59.上級錬金セットと新人勧誘と
本話より『~師』を『~士』に置き換えています。
本来ならもとより『~士』のほうが正しかったのですが、気づいたのが最近なので……
過去分についての置き換えは修正箇所が非常に多いため余裕があるときにやっていきます。
「おや、いらっしゃいませトワ様。どうなさいました? 本日は用事がおありだったのでは?」
錬金術ギルドに戻ってきた俺は、不思議そうな顔をしたメシアさんからそう言われた。
そりゃあ、3時間ほど前に「用事がある」って言って去った人間がまた来たら、不思議に思うよな。
「その用事は終わったんですが、結局、また錬金術ギルドに来る必要が出来まして……」
「そうでしたか…… それで今回のご用件はなんでしょうか」
「実は上級錬金セットがほしいのですが、ここで取り扱っていますか?」
まずはこちらをどうにかしないと先に進めない。
「上級錬金セットですか……上級錬金セットの販売は、王都の錬金術ギルドの管轄になりますね」
王都か、それは困った。
王都、俺達の呼び方で言えば【第5の街】へ行くのは、さすがに無理がある。
タイガーベアに使ったような『INTを上げて魔法で殴る』じゃ、ボスを倒しきれないだろう。
「うーん、どうにかなりませんか?」
「こればかりは規則ですので、何か特別な事情でもなければ……」
特別な事情か……
あの紹介状はどうだろう。
「実は錬金術ギルド宛てに紹介状を預かってきているのですが」
「紹介状ですか……お預かりしてもよろしいでしょうか」
「はい……これですね」
オジジに書いてもらった紹介状をメシアさんに渡す。
メシアさんは紹介状の裏に記載されている紹介元の名前を確認すると、
「少々お待ちください。すぐにギルドマスターに取り次ぎます!」
とだけ言い残して足早に奥へと向かっていった。
……オジジ、何者なんだよ。
「お待たせしました。ギルドマスターから面会の許可が下りましたのでこちらへどうぞ」
確か一昨日も通った道を歩き、ギルドマスターの部屋へ案内された。
「ようこそトワ君。数日ぶりだね」
「はい、ラクウェルさん」
挨拶もそこそこに、今回の件について相談する。
「紹介状は読ませてもらったよ。まさかサザン殿の紹介状を持ってくるとはね」
「サザン?」
おや、知らない名前が出てきた。
「君に紹介状を渡したガンナーにして錬金術士だが、名前を聞いてなかったのかね?」
「はい、俺が会ったときには『オジジ』と名乗っていたので」
「なるほど。あの御方らしいといえばらしいか」
どうやら、そういう人らしい。
「それで紹介状の件だが、まず上級錬金セットについてだ」
「はい、何でも王都のギルドじゃないとダメだとか」
「本来であればな。ただ、今回はサザン殿の紹介だ。特別に当ギルドに運んでもらって販売しよう」
「いいんですか?」
「ああ、構わないさ。君のギルドランクも上級錬金セットの販売に問題ないところまで上がっているし、何よりサザン殿から頼まれてしまっては断るわけにもいかない。ただし、本来の金額に輸送費を追加でもらう事になるが構わないかね?」
「おいくらになりますか?」
「上級錬金セットの値段が50万E、輸送費が10万Eの合計60万Eだ」
さすがに俺でも60万Eはポンと出せる金額ではない。
だが背に腹は代えられないか。
別に足りない訳じゃないし。
「わかりました。ここでお支払いすれば?」
「後で受付にて会計を頼むよ」
「わかりました。それからもう1件書かれていたと思いますが……」
「ミスリル金のレシピだったな。こちらについても問題ない。ちょうどギルドランク12から開示される情報だからね」
よかった、こちらについても問題なかった。
「ただし、レシピの代金はいただくよ。10万Eだ」
「高いですね……払えるのでお支払いしますが」
「上級レシピとなればこのような値段になるのだよ。他にもいくつか開示できるレシピはあるが、どれも決して安いとは言えない金額だ」
……とりあえず所持金の半分ぐらいは、今回の件でなくなったな。
半分ですんだ、と見るべきか、半分も使ったと見るべきか。
「それにしてもサザン殿からも紹介を受けるとは、君もなかなか大物のようだね」
「そんな事はないですよ。ただの初級錬金術士です」
「君の腕前ならばすぐにでも中級錬金術士になれるが……あるいは別の道に進むことが出来るかもな」
「別の道?」
新しい職業についての情報か?
