63.アップデートの影響
この物語はフィクションです。
普通、アップデートした結果、こうなることなどありえません。
ご都合主義大爆発です。
クランホームに戻ってきた俺達は、一度談話室に行くことにした。
訓練場をどこに置くかを決めるためだ。
「ふ-ん、訓練場っていっても実際にスペースが出来る訳じゃなくて、別空間につながるのね」
ヘルプを見ながらそんな言葉を漏らす、柚月。
「実際に設置するのは、壁に面した場所に設置されるドアだけ、ねぇ。某ネコ型ロボットのドアにも似た機能ねぇ」
アレはどこにでも行けるから、訓練場にしか行けないコレとは違うと思うぞ。
「ねえ、トワ。私達が工房側で使いたいときの扉ってどこに置けばいいと思う?」
「工房の近くが望ましいけど、そんな場所空いてたかな……」
確か、工房部の部屋数は6つ。
そのうち4つは俺達5人が、それぞれの工房として利用中。
空き部屋の1つには『簡易鑑定施設』を置いている。
つまり、残り1部屋空いてはいるのだが……
「空いてる部屋にわざわざ扉1つ設置するのもあれよねぇ……」
確かに、わざわざ扉1つを設置するために空き部屋を使うのもいかがなものか。
「……とりあえず、談話室に仮設で置いてみない? あとは実際の使い心地を試してから、別の場所に移してもいいんだし」
そうだな、別に談話室はクランメンバーしか来ないわけだし、変な扉が1つ増えたところで問題ないな。
どっちにしても、部屋の隅にはホームポータルが置いてあるわけだし。
1つぐらい設備が増えても問題ないだろう。
「そうだな、とりあえず……あそこの壁にでも設置してみるか」
とりあえずの方針を決めた俺達は、仮想インターフェースを表示させ、そこから訓練場への扉を選択、談話室の壁へと配置する。
見た目だけだと談話室に裏口が出来た感じだな。
俺と柚月が訓練場への扉を抜けると、そこにはまさに『訓練場』とでも呼ぶべき、四方を壁に囲まれたなにもない空間があった。
「デフォルトだとこんな感じなのね……」
「本当に何もないな」
「それで、オブジェクトの設置ってどうやるのかしら?」
「ちょっと待って……うん、仮想インターフェースから柵とか標的、後は的、試し切り用の藁人形なんかが置けるみたいだ」
「他に出来る事はないの?」
「他には……壁の形を変えたりも出来るな。円形にすることが出来るらしい。あと、広さもいじれるようだ。今の広さが最大のようだけど」
「それじゃあ、狭くすることは可能なのね。……さすがに、私達の目的じゃ広すぎるでしょ、これ」
「確かにな。ほしいのは数人程度が武器の試し切りを出来るスペースと、同じく数人程度が遠距離攻撃を試せるスペースだからな」
目的を考えれば、こんな広さは必要ない。
「それじゃ、その辺の設定は……後で誰がするのか考えましょうか」
「……そうだな。別に、今すぐ使えるようにしなきゃいけないわけじゃないしな」
目の前の問題を棚上げする事にして、俺と柚月は談話室に戻る。
そこにはユキだけじゃなく、ドワンとイリスもいた。
「おう、帰っておったか2人とも」
「おかえりー。なんか壁紙とかいろんな種類があったんだって?」
「ただいま。目移りするぐらいはたくさんの種類があったわね」
「それで、2人はどうして談話室に?」
「んー、ドワンと休憩にきたんだけど、ユキちゃんから2次職をどうしようかって話になってねー」
「うむ。今日のアップデートのおかげで生産系2次職だからのう」
「私はそう言うことに詳しくないので、2人の話を聞ければなって」
生産系2次職?
俺が遅れ気味なのは気がついてたけど、3人はもう目の前まできてるのか?
