51.生産職の実験
「……ふむ、つまり新しい銃を試すために銃のパーツが大量にほしいと」
「トワっていっつも変なもの見つけてくるよねー」
クランホームに戻ってドワンとイリスを捕まえ、魔砲銃の事を相談したら変人扱いされた。
……前も似たような扱いを受けた気がするぞ?
「とにかく、新しい銃を試してみたいからパーツをよろしく頼むよ」
「うむ、よかろう。試しなら材質は鉄で構わないな?」
「ボクも余ってる木材で作っておくよー」
「それじゃ、よろしく」
2人に頼むことは終わったので、自分でやれることをやる。
具体的には市場で魔石の調達だ。
最近では修理魔法『リペア』用に魔石を買うプレイヤーが増えているため、魔石の値段も値上がり傾向だ。
『リペア』を使う際に魔石を使用することで、魔石から魔力を抽出して修復用に使えるためだ。
もっとも、『リペア』で使われる魔石は高ランク品や強いモンスターの魔石を用いる傾向が強いため、ウルフ程度の魔石の値段はそんなに高くないのだが。
市場を確認して、ウルフの魔石を検索。
そして品質を確認しながら10丁分の魔石を購入した。
品質はあえてすべては揃えずに、多少ばらつかせてある。
品質の違う魔石を使って作成した場合、完成品の品質やステータスがどうなるのかを調べるためだ。
魔石の準備も終わってすることがなくなった俺は、自分の工房へと移動することにした。
店舗部をうろついていてもしょうがないと言うのもある。
俺の工房は俺が担当している調合と錬金の設備の他、ユキの料理用設備も置いてある。
ユキはそこで何か料理をしているようだ。
「あ、トワくん。おかえりなさい」
「ただいま。何作ってるんだ?」
「ナポリタン。トマトケチャップ手に入ったから何となく作ってみたくて。あとで食べる?」
「んー、じゃあもらおうか」
俺は調合用の台に向かい、ポーション作成を始める。
ポーション作成と料理を同じ部屋でやったらにおい移りしそうなものだが、このゲームではそういったことはない。
こういうところはゲームらしいといえばゲームらしいところだ。
手早くポーション作成を終わらせて、店の在庫として販売用倉庫に放り込む。
ユキの方でも料理が終わったみたいで、あまりを販売用倉庫に入れて価格設定をしているようだ。
この辺の操作はさすがに手慣れてきている。
作業が終わった俺達は談話室へと移動してナポリタンを食べる。
ちなみに足下ではシリウスとプロキオンがナポリタンを食べている。
フェンリルは『食事を与える必要はない』と言っていたが、この2匹は与えれば与えるだけ何でも食べる。
好みの差はあるみたいだが、基本何でも食べる。
ついでに言うと、ユキも餌付けするのが楽しいらしく、最近は料理を作る度にこの2匹にも与えている。
ナポリタンを食べていたら、工房部からドワンとイリスが出てきた。
「トワできたぞい……っと、何を食べているんじゃ?」
「ボクもできたよー……ナポリタンかな? いいにおいだねー」
「2人の分もちゃんとありますよ。はいどうぞ」
「うむ、すまんのう」
「ありがとーユキちゃん」
ユキからナポリタンを受け取り食べ始める2人。
……こんな風に何気なく食べてるけど、結構VITが上がるバフ料理なんだよな、これ。
ユキが作る料理にバフがつくことは当たり前になってきているため、もう皆気にしてないんだよなぁ。
そんなある意味贅沢な食事をしてると1つ気付いた事があったので皆に聞いてみる。
「そういえば今日、柚月は? 会った記憶がないんだけど」
「柚月なら『レポート作成が忙しい』と言って、在庫確認だけしてすぐ落ちたわい」
「なんだか忙しそうだったよねー」
「まだ4月中旬だって言うのに、もうレポートがあるのか……大学生ってのも大変だな」
「ちゃんとご飯とか食べてるんでしょうか……」
「そこは大丈夫だと思うぞ。『自炊が気晴らしの1つ』って昔言ってたし」
「そんなことも言っていたのう」
食事を終えた俺は、ドワンとイリスから部品を受け取り、早速魔砲銃の性能調査をしようとしたのだが……
「なんで皆ついてくるんだ?」
「暇じゃからのう」
「新しい銃っていうのが気になって」
「私も気になるので……」
どうせ銃の部品を並べてピカッてやって終わりなんだがなぁ。
自分の工房に戻った俺は、魔砲銃製造の準備を始める。
ドワンとイリスは椅子を引っぱってきて観戦モードだし、ユキはお茶の準備を始めている。
シリウスとプロキオンはユキについて行っている。
とりあえず外野は放っておいて、銃の材料を並べる。
銃身とグリップは見事に★8で品質がそろっている。
魔石の方は★2から★4までバラバラだ。
これをいくつかのパターンで組み合わせて性能の差を確かめてみることにする。
そしてできた結果はこれだ。
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アイアンマナカノン(ウルフ) ★5
鉄の銃身とウルフの魔石からできた魔砲銃
一見なんの変哲もない銃だが
しっかりと魔力が込められており耐久性が高い
装備ボーナスINT+12
MATK+16 INT+12
