360.オープンクラスの行方
残りの試合結果を一気に公開
基本的にサイコロの神様にお伺いをたててるよ!
「いやぁ、いい勝負だったよ、トワ!」
「そうかい。こっちは、正直きつかったよ」
試合が終了したため、戦闘不能状態がとけ、立ち上がった俺に霧椿が声をかけてくる。
やっぱり、霧椿の攻撃力は半端じゃないな。
「それにしても、トワの魔法攻撃力は半端じゃないね。マジックブレイクで撃墜しても、じわじわ削られてたよ」
「そうなのか? HPが減ってる様子はなかったんだけど」
「虎の子のアンチマジックポーションを使っていたからね。なかったら、きっと負けてたさ」
アンチマジックポーションによる、対魔法シールドを張っていたのか。
いつの間に使っていたのやら。
「対人戦も、これくらい楽しめる相手とばかりだったらいいんだけどねぇ」
「……それは難しいんじゃないか? 俺と同レベルっていったら、リアル武術経験者になるぞ」
「そういう意味でも、ハルやリク、それからユキには期待してるんだけど」
「その辺なら大丈夫だろうな。ゲームによる補正があるから、どこまで戦えるかはわからないけど」
「それが痛いんだよねぇ……。その補正がなければ、もっと楽しめるのに」
相変わらずのバトルマニアだ。
……確かに、ステータスによる補正がなければ、もう少し戦えたのは事実だけど。
HPが少ないのが一番きつい。
「……それよりも、大分よくなったのかい、悠」
霧椿が近づいてきて、ほかのプレイヤーや実況に声を拾われないよう、小声で話しかけてきた。
……あぁ、やっぱりこの人、俺の知り合いか。
「ぼちぼち、ですね。少なくとも、この手のゲームができるまでは回復してますよ、名取さん」
「そうかい、それはよかった。今度、また道場に顔を出しなよ。手合わせしてあげるからさ」
「お手柔らかに頼みますよ、師範」
霧椿は俺の、いや、俺たちの武術の師範、名取さんだ。
そうじゃなきゃ、あのスピードで俺の攻撃を封殺するなんてできないだろう。
リアルのクセを知っているからこそできる技だな。
「それじゃ、またね、トワ。今度また勝負しよう!」
「……機会があったらだな。また、霧椿」
こうして、俺のオープンクラス挑戦は終わりを告げたのだった。
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「おかえり、トワ。残念だったわね」
「ただいま、柚月。まあ、勝ち目の少ない試合で負けただけだよ」
「確かに。相性は悪そうじゃったのう」
「霧椿さん、強いよねー」
「あれだけ戦えるのに、いままで出てなかったことが不思議だよ」
観戦スペースに帰ってきた俺を、『ライブラリ』の皆が出迎えてくれる。
ただ、皆にとっても霧椿がいままで出場していなかったことが不思議らしい。
「対人戦だと楽しめないと思っていたみたいだからな。面白さに目覚めたのは、ハルのせいらしい」
「なるほどー。ハルのせいか」
曼珠沙華は大きく何度も頷いてみせる。
なんとなく、理解できているのだろう。
「さて、次はユキの試合だけど、このあとはどうするの?」
「勿論、ユキの応援をしていくよ。ほかにも、ハルやリクも出場しているしな」
「了解。それじゃあ、見物といきましょうか」
ユキの姿が観戦スペースに見当たらなかったので聞いてみると、すでに準備を終えて待合室にいっていた。
俺が使わなかった分のポーションを渡したかったけど、そういうことなら仕方がないか。
そして始まる、第二試合。
ユキVS.ターフ。
試合結果だけいえば、ユキの圧勝だった。
俺というガンナーを相手に稽古を積んできたユキにとって、同じガンナーであるターフは闘い易い相手だったようだ。
スタイルの違いはあっても、射線上に入らないよう動き回ればいいという、基本的な立ち回りは一緒というわけで、フェンリルのプロキオンと組み、終始相手を圧倒して勝ち上がった。
ちなみに、ハルとリクだが、こちらは明暗が分かれた。
ハルは仁王に敗れ、リクは次元弐に勝つことができた。
さすがに、ハルでも仁王の相手はきつかったらしい。
なお、白狼さんは堅実に勝ち上がっている。
結果として、オープンクラス初日は、前回優勝者と前回マイスタークラス優勝者が一回戦で敗退するという、波乱含みのスタートとなった。
オープンクラス二日目、第二回戦の抽選会では、さらに波乱が巻き起こる組み合わせとなり。
まずは、ユキVS.リクの第一試合。
この試合は、リクが高い防御力をいかしたゴリ押しでダメージを積み重ねていったが、最終的に、聖霊開放と共鳴増幅による高倍率スキルを耐えきれなかったため、ユキの勝利となった。