「そういえば、私も2次職を何にするか決めてなかったわね。トワは考えているのかしら?」
「うん? 2次職への転職なんてまだまだ先だろう?」
少なくとも、俺はまだ折り返し地点にすら到達してないはずだ。
確か、1次職の最大レベルは20のはずだから。
「……ねえ、トワ。今日のリリースノート読んでないの?」
柚月が俺に問いかけてくる。
その表情はどこか疑わしげだ。
「リリースノートなら一通り読んでるはずだが……何か変わったこと書いてあったか?」
「……生産職の変更点は読んだかしら?」
「ああ。生産系のレベルアップまでに必要な経験値が減って、レベルが上がりやすくなるんだろう?」
「その通りよ。で、その後のことは読んだのかしら?」
「その後? 何か書いてあったか?」
うーん、記憶にないな。
「じゃあ教えてあげる。レベルアップまでに必要な経験値テーブルそのものが変更されたのよ。だから、私達みたいに上位の生産者はアップデート前に比べてレベルアップしているの。トワ、今日ログインしてからステータス画面見てないのかしら?」
ステータス画面か。
そう言われれば、しっかりと見た記憶はないな。
ライフルを作ってた時に【魔石強化】のレベルを確認したぐらいだ。
「じゃあ、黙ってステータスを見てみなさい。きっと驚くから」
「? わかった」
柚月に促されるままステータス画面を開く。
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名前:トワ 種族:狐獣人 種族Lv.25
職業:メイン:見習い銃士Lv.20 MAX Over5
サブ:初級錬金術士Lv.20 MAX Over4
HP:130/130 MP:192/192 ST:134/134
STR:10 VIT:20 DEX:39
AGI:24 INT:47 MND:28
BP: 0 SP:65
スキル
戦闘:
【銃Lv30 MAX Over8】【格闘Lv30 MAX】【体術Lv3】
魔法:
【炎魔術Lv8】【海魔術Lv10】【嵐魔術Lv9】【雷鳴魔術Lv9】【氷雪魔術Lv8】
【神聖魔術Lv9】【魔導の真理Lv12】【魔石強化Lv12】
生産:
【初級錬金術Lv30 MAX Over 2】【初級調合術Lv30 MAX】【料理Lv24】
【生産Lv50 MAX Over12】【道具作成Lv1】【家具作成Lv1】
その他:
【気配察知Lv35】【魔力感知Lv35】【夜目Lv32】【隠蔽Lv35】
【看破Lv35】【罠発見Lv32】【罠解除Lv32】【罠作成Lv1】
【奇襲Lv39】【隠密Lv40】【採取Lv26】【伐採Lv16】
【採掘Lv35】【言語学Lv13】【集中Lv26】
特殊
【AGI上昇効果・中】【INT上昇効果・中】【風属性効果上昇・中】
【風属性耐性・中】【二刀流】【眷属召喚】【魔石鑑定】
眷属
【神狼・フェンリル(幼体)Lv8】
称号
【初心者講習免許皆伝】【風精霊の祝福】【かつての英雄に連なる者】
【初級錬金術士】【初級調合士】【魔導を求める者】
【眷属を従える者】【神狼に打ち勝ちし者】【神狼の導き手】
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「なっ」
サブ職業のレベルがカンストして4オーバーしてる。
他にも、【初級錬金術】【初級調合術】【生産】スキルもカンストして、中にはオーバーしてるモノもある。
いったい何が起こった?
「驚いたようね。で、あなたのレベルはどこまで上がってたのかしら?」
「……1次職カンストのオーバー4」
「あら、抜かれちゃった。私、1次職カンストのオーバー2だったわ」
「……この様子だと皆もか?」
「まあ、そう言う事じゃ」
「ボクらも全員1次職カンストしてたんだよねー、ログインしてみたら」
「わしなんぞGMコールまでしたぞ。もっとも、『アップデート後の経験値テーブルに基づく正しい値です』と言われてしまったがの」
「……ちなみに、ユキもか?」
「えーと、私はレベル19かな。あと少しで20になるみたいだけど。……今、必要経験値の98%みたいだから」
つまり、すぐに2次職へのジョブチェンジが入ると。
ああ、そうか。
やたらと今日の錬金が上手くいったり、錬金術ギルドで新職業の話が出てたのはこのせいか!