耐久値:180/180
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アイアンマナカノン(ウルフ) ★6
鉄の銃身とウルフの魔石からできた魔砲銃
一見なんの変哲もない銃だが
しっかりと魔力が込められており耐久性が高い
装備ボーナスINT+16
MATK+20 INT+16
耐久値:180/180
―――――――――――――――――――――――
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アイアンマナカノン(ウルフ) ★7
鉄の銃身とウルフの魔石からできた魔砲銃
一見なんの変哲もない銃だが
しっかりと魔力が込められており耐久性が高い
装備ボーナスINT+20
MATK+24 INT+20
耐久値:180/180
―――――――――――――――――――――――
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アイアンマナカノン(ウルフ) ★4
鉄の銃身とウルフの魔石からできた魔砲銃
一見なんの変哲もない銃だが
しっかりと魔力が込められており耐久性が高い
装備ボーナスINT+8
MATK+12 INT+8
耐久値:180/180
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
アイアンマナカノン(ウルフ) ★5
鉄の銃身とウルフの魔石からできた魔砲銃
一見なんの変哲もない銃だが
しっかりと魔力が込められており耐久性が高い
装備ボーナスINT+12
MATK+16 INT+12
耐久値:180/180
―――――――――――――――――――――――
上から順に、★2同士、★3同士、★4同士、★2と★3、★3と★4の組み合わせだ。
それぞれ2丁ずつ作っているが、同じ組み合わせではすべて同じ結果となった。
とりあえず、魔石の品質は揃えた方がいいと言う事と、完成品の品質がMATKと装備ボーナスに影響を与えることは分かった。
「どれ、結果は出たのかの?」
「ああ、結果は出た」
3人にも実験結果を教える。
「つまりはトワの想定通りの結果という訳か」
「一言で言ってしまうとそうなるな。想定通りに行くかどうかを実験するのも調査の1つだからな」
「それで、この実験結果達はどうするのじゃ? 店に適当に並べるのか?」
「あー、それなんだけど。まだ売る気はないんだよね」
「ふむ? 武闘大会まで隠匿すると言うところか」
「まあ、そんな感じ。魔法型ガンナーが他にいるか分からないけど、手札はかくしておいた方がいいだろ」
「まあ、お主の技術だ。お主の好きにするといい」
そういう訳なので、これら試作品の銃達はそのまま個人用の倉庫に……
「ああ、1つ忘れてることがあった」
「なにを忘れてたの?」
「試射をしてなかった。撃つ度にMPが減るんだよね、この武器」
「そうなんだ……使いにくそうだね」
「MPがバカみたいに高い狐にとっては、弾丸を持ち歩かなくていいってだけで便利だけどな」
しかし、これから試射しに行くのか……
「うーん、試射用のスペースがほしい。試し切りとか試射用のスペース、ホーム屋で売ってたよな……」
「ああ、弓とか杖でも試射できるスペースがあれば便利かもだねー」
「近接武器でも試し切りができれば便利かもしれんのう」
「今度全員そろったときにでも買うかどうか相談しようか……とりあえず試射しに近くの森に行ってくる」
「それじゃあシリウスは私が預かっておくね」
「ああ、それじゃあ任せた。それじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ユキ達に見送られて俺はクランホームをあとにして、先ほども行った東の森の奥地を目指す。
今回は1人なので【隠密】スキルと【気配察知】、【魔力感知】を全開にして森の奥まで走り抜ける。
全力ステルスモードだったため、奥地まで一切モンスターに察知されずにたどり着いた。
さて、ちょっとその辺にいる各種ヒグマを相手に試し打ちをしてくるか。
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ヒグマをめちゃくちゃ狩りまくった。
今回のヒグマ達はたくさんの魔石を落としてくれた。
……おのれ、物欲センサーめ……ちくしょう。
検証の結果、★4の魔砲銃では1発につきMP2消費、★5以上の魔砲銃では1発につきMP1消費だった。
ガンナーギルド受付嬢改めメリッサさんの話を聞く限りだと、魔力を弾丸にする必要はあるらしい。
つまりMP消費が0になることはないのだろう。
それから、本来なら弾切れまで全弾発射するスキル、フルバーストはどんな状況で使用しても6発しか発射しなかった。
銃によってこの弾数が変わるかどうかも要検証かな。
それでは今日は帰って落ちるとしますか。
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