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365+1.Unlimited World

本日3話目の更新

昨日から連続更新しています

まだ読んでいない方は昨日の1話目からどうぞ


昨日の1話目直通アドレス

https://ncode.syosetu.com/n6626ev/427/


「それで、結局は元の鞘に収まったわけね」


 ユキ……雪音との話をしてから数日後。

 きちんと仲直りしたことを柚月に報告しておいた。

 柚月も、安心した表情を浮かべている。


「元の鞘に収まったと言うか、言葉の上でのケジメをつけただけというか」

「なんにしても、ユキが大手を振って復帰できるのは喜ばしいことね。あの子ももう少しで、特級生産設備に手が届きそう、らしいし」


 そうなのか。

 ユキも俺がログインできないでいた間、それなりに頑張っていたんだな。


「それにしても、ちゃんと仲直りできたようで安心したわよ。おじさんから、ちょっとこじれてるって聞いてたから」

「それは心配をかけたかな。いまはもう問題ないから安心してくれ」

「そう、わかったわ。……ところで、ユキの姿が見えないけど、一緒に帰っていないの?」

「んー、それがな。ユキ、かなりの間学校を休んでたんだよ。その穴埋めのために、放課後に残って単位を稼いでるところだな」

「そうなのね。……トワ、それは彼氏として一緒に帰ってあげるところじゃないの?」


 ニヤニヤしながら、柚月が俺に告げる。

 柚月も恋愛話は大好物、ってところか。


「残念ながら、俺は先に帰ることになってるよ。というか、ユキの用事がないときだけ、一緒に帰ってる」

「あらそうなんだ。あなたなら、ユキを待ってあげるくらい気にしないと思うけど」


 まあ、確かに柚月の言うとおりだ。

 もっとも、これには理由があるんだが。


「ユキの補講初日に、ユキの下校時刻まで時間を潰していたことがあったんだよ。でも、そうしたら、ユキにガッツリ怒られてな。自分の補講が終わるまで待っていたら、薄暗くなるんだから、ってな」

「ああ、まだ松葉杖をついて歩いてるんだっけ」

「それにも、大分慣れたけどな」


 それでも、薄暗くなってからの移動はかなり大変だけど。


「逆に俺のリハビリがある日は、必ず同行するのに。解せぬ」

「それだけ、あなたのことが心配なのよ。……ところで、ユキの具合はよくなったの? トワの話だと、なかなか日常生活も厳しい状況だと思うんだけど」


 それなぁ。

 確かに、そう思うんだろうけど……。

 俺は、肩をすくめながら回答する。


「一番、精神的な負担になっていたことは、俺のことだったようだ。俺との関係が修復されたら、一気に体調もよくなっていったってさ」

「それもまた、現金な話ね」


 柚月は嘆息をつきながら答える。

 ……でも、精神的な問題って、なにかのはずみで好転することはあるからな。

 一時的な回復状態の可能性があるため、勿論、経過観察は必ず必要なわけだけど。


「精神的な問題は、いろいろとあるからな。ただ、ユキの主治医からは、これからしばらく、できる限りそばにいて体調に注意してほしい、とは言われたけど」

「……実際、二カ月くらい家に篭もりきりだったんだから、体力が落ちてるわよね」

「ああ、ユキと再会したときは、かなりやつれていたからな。もう治ったけど」


 ユキと再会して数週間、ユキの様子も十二月前の明るさと活発さを取り戻した。

 そのほかにも、少し困ったことが増えたが、そっちは些事だろう。


「それで、トワ。あなたは、いつになったら商品販売に復帰できそう?」

「……まだ数週間はかかりそう。いまだと、慎重にやっても★11が限界だし」

「なんでまた、そこまで腕が落ちているのよ」


 腕が落ちた理由なぁ。

 まあ、柚月なら話しても問題ないか。


「俺が右目を眼帯で隠しているのと一緒だよ。事故の後遺症で、リアル側で右腕がほとんど機能していないんだ。こっち(ゲーム)ではそんなことないんだけど、リアルの感覚に引き摺られるから、右手を使った作業が致命的に拙いんだよな」