「そうだな、君になら教えても構わないか。まずは中級錬金術士になる道。これは一般的な錬金術士が通る道だな。次に、錬金薬師。これは錬金術と調合の双方で一定以上の腕前を持つ者が進む事が出来る道だ。最後に魔法錬金術士。本来の錬金術士よりはるかに高い魔法力を持つ者だけが選べる道だ」
「……想像以上に色々な道があるんですね」
「初級を卒業するとはそういうことだ。汎用的な知識を持った道に進むのか、特化した道に進むのか。それを決める事が出来るようになって、一人前だからね。そういう意味ではすでに君の腕前は一人前と呼んでも差し障りないのだが」
「どの道を選ぶかは、もう少し時間をかけて選びますよ」
「うむ。それがいいだろうな。参考程度だが、サザン殿は魔法錬金術士を極めた御仁だよ」
そんなにすごい人だったのか、オジジって。
「何せミスリル金のレシピを開発したのは、サザン殿だからね。ギルドとしても無碍には扱えないんだよ」
「ああ、それで鍛冶ギルドにも紹介状を……」
「鍛冶ギルドにミスリル金の作り方を教え、鍛冶師が作れるようにした貢献者だからね」
そんな人が家族喧嘩で隠居生活か……
「ともかくそういう訳だから購入するなら、受付で手続きを行ってくれ」
「はいわかりました。ありがとうございます」
ギルドマスターと別れた俺は、メシアさんのいる受付に戻り、上級錬金セットとミスリル金のレシピを購入する旨を伝える。
「……はい、70万Eを確認いたしました。ミスリル金のレシピにつきましてはすぐにご用意出来ますので少々お待ちください。また、上級錬金セットですが、こちらは王都より取り寄せになります。取り寄せに4日ほどかかりますので、4日後以降においでいただければお渡しできます」
「わかりました。ところで上級錬金セットってホーム設置型ですよね? 持ち運び出来るんですか?」
「ホームオブジェクトに使用されている物と同じ魔法で、持ち運び可能なサイズに圧縮されていますので問題ありません。設置につきましてもすでにお持ちの中級錬金セットに設備を追加する形となりますので問題ないかと」
「わかりました。それでは4日後以降に受け取りに来ますね」
「はい、お待ちしております。それから、ランク昇格に伴う特典について説明したいのですが、今回はお時間大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
その後、俺はランク10になった事による特典について説明を受けた。
ギルドで販売している素材の上質化や種類の追加、新たなレシピの販売、他ギルドへの紹介サービスなど色々とできることが増えたようだ。
それから、ついでのように「本来ランク10を越えた錬金術士は王都を活動拠点とするものですが」と言われてしまった。
ランク詐欺状態になってて申し訳ない。
俺はミスリル金のレシピを受け取ってから、ギルド内に設置されている販売所に向かいクランホームの出張販売所への販売設定を行う。
そして、新しく販売される事になったレシピを何となく眺めていたらフレチャが入った。
『はーい、トワ、今暇?』
「柚月か。ちょうど暇になったところだな」
『じゃあクランホーム集合でよろしく。他の皆はすでにそろってるから』
「了解、今、第4の街の錬金術ギルドだからすぐにそっちに行けると思う」
『じゃあ待ってるわね』
フレチャは手短に終了したので、転移門へと向かいクランホームへと戻った。
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「こんばんは、トワ。またやらかしたみたいね?」
「うむ、掲示板は大騒ぎになっていたぞい」
「トワは無自覚にやらかすタイプだからねー」
「えっと、こんばんは、トワくん」
クランホームの談話室には全員がそろっていた。
「こんばんは。それで今日の議題はなんだ?」
「とりあえず、うちのクランとして新人勧誘するかどうかの確認よ」
「しなくていいんじゃないか?」
「うむ、必要ないのう」
「教育とか管理とかしなきゃいけないのは面倒だしねー」
「ええと……私はどちらでも」
「んじゃ、反対4の棄権1で『新人勧誘はなし』という事ね」
「それでいい」
「りょうかーい」
「わかりました」
「わかった」
「あ、それでも誰か入れたいときは相談して決める事にしましょう」
「そうだな。俺もユキを入れた手前、誰も入れないとは言えないからな」
「まあ、あたしらは身内クラン同然だからね」
「誰かの紹介でもなければ増やす必要はなかろう」
