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Unlimited World ~生産職の戦いは9割が準備です~  作者: あきさけ
終章 限りのない世界など存在せず
428/466

362.悪夢は繰り返す

本日2話目の更新

まだ読んでいない方は1話目からどうぞ


1話目直通アドレス

https://ncode.syosetu.com/n6626ev/427/


 十二月に入り、雪が降る日も多くなってきた。

 今日、俺、都築(つづき) 光太郎(こうたろう)は自分のノートを読み返していた。

 この季節になるとどうしても読み返してしまう、そんな一冊だ。

 ……未解決事件とかじゃない。

 だが、被疑者死亡で終わってしまった以上、その動機などは明かされずじまいだ。

 あの日も、こんな雪が降る寒い日だった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 八年前の十二月某日。

 生活安全部に配属されてから数ヶ月経ち、ようやく慣れてきたころ、その事件は起こった。

 内勤の帳簿をつけていた俺にも出動要請がかかり、現場へと急行する。


 事件現場は、住宅街の中にある公園。

 冬場は人気が少なくなるが、それでも子供たちが雪遊びをするために解放されていた。


 そんな公園の一角が雪の白ではなく、赤く染まっていた。


「……悠?」

「なんだ、コウ、どうした?」


 一緒に来ていた係長が、訝しげに尋ねてきた。

 赤い雪の中で倒れていた子供には見覚えがある。

 俺の弟の息子、悠だ。


「あの子供、俺の甥っ子です!」

「なんだと?」

「すみません、様子を見てきます!」

「わかった。こっちは俺がなんとかしておく」


 係長の言葉に甘え、悠の様子を見に行く。

 だが、悠の回りはさらに凄惨な光景が広がっていた。


「……秋穂ちゃんに雪音ちゃん? これはどういう……」


 悠が倒れていた場所のすぐそば、入口からは人影で見えなくなっていた場所に秋穂ちゃんが倒れていた。

 そのすぐそばには、まだ若そうな男が血だまりの中に倒れている。

 そして、さらに赤く染まったナイフを握りしめた雪音ちゃんがうつ伏せに倒れていた。

 雪音ちゃんは、いま警察官に抱き起こされたところだ。


「なんだ……、どういう状況なんだ、これは?」

「なんだ、お前は。ここは部外者は立ち入り禁止だぞ!」

「すみません。俺は生活安全課所属、都築光太郎です。応援要請で来たのですが……」

「それなら、周囲の野次馬の整理だろう? 現場になんの用だ?」

「……その男の子が俺の甥っ子なんです。あと、倒れている少女ふたりもその友達で」

「……なるほど、それなら連絡先がわかるか。……それを履いてこっちに来い」

「わかりました」


 年配の刑事、だろうか。

 その人から渡された靴に履き替え、規制線の中に入っていく。

 すると周囲は、俺の想像以上に赤く染まっていた。


「まずは、この男だが、見覚えがあるか?」


 若い男を指し、俺に確認をしてくる。

 だが、その質問には首を振って知らないことを伝える。


「……そうか、それで、そっちの子供たちは?」

「あの男の子が、俺の甥っ子で都築悠。そのそばで倒れている、背の高い女の子は海藤秋穂。最後に、うつ伏せに倒れていた女の子が海藤雪音です」

「ふむ。歳は?」

「悠と雪音ちゃんが七歳で小学二年生。秋穂ちゃんが……誕生日が来ているかわかりませんが、小学五年生です」

「そうか。親御さんの連絡先はわかるか?」

「はい。可能でしたら、すぐにでも連絡をします」

「……いや、連絡はこちらでしよう。連絡先だけ教えてもらえるだろうか」

「わかりました。……日中でしたら、この番号に電話すれば連絡がつくはずです」

「わかった。……それで、子供たちの容態だが、悠くんは右腕を刺されていて重傷、秋穂ちゃんは複数箇所を刺されていて意識不明の重体だ」

「……雪音ちゃんは? 彼女もかなり血で汚れてますが……」

「……彼女は別だ。おそらく、あの男を刺したとき、返り血を浴びたのだろうからな」


 ……返り血?

 一体どういう状況だったんだ?