「……一体、どんな事故だったのか気になるけど……命があっただけ儲けもの、かしらね」

「右腕と右目はダメになったけど、足はなんとか治りそうだからな。運動制限はされてるけど」

「……本当に、どんな事故に遭ったのよ」


 柚月が心配そうにこちらの様子を窺うが、まさか「通り魔に襲われた」とは言えない。

 このまま「事故」で押し切らせてもらおう。


「ともかく、今の状況じゃ、よくて★11、基本★10だ。ウォルナットの作った薬のほうがいいんじゃないのか?」

「同じ品質なら、錬金術経由で作ったほうが効果が高いのよ。……しばらくは、ふたりの薬を併売かしら」

「わかった。ウォルナットも納得しているのか?」

「そっちは確認済みよ。トワが本調子になるまでは、『ライブラリ』に残ってくれるって」


 それはよかった。

 いまの俺じゃ、品質も量も少ないからな。


「それで、これからなんだけど……」

「あ、トワくん! ただいま!」


 柚月の言葉を遮り、ユキが部屋の中に入ってきて俺に抱きつく。

 そして、俺の胸元に顔をうずめ、ぐりぐりと擦り付ける。


「うーん、トワくんの匂いがするよー。補講の疲れが吹き飛んでいく感じー」

「……ユキ、いちおう私もいるんだけど?」

「……あ、柚月さん、こんばんは。トワくんは渡しませんよ?」

「誰もあなたの彼氏を取ったりしないわよ……」


 柚月がうんざりした表情で肩を落とす。

 ユキはいまも、俺の身体を抱きしめて離さない。


 そう、困ったことというのは、ユキの行動だ。

 リアルのほうでもスキンシップが増えているが、ゲームの中ではそれに輪をかけて激しい。

 ログイン直後に抱きついてくるのは、恒例となっている。

 ドワンやイリス、おっさんに曼珠沙華もこれには苦笑を浮かべていた。

 曼珠沙華には「ちゃんと責任、取りなさいよ」とも言われたし。


「ユキ、俺はもう少し柚月と話がある。どうする?」

「邪魔じゃなければ、一緒にいたいな」


 ユキは同席希望。

 柚月のほうも、問題ないのか、ひとつ頷き話を再開する。


「邪魔なんてことはないから大丈夫よ。それで、相談は今後の『ライブラリ』の体制のことなんだけど、入団依頼が結構きてるのよ。トワがいなくなったことで、錬金術が手薄なのを知られたのよね。それで、入団希望者が押し寄せたわけなんだけど……」

「それって相手にする必要あるのか?」

「……ぶっちゃけ、ないわね。ユキもこの件はどう思う?」

「トワくんと一緒にいられる時間が減りそうなので、お断りです」


 ユキのどこまでも自分の都合を優先した回答に、柚月も苦笑を浮かべるしかない。

 クランの雰囲気が変わる、とか、人間関係に不安がある、とかじゃないのがユキらしい。


「それじゃあ、これは全部却下ということで。……その代わり、トワは早めに錬金術を再開してよ」

「わかった。と言うか、銃を作るだけなら、右手は添えるだけだし、素材があれば試作してみるよ」

「了解。練習用素材は用意されてるはずだし、よろしく頼むわよ」


 今日の予定は、錬金術スキルの練習だな。

 そう決めようとしたところに、割り込んできた者がいた。

 ユキだ。


「ダメです。トワくんは、今日、私とジパンでデートをするんです」

「……あら、そうだったの、トワ?」


 柚月が不思議そうに聞いてくるが、俺にとっても初耳……いや、確か……。


「ユキ、確かにジパンでデートをしようって話はあったけど、今日じゃなくてもいいんじゃないのか?」

「ダメです。私は今日がいいんです」

「……トワ、一緒に行ってあげなさいな。銃は数日遅れたって問題ないわけだし」

「すまないな、柚月。それじゃあ、行こうか、ユキ」

「うん! 早速行こう!」



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 ジパンに移動したあとは、ふたりで適当にぶらぶらして歩いた。

 リアルでは、まだ左足がリハビリ中なので、歩き方がぎこちなくなる。

 だがゲームだと、左足の違和感がないので普通に歩くことができる。

 ……全力ダッシュだと、うまく走れるか心配だけど。


 そして、しばらく街中をぶらぶらしたところで、ユキが申し訳なさそうに告げてくる。


「ゴメンね、トワくん。柚月さんの依頼を無理矢理断らせることになって」

「……いや、今日は気にしなくていいさ。急ぎの仕事じゃないし」

「そっか、よかった。これで、今日はトワくんを独り占めできるね」


 ニコニコ笑顔で話すユキ。

 そう、あの話し合い以降、ユキの独占欲が一気に高まった。


 柚月やイリス、曼珠沙華相手に話している分には問題ない。

 だが、学校とかで女子と話していると、目に見えて機嫌が悪くなっていくのだ。

 ……好かれているのは嬉しいけど、ヤキモチ焼きはもう少し穏やかにしてほしい、

 そんな雪音が好きになったのだから、どうにもならないけど。


「さあ、トワくん。クリスマスイベントとお正月イベントに参加できなかった分、今日は目一杯楽しもう!」

「はいはい、わかったよ。ユキの気が済むまで付き合うさ。明日は休みで予定もないからな」

「うん! まずは射的場に行ってみよう!」


 元気に俺のことを引っぱっていくユキ。

 今日もまた〈Unlimited(ゲー) World()〉の空は、青く晴れ渡っていた。


「トワくん、早く行こうよ! 夜更かしするにしても、時間は限られてるんだから!」

「わかったわかった。すぐに行くよ」


 願わくば、今日の青空が明日も続きますように。



365+1話終了



~あとがきのあとがき~



エピローグ完結!

これにて『Unlimited World ~生産職の戦いは9割が準備です~』の本編は終了となります。

……8月以降の連載間隔変更や一時休止がなければ、もっと早く完結できていたのですが。


今後の予定ですが、余裕ができたタイミングで活動報告を書きたいと思います。

(この話が公開されるころには、すでに書き上がってる可能性もあり)


とりあえず、メインの冒険はこれで終わりになりますが、トワとユキの話はまだ続く予定です。

後日談、みたいなのを書いていきたいですね。

開始タイミングは、高校一年生の春休みあたりスタート。

ちょうど連載開始時点から一年後です。

それでは、また読んでいただけることを祈りつつ。


皆様、今後とも心にゆとりを持ちつつごゆるりとお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ユキが主人公に依存している描写からどんな過去が有ったのかと気になっていましたが、通り魔に姉を殺された上に、殺人を犯したトラウマ&記憶消去を持っていたんですね。 ハッピーエンドと言えるのか微妙…
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