クランの新人勧誘につての相談だったようだが、流れるように却下されて終わってしまった。
「今日、他に何か話すことない? なければちょっと狩りに行ってきたいんだけど」
「そうじゃの……はて、何かホーム設備を買いたいような話をしてたような」
「……ああ、そういえばそんな話を最近してたな……なんだったっけ?」
「2人ともボケるにはまだ早いよー。試射スペースがほしいって話だったじゃない」
「あー、そうだ。試し切りとか試し撃ち出来る施設がほしいって話だった」
「そうじゃの、すっかり忘れておったわい」
「しっかりしてよー。ほんの数日前じゃない」
「いや、結構忙しい毎日を送ってたからな」
「優先度が低かったからのう。すっかり忘却の彼方じゃった」
イリスの視線から逃れるように、顔を背ける俺とドワン。
「試し切りに試し撃ちねぇ……まあ、武器を扱っているんだしありっちゃありね」
「まあ、最初の動機は俺が新しい武器を作った事なんだけどな」
「私は武器を一切作らないから、そこまで気が回らなかったわ」
「武器作りがメインのわしやイリスでさえ、不便を感じてなかったからのう」
「今だとお客さんもさっさと選んで、すぐ帰るのが普通になっちゃってるからねー」
この会話に関わるものを販売していないもう一人は、プロキオンと遊んでいる。
「で、どうするの? 私は買っちゃてもいいと思うけど」
「わしも出来ればほしいのう」
「ボクもー」
「俺もあると助かるな。今日も検証必要な武器増えたし」
「あ、私もどちらでも構いませんよ」
「それじゃ買いに行きましょうか」
おや、柚月が買いに行こうとするとは珍しい。
「柚月が買いに行くのか? 珍しいな。自分が関わるもんじゃないのに」
「今日アップデートあったでしょ。ひょっとしたらホームオブジェクト増えてるかもと思ってね」
「なるほどな。……ちなみにリリースノートは?」
「読んだわよ。『新しいホームオブジェクトを追加します』とだけ書いてあったわね」
「つまりどこで手に入るかはわからない、と」
「そういうことね。それで一番手近な場所から確認しようかなと思ってね」
「そういうことなら、いいか。俺も一緒に行くよ」
「あら子供のおつかいじゃないのよ? 一人でも問題ないわ」
「単純に試射スペースの仕様を理解してないからだよ。内容を確認してから買いたい」
「そうなの? じゃあ一緒に行きましょうか」
「あ、私も一緒に行っていいですか?」
「構わないわよ、ね、トワ」
「ああ、問題ないぞ」
俺と柚月、それにユキの3人で行くことになりそうだ。
「ああ、そうじゃ。トワ。頼まれていた銃身だがクランの共有倉庫に入れておいたぞ」
「ボク分も入れておいたよー」
ああ、ライフルの検証用素材か。
後で確認しよう。
あ、そうだ、ついでに魔導銃のレシピも渡しておくか。
「2人ともありがとう。で、続けてで悪いんだけど、これもお願いできるかな?」
俺はインベントリから取り出したレシピを2人に渡す。
「これは……なぜ、1日に2種類も新しいレシピを持ってくるんじゃ……」
「それに要求レベルが、すごい高いねー。今日レベルが上がってなかったら大変だったよ」
「上がってもなお大変じゃわい。トワ、これはすぐには高品質品にはならんぞ?」
「分かってるって。俺だってまだまともに扱えるレシピじゃないんだから」
「でもスキル上げには便利そうだね、これ。早速、作ってこよー」
「イリス、今日は寝なくても大丈夫なのかの?」
もう現実時間は午後11時をまわっている。
普段なら、とっくにイリスは落ちなければいけない時間だ。
「明日から休みだからねー。少しぐらいなら平気だよー」
「そうか、それならばいい。わしも少し作って見るとしよう。鉄で構わないな?」
「もちろん。鉄と一般木材で構わないから、とりあえず数よろしく。支払いはまた今度で」
「りょうかーい。スキル上げ的においしいし料金はいいかなー」
「わしもいらんな。どうせ余り物の鉄を使って作るだけじゃからの」
「じゃあ、まかせた」
「おっけー。出来たら共有倉庫に入れておくね」
「同じくじゃ。そっちは任せたぞい」
2人はそれぞれの工房へと歩いていった。
「それじゃあ、私達はホーム屋に行きましょうか」
「そうだな。行こうか」
「うん、行こう」
3人で連れ立って店舗部のカウンターを抜けた、ちょうどそのとき、俺に向かって声をかける者がいた。
「あ、【爆撃機】さんちょっと時間をお願いします!!」
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