 俺が混乱しているところに、救急隊員がやってくる。


「……混乱しているところ悪いが、子供たちと一緒に病院に向かってくれ。お前の上司には連絡しておく」

「……はい、わかりました」


 状況を理解できない、いや、理解しようとしていない俺がいても、捜査の邪魔にしかならないだろう。

 俺は大人しく、悠を乗せた救急車に同乗する。

 ……悠、秋穂ちゃん、雪音ちゃん、助かってくれよ。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 あの日、病院まで付き添ったが、結果としてみれば、最悪だった。

 悠の右手には障害が残り、日常生活で支障は出ないが、激しい運動には耐えられないと診断された。


 秋穂ちゃんは……病院に着いたときには手遅れだった。

 全身を複数箇所刺されており、そこからの出血が原因だったとか。

 悠の全身を染めていた血のほとんどは、秋穂ちゃんの血だったらしい。


 さらに、雪音ちゃんだが……こっちはある意味、さらに悪いかも知れないな。

 病院に着いてから検査を受けたが、目立った外傷はほとんどなし。

 手のひらを少し切っていたみたいだが、そちらはすぐに処置がなされた。


 だが、彼女の問題は外傷ではなかった。


 まずは心的外傷後ストレス障害、わかりやすくいえばトラウマが残った。

 雨や雪を見たとき、ひどく怯えることがあるらしい。

 ……雪はともかくなんで雨、とは思ったが、事件当時、公園では雪から季節外れの雨になっていたらしい。

 こちらは数年がかりの治療でかなりよくなったが、いまでも夢でうなされることがあるとか。

 また、事件後、目を覚ました雪音ちゃんに警察官が事情聴取を試みたが、事件当時のことはなにも覚えていなかった。


 そして、姉である秋穂ちゃんの存在も、完全に忘れてしまっていたらしい。

 医者は、ストレスから来る記憶障害と診断したが……こちらは、八年経ったいまでも治っていない。

 家――都築と海藤の両家――では、雪音に負担をかけないため、秋穂ちゃんの存在していた痕跡を隠してしまうほどだった。

 海藤家としては、娘を殺され、さらにその娘の思い出を隠さなければいけない、という二重の苦労を背負っている。


 ……最後に、事件現場に倒れていた若い男だが、彼がすべての元凶だった。

 公園に備え付けられていた防犯カメラ、それが犯行の一部始終を捉えていたからだ。

 結論だけいえば、事件は男の通り魔的犯行と判断された。

 子供たちは、男のことなど知らず、男と子供たちの接点も見つからなかったらしい。

 そして、男が刺されていた理由だが、秋穂ちゃんが刺されたとき、ナイフを奪うことに成功し、それを使って雪音ちゃんが刺したということだ。

 雪音ちゃんはかなり深く突き刺したらしく、この傷が原因で男も死んでいる。

 このことについては、正当防衛が認められ、雪音ちゃんが罪に問われることはなかった。

 ただ、男の親族を名乗る連中が民事で訴えたとのことだったが……逆に悠や秋穂ちゃんのことで訴えられ、姿を消したらしい。

 ……そんな中途半端を許すようなことはせず、財産のほとんどを慰謝料として差し押さえたが。


 ……以上が、八年前の事件の概要、そして後始末だ。

 事件のあと、雪音ちゃんがやたらと悠にべったりとひっつく……というか、依存するようになったが、親たちはいっそのこと結婚までさせてしまおうという腹づもりらしい。

 俺としては、共依存に近い状態になっているふたりをこのまま結婚させることは反対だが……。


「都築さん、事件です!」

「おう、わかった!」


 この部署に転属になってから早四年、後輩もでき頼られる側に回っていろいろ苦労することも増えた。

 だが、俺は警察官、泣き言を言っていられる立場じゃないからな。


 事件現場に向かうパトカーの中で聞いたのは、白昼堂々、通り魔事件が発生したらしい。

 被疑者は被害者のひとりによって、すでに無力化されているとのこと。

 ……被害者が通り魔を無力化するとか、無茶しやがる。

 だが、嫌な胸騒ぎがするのはなぜだ?


 そして、パトカーが事件現場に着くと胸騒ぎの原因がわかった。

 警察官に取り押さえられている男はどうでもいい。

 問題は、あの男に刺されたであろう、少年のほうだった。


「道を開けて、警察です!!」

「……おい、悠、しっかりしろ、悠!」


 刺されていたのは、よりにもよって悠だった。

 腕や足、それから右目から大量の血を流し、意識を失っている。

 すぐそばには、雪音ちゃんもいた。

 ……立ち位置的に、雪音ちゃんをかばって悠が刺されたんだな。

 俺はすぐに悠に応急措置をして、救急隊員に悠を引き渡す。

 そして、ほかの警官が雪音ちゃんのほうに向かったが……。

 雪音ちゃんもゆっくりと倒れ込んでいった。


「ああ、くそっ! またか!」

「都築さん?」

「……なんでもない。ともかく、負傷者への対応を急げ!」

「はいっ!」


 ……結局、俺は、また無力だったのか。


362話終了

次話の更新は15時頃を予定

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