326.ハロウィンパーティ 6
パーティ中の乱入者はあったものの、パーティ自体は無事終えることのできた火曜日。
その翌日、水曜日もパーティは開催されることになっている。
「……本当に今日も行くのか? 曼珠沙華」
「もっちろん! せっかくのパーティなんだから楽しまないと!」
「はぁ、わかったよ。ついていくことにするよ」
パーティ自体は昨日体験したので、今日もまた行く必要はない気がする。
でも、イベント好きな曼珠沙華にとっては、パーティ二日目であろうと関係ないらしい。
他のメンバーもそれぞれ反応は違ったが、パーティに参加することに。
ただ、おっさんは用事があるらしく、今日のパーティは不参加……というより、現在ログインしていない。
なので、『ライブラリ』としては、六人での参加となる。
昨日の今日というわけで、準備はすぐに終わったため、早めにパーティ会場に向かうことにした。
「うーん、昨日も思ったけど、立派なお城よねー。プレイヤーでも手に入れることができないのかしら?」
「さすがに無理なんじゃないか? 買えるとしても、どれだけの額になるか」
「うーん、柚月、天下の『ライブラリ』でもそこまでお金はないの?」
「さすがにお城を買うほど現金はないわ。そもそも、どれくらいの額になるのか見当もつかないものを考えてもね」
「そういうものかー。まあ、お城とか買っても維持管理が面倒そうだから諦めよう」
「なら、なんで買おうと思ったんだよ」
「んー。憧れるじゃない、お城での暮らしって」
「俺は特に憧れないけどな」
「まあ、トワっちはねぇ」
城を眺めながら気楽な話をしつつ歩いていると、昨日と同じように戦闘用アイテムの制限がかけられた。
同じイベントを二度使ってくるような運営じゃない気はするけど、用心はしておいた方がいいか。
昨日と同じように、馬車に乗り込み城へと移動。
そこから先は、案内役の住人に連れられて移動する。
ただ、今日の会場は中庭ではなくパーティルームだった。
昨日のイベントの影響とは考えにくいし、初日と二日目で会場を変える予定だったのだろう。
「おお、なかなか豪華なシャンデリア」
「本当ですね。キラキラしててとても綺麗です」
「そうだねー。それに、用意されている料理の種類も変わってるねー」
「そのようじゃの。チョコレートファウンテンなぞ、昨日はなかった気がするのう」
「その辺も作り込まれているのかしらね。……さて、今日もなにか起こるまでは別行動でいいのかしら」
「そうだな。別行動でいいんじゃないか? 固まって行動する必要性はないんだし」
「それじゃあ、ここで解散しましょう。私は見かけた知り合いに挨拶をしてくるわ」
「ボクは適当に料理を楽しもうっと」
「わしも料理かのう。曼珠沙華はどうするのじゃ?」
「私? 私も知り合いを見つけたからそっちに行ってみる」
「俺とユキは……適当にぶらつくことにするよ」
「うん、そうしよう」
「了解。なにかあったら連絡を取って合流しましょう」
程なくして、パーティ開始の時間になり、全員、思い思いに会場内へと散らばっていく。
俺とユキは用意されている料理をつまみながら、適当に会場内を歩いていた。
会場内はやはり、昨日と同じようにハロウィンの仮装衣装を身につけたプレイヤーが多い。
しかし、俺達のようにパーティ用のスーツやドレスで参加している集団もあった。
というか、その集団のリーダーはよく知っているプレイヤーだ。
「こんばんは、白狼さん。今日はパーティに参加ですか?」
「ああ、トワ君。そうだね、昨日はクランとして参加してなかったから、今日はクランで参加しているよ」
「……クランって、クラン全員ですか?」
「都合がついて、興味がある人だけだけどね。もっとも、同じクランだからといって、全員が同じ会場に入れるわけでもなさそうだ」
「昨日、鉄鬼達『百鬼夜行』は全員同じ会場にいたようですけど……」
「僕らは五十人ちょっとできているからね。どうやら、四つくらいのグループに分けられたみたいだ」
「……そうですか。人数が偏らないようにするための処置でしょうか?」
「おそらくね。あとは、身内だけではなく、他のプレイヤーとも交流をしろってことじゃないかな」
「MMOですしね。……ところで、昨日のイベントについては聞いてますか?」
「ああ、モンスターの襲撃があった件だね。聞いているよ。ただ、同じことがまた起きるとは考えてないけど」
「ふむ、白狼さんもそう思いますか」
「ここの運営だからね。同じイベントを二日使い回しはしない気がするよ」