なお、ユキは最初にレジストフィジカルポーションを使っていたので、かなりダメージを軽減していた。
次は、霧椿VS.白狼さんの試合。
これも、白狼さんが霧椿の攻撃をうまく受け止めながら戦っていたが、最終的には霧椿の勝利となった。
聖霊開放と聖霊開放同士のぶつかり合いという派手な演出もあったが、白狼さんの単発高倍率スキルに対し、霧椿の連撃スキルが総ダメージ量で上回った形になった。
正確に言えば、初撃は霧椿にダメージが入ったが、残りの攻撃は白狼さんにヒットしたというべきだが。
続く、第三回戦。
三度目の組み合わせ抽選の結果、今度はユキが霧椿と戦うこととなる。
結果は、霧椿の辛勝といったところか。
双方、聖霊開放の直撃を受けつつ、なんとか耐えきった。
だが、そのあとの戦いでユキの動きを制することができた、霧椿の勝ちとなった。
……やっぱり、師範は強かった。
そして、最終日。
霧椿と仁王が順調に勝ち進むこととなり、決勝戦でぶつかり合う。
決勝戦に相応しい熱戦となったが、結果は霧椿の勝利だった。
決め手は、仁王の聖霊開放スキルを、霧椿がすべて弾くことに成功したことだろう。
仁王は決勝戦まで聖霊開放を温存していたが、それでも霧椿は防ぎきることに成功した。
……ほんと、バケモノだよね。
こうして、いろいろと波乱含みだったオープンクラスは幕を閉じたのだった。
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「んー、やっぱりユキの料理は美味しいねぇ」
「ありがとうございます、霧椿さん」
武闘大会終了のお疲れ様会。
今回は『百鬼夜行』で行われることになったため、俺とユキはそちらに向かうこととなった。
ユキは差し入れとして大量の料理を持ち込んだわけだが……、この様子を見るにその判断は正しかったのだろうな。
「でも、師範だって戦うまでわかりませんでしたよ。このゲームを始めてたのなら、教えてくれてもよかったのに……」
「ああ、すまないねぇ。私も、βの頃はあんたらが参加してるとは思わなくてね」
「あ、ユキは正式サービスからの参加ですよ」
「そうかい。……ま、ゲームの中でまで師範面するつもりもなかったしね」
だから、不必要な接触は避けてきたという霧椿。
ちなみに、前の武闘大会に参加できなかった本当の理由は、家族サービスのためだそうな。
まともな装備が揃ってなかったため、出場しても大した結果は残せなかっただろう、とは本人の弁。
「それにしても、本当にユキの料理は旨いね。毎日食べられるトワがうらやましいよ」
「俺だって、毎日食べてる……かもしれないな」
「味見とか、よく頼んでるものね」
なんだかんだ、ユキの料理を食べない日は少ないか。
ユキに会わなかった日も、ダンジョンとかに行っていれば、ステータスブーストのために料理を食べてるし。
ユキには感謝しているよ、ほんと。
「それで、あんたら、いつになったら結婚するんだい?」
「……結婚って。俺たち、まだ高校生になったばかりですよ」
「そうです。結婚するためには、二年くらい経たないと受け付けてもらえません」
「ははっ、ユキはもう結婚する前提なんだね。トワはユキじゃ不満かい?」
「いや、不満はありませんけど……」
「まあ、色々あるだろうが、そういったものも全部飲み込んでみせるのがいい男ってもんだよ」
「……ご忠告、ありがとうございます」
「それに、あんたたちの場合、結婚前提で家族が動いてるだろうしねぇ……」
確かに、その兆候はある。
俺の家も空き部屋を、最近整理しだしてるし。
「結婚式には呼んでくれよ? 余興として演舞を披露してあげるからさ」
「楽しみにしてますね、師範」
霧椿とユキは結婚話で盛り上がっている。
やっぱり、そういったところは女子同士、話が合うのだろう。
それにしても、結婚ねぇ。
まだまだ先の話だと思ってたけど、法律的にはあと二年あまりか。
……それまでに、俺たちの問題が片付いていればいいけど。
「トワ、難しい顔をしてないで、こっちにきなさいな」
「ああ、わかった。……まったく、ペースを乱されるな」
ともかく、これで十一月も終了、今年も残り一カ月だ。
ユキの誕生日もあるし、できる限りお祝いしてやらないとな。
いつもお読みいただきありがとうございます。
毎回の誤字報告本当に助かっています。
~あとがきのあとがき~
これで、本章も終了。
掲示板を挟んで次章になります。
なお、前書きでも書きましたが、勝敗・組み合わせはサイコロで決めてます。
結果として霧椿無双だったのですが……まあ、いいでしょう。
GWの時点では装備が整ってなかったのも事実だし。
(刀しか使ってなかったので、攻撃力と耐久力の低い武器しか用意できなかった)