「その様子じゃと、まったく気がついていなかったようじゃの」
「……やたらと調子いいな、とは思ってたけど。こんな理由があるとは思わなかった……」
と言うか、アップデート前の経験値テーブルきつすぎないか?
まだ、折り返してなかったのに一気にレベルマックス超えとかおかしいだろ……
「それで、皆はどうする予定なんだ?」
「うむ、わしは中級鍛冶士じゃな。特化型にするには、わしの受け持ってる作業が広すぎる」
「ボクも、中級木工士だねー。杖も弓も作成するからねー」
「私も中級裁縫士ね。一通り説明は聞いてきたけど、顧客のことも考えると特化型は選べないわね」
「……そうか。それでユキはどうするんだ?」
「私はまだ何になれるか聞いてないから……多分、私も特化型は選ばないと思うよ」
うん?
聞いてないってどういうことだ?
「サブジョブの職業レベルをMAXにした後、第4の街にある各職業ギルドにいくと説明を受けるのよ。あなたも聞いてきたんじゃないの?」
「いや、俺の場合、別件で用があって錬金術ギルドによっただけで……まあ、説明は受けてきたけど」
「そう、それでトワは何になるつもりなのかしら?」
そう言われてもな……
ジュブの項目を選ぶと、今、転職可能な職行の一覧が表示されるのか、どれどれ……
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中級錬金術士
錬金術を一定レベルまで修めた者
錬金によるアイテム作成に補正効果・中
錬金使用の際、器用さ判定にボーナス・中
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錬金薬士
錬金術と調合術を一定レベルまで修めた者
錬金によるアイテム作成に補正効果・中
調合によるアイテム作成に補正効果・中
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魔法錬金術士
錬金術と魔術を一定レベルまで修めた者
錬金によるアイテム作成に補正効果・中
魔法系スキルの行使にボーナス・小
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他にも種類はあるみたいだけど、俺が選べるのはこれだけか……
ああ、これしかないよな。
「俺は錬金薬士かな」
「あら、特化型なの? その心は?」
「錬金と調合両方にボーナスがかかるから」
「ああ、なるほどね」
「トワにとっては、その両方が必要じゃからのう」
「むしろ、錬金より薬作りの方が本職になってるしねー」
「トワくんにはぴったりなんじゃないかな」
まあ、普段は薬士だし、反対する人間はいないか。
じゃあ、転職……って転職を選べないな。
「ああ、ここじゃ転職出来ないわよ。各職業ギルドに行って手続きしないとね」
「そうなのか……知ってれば、さっき転職してきたのに……」
「レベルが上がってることにも気付いていなかったんじゃ、ねぇ」
「大人しく、明日にでももう一度行くことじゃの」
「ああ、そうするよ」
……さすがに今日また行く気にはなれないや。
…………ああ、そうだ。
ドワンにミスリル金のことを伝えなきゃ。
「ドワン、このあと暇? 少し話があるんだけど」
「暇と言えば、暇かのう。それでどんな話なんじゃ?」
「実は……」
ポーン
ドワンにミスリル金のことを話そうとしたときメールの着信音が鳴った。
「……実は、なんじゃ?」
「あーちょっと待って。今メールが……って、なんだこれ!?」
届いたメール。
それは運営管理室からのメールだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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作者のモチベーションアップにつながります。
誤字・脱字の指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。
~あとがきのあとがき~
さすがに経験値テーブルを変更したからと言ってレベルが一気に上昇するなんてありえませんよね。
せいぜい1レベル上がってそれ以上は切り捨てがいいところです。
しかし、これだけの爆上がりをした元の経験値テーブルはどれほどの苦行を強いるものだったのか……