「となると、どんなイベントが仕込まれているんでしょうね」
「さあ? 聞いてみれば、昨日と同じように持ち込み装備の制限がされているようだし、戦闘系のイベントが起こっても不思議じゃない。でも、制限はあくまでオマケみたいなもので、実際にはなにも起こらないかもしれない。いまは難しいことを考えずに、パーティを楽しんだ方がいいと思うよ」
「……まあ、それもそうですね。ところで、白狼さん達のスーツやドレスって『白夜』の裁縫士が作ったんですか?」
「うん、そうだよ。裁縫士達がはりきってね。イベント参加者向けとして、各種スーツやドレスを仕上げたんだ」
「各種ってことは数パターン作ったんですか?」
「一種類じゃ面白くないだろうってことらしいよ。本人達も、普段作らないような装備……というか、洋服を作れて満足しているみたいだしね」
「やっぱりそういうものなんですね」
「どうもそうらしい。……ところで、トワ君とユキさんの服は柚月さんの作品かな? 普段とはかなり印象が違うけど」
「柚月じゃなくて曼珠沙華ですよ。アイツが日曜から『ライブラリ』に戻ってきて、最初の仕事がこの衣装作りだったみたいですよ」
「なるほど、曼珠沙華さんが戻ってきたのか。歌劇団が活動休止になるって聞いてたから、どうするんだろうとは思っていたけど、『ライブラリ』に復帰したんだね」
「ええ、まあ。おかげで、いきなり振り回されていますけど」
「曼珠沙華さん、イベント好きだものね。トワ君の性格だと、こういうイベントはスルーしがちなわけだし、ちょうどいいんじゃないかな」
「そういうものですかね」
「バランスとしてはちょうどいいと思うよ」
ふむ、外から見るとそんなものか。
確かに、曼珠沙華に引っぱってこられなければ、ハロウィンパーティなんて参加しないだろうけど。
「さて、僕はそろそろ移動することにするよ。他にも見知った顔がこのパーティ会場にいるからね。挨拶しておかないと」
「大手クランのリーダーというのも大変ですね」
「『ライブラリ』の場合、そこは柚月さんがやっているのだろうけどね。それじゃあ、また今度。ああ、曼珠沙華さんが『妖精郷の封印鬼』に参加するなら、また改めて連絡をしてほしい。こっちで人数調整をして、『ライブラリ』が七人でも一緒に行けるようにするから」
「わかりました。曼珠沙華に確認して連絡します」
「うん、頼んだよ。それじゃあ、また」
白狼さんを見送り、ユキと一緒にパーティ会場内でゆったりと楽しむ。
一通り会場内をまわったところで、今度は俺達の方が声をかけられた。
「あれ、お兄ちゃん、ユキ姉。パーティに参加してたんだ」
「……ハルか。お前一人か?」
「うん? ああ、他の皆はそれぞれ別行動中だよ。昨日みたいなイベントが発生したら、合流して対応することになるけどね」
「そうか。……ところで、その衣装はなんだ?」
「『ハロウィンの魔女衣装セット』だよ。なかなか似合うでしょ?」
「まあ、確かに違和感はないが。他の衣装はなかったのか?」
「うーん、全員バラバラの衣装を着ることになったからね。そうなると、選択の幅も狭まるんだよね」
「……まあいいか。そういえば、昨日はパーティに参加していたのか?」
「ううん。昨日は参加してなかった。おかげでせっかくのイベントを逃しちゃったよ」
「それは残念だったな。それで、今日はどうするんだ?」
「もちろん、イベントが起こったら全力で参加だよ! しっかり武器も厳選してあるから、どんなモンスターが相手でも大丈夫!」
「それは頼もしいことで。もしその時は、前線は任せるぞ」
「オッケー、任せておいてよ」
その後も、しばらくはハルと一緒にパーティ会場を回ることに。
料理を色々と食べていると、いきなりオーケストラによる演奏が始まった。
「おお、オーケストラなんて用意されてたんだね」
「さっきまでは誰もいなかったよね、トワくん」
「だな。まあ、ゲームなんだし、細かいことは考えるだけ無駄だろう」
オーケストラの迫力ある演奏が始まり何曲か演奏が終わると、オーケストラを奏でていた楽団がピタリと演奏を止めた。
そして、パーティ会場が薄暗くなり、パーティ会場の奥、二階へと上がる階段の踊り場にスポットライトが当たる。
そこには、先程までいなかったはずの人物が立っていた。
「やあ、Unlimited Worldプレイヤー諸君。久しぶりの方は久しぶり、初めましての方は初めましてだな。このゲームの運営管理室室長の榊原直人だ」
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