には戻ります」

今日は少し森の奥に踏み込むつもりだ。彼女と一緒の時には決して踏み込まなかった領域。この小さい村が重要視される理由の場所に。

 森に入って数時間。すでに森の入り口といえる場所ではなく、僕たちの言葉で中層と呼んでいる領域に僕はいる。ここには入口付近とはけた違いに強い魔獣がゴロゴロしている。僕は慎重にそれでいて大胆に歩みを進める。目的地はまだ先。だが、見つかったようだ。グレートベアをはるかに超える巨体を真っ赤な剛毛で覆ったレッドベア。しかし、まだ距離がある。僕は弓に矢を番え引き絞る。周りに人はいない、だからここなら遠慮はいらない。神様に授かった祝福をのせて弓を放つ。これは彼女にもまだ見せたことのない僕の秘密。レッドベアの額を矢で射抜いた。

 一晩魔獣相手に八つ当たりをして翌日の昼前に僕は村に戻った。細目の森の木を切った台に獲物を載せて引きずりながら。いつもの場所にいるギルべさんに

「ギルべさん、ただいま」

オレを見るなりギルべさんが問い詰めてきた。

「フェイ。何があった。なんでアーセルが勇者様と一緒に旅立つことになっているんだ。フェイも一緒に行くのか」

僕はギルべさんと目を合わせることができなかった。ただ、ひとこと

「昨日、コロシアムで。それに僕はいかないよ」

とだけ言って僕は離れた。

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