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24.林の中での遭遇

 クラン『白夜』は至って一般的な、まともな攻略系クランだ。

 最前線で戦うメンバーもいれば、新人を鍛えるメンバーもいたりとかなり手広く活動している。

 ちなみに、『ライブラリ』とはβの頃からのつきあいで、お互いに攻略を手伝ったり情報交換をしたりしていた。

 だがしかし、今日のこのメンバーは……


「白狼さん、1ついいですか」

「何かな、トワ君」

「どうして普段最前線で戦っている1軍メンバーが全員ここに?」


 うん、白狼さん1人だけがこっちに来ているならわかるんだ。

 でも、『白夜』の実力からすれば1軍メンバーなんて連れてこなくても十分【第3の街】のボスなんて倒せてしまうはず。

 最精鋭である1軍メンバーが全員ここにいるのは明らかにおかしい。


「ああ、それなんだけどね。実は僕達のところの新人も一緒に【第3の街】へ連れて行ってあげようと思ってね。もちろん迷惑だったら、断ってくれて構わないよ」

「ああ、それで1軍メンバーが勢揃いと」

「あと、彼らの顔つなぎかな。これから『ライブラリ』さんには色々お世話になりそうだし」

「了解です。死ん(デスペナ)でもこちらの責任にならないなら、同行してもらって構いませんよ」

「ありがとう、君なら断らないだろうとは思っていたけど、やはり不安でね」

「でも、護衛料は事前に決めた額しか払いませんからね」


 それだけ伝えると「わかってるよ」と苦笑いで答えられた。


「それじゃあ、そろそろ行こうか。あまりここにとどまっていても迷惑だしね」


 白狼さんの言葉に頷き、俺達は移動を開始した。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「一閃突き!」

「ダブルショット!」


 俺達は移動中、新しい装備の慣らしも兼ねて何戦かさせてもらっていた。

 どうやらこれだけの装備があれば、この辺りのザコモンスターは一撃で倒せるらしい。


「すげー、生産職なのにあいつらを一発かよ……」

「っていうか、おれらあの人達より弱くね?」

「確かに、というかあれだけ戦える人達がなんで護衛なんて頼んでるんだろう……?」


 【第3の街】のエリアボスと相性が致命的に悪いからだよ。

 そんな事を考えながら襲ってきたコボルトの一団を全滅させる『ライブラリ』+1(教授)


「トワ、新しい拳銃は自分で使ってみてどうじゃ?」

「うん、攻撃力が上がって使いやすいね。耐久力の消費も想定内だし問題ないかな」


 ヒグマの魔石を使って作ったせいで、鉄の銃身じゃ耐えられないかも、と考えていたが杞憂だったようだ。


「それじゃあ、移動を再開しようか。これから先は僕達の方で露払いしてしまっても構わないかい?」

「ああ、それで構わない。よろしくお願いします」


 そうして俺達は移動を再開する。


 のんびりとした旅の道中、【第3の街】への距離が残り半分といったタイミングでそれは起こった。


「――――――――!!」

「――――――――――!!」


「……なんだ?」

「どうやら誰かが言い争いをしているみたいだが……どこかな?」


 辺りを見渡すが、一本道以外は林に覆われているため肝心の言い争っている人影は見当たらない。

 だが、気配察知の効果範囲にそれらしき反応をとらえることができた。


「右手側の林の中、6人かな」

「……うん、声が聞こえてきたのは右手側からで間違いないようだ。でも、人数はどうやって?」

「気配察知スキルのおかげだよ」

「なるほど、それでどうするつもりだい?」


 今回の旅の主催者は俺だ。

『白夜』は俺の判断に従うと言うことだろう。


「ちょっと様子を見てくるよ。ここで待っててくれ」

「さすがにトワ君一人で行かせるのは不用心だろう。僕も一緒に行くよ」

「ならば私も一緒に行くのである。先ほど少々きな臭い情報が伝わってきたのでな」

「わかった、その代わり何があっても自己責任でな」

「気をつけてね、トワくん」


 こうして俺達3人は別行動を取ることとなった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「……この先に6人いるな」

「うむ。しかし、なんだ、ずいぶん馬鹿げたことをやっているものであるな」

「そうだね。これは早く対処してあげないと」


 俺達が相手に気付かれないように接近するのは簡単だった。

 なにせ、周りに注意を一切払っていなかったのだから。


「だからアンタ達なんかとフレンドになるつもりなんてないって言っているでしょ!」

「そう連れないこと言うなよ。俺達これでも強いんだぜ?」

「そうそう俺ら上位クランのメンバーなんだからさ。フレ交換して仲良くしようぜ」

「いやだって言ってるでしょう! いいからそこを通しなさいよ!」

「えー、そんな事言わずにさ、俺らと遊ぼうぜ」


 ……要するに強引なナンパをやっているのである、こんな林の中で。

 もっとも、街中でやれば誰かに通報(GMコール)されて終わりだろうが。


 少女2人を取り囲んでいる男4人はおそろいの装備を身につけている。

 寸分違わぬ作りから言って、ああいうアバター装備なんだろうな。


 しかし、あの鎧って確か……

 それにあの中の1人って確か学校でユキにも絡んでた園田某じゃないか?

 補正がかかってるから断言はできないが、多分そうだろう。


「教授」

「うむ、私もGMコール済みである。あとこの現場も録画中である」

「そうか、ならもう止めに入っても問題ないね。済まないが、僕が止めに入らせてもらうよ」


 そう言って、白狼さんが男達に近づく。


「それくらいで止めないか、君達!」


 おお、やっぱりこういう時、かっこいいな白狼さん。


「ああん、なんだお前?」

「通りすがりの人間だよ。君達がお嬢さん達につきまとい行為をしているの見かねてね」

「ああ、関係ねーだろう。ぶっころすぞ」

「ぶっころすもなにも、このゲームではPKはできないよ。もう少し考えて発言した方がいいんじゃないかな」


 おお、煽る煽る。


「とにかくおっさんには関係ねーだろ。あっち行ってろ」

「そういう訳にもいかなくてね。お嬢さん方、こいつらにつきまとわれて困っていないかい?」

「はい! とても困ってます!」

「ちょっ……でも、困っているのは事実です」

「そうか、なら()()()()()。……よしこれで完了と」

「……おい、おっさん、今何したよ?」

「うん、わからなかったかい? ただのGMコールだよ」

「あん、やんのか、おらぁ!」

「だから、このゲームではシステム的にPKはできないと言っているだろう」

「うっせー! 俺達は『漆黒の獣』だぞ! 俺らを敵に回す意味がわかってんのか!?」


「ああ、そんなことか。もちろんわかっているよ。と言うよりも、君達も誰を敵に回そうとしているのか理解しているかい?」

「ああ? かっこつけた変なおっさん……」

「『白夜』だ」

「あぁ?」

「僕はクラン『白夜』のクランマスター、白狼。ケンカを売るならいくらでも買うぞ?」

「お、おい、『白夜』って、大手の攻略組じゃねぇか?」

「ざけんな、そんな奴がこんなとこにいるんだよ! デマに決まってる!」

「まあ、もうデマかどうかはどうでもいい事なんだけどね……そろそろかな」


「あ? さっきからなに訳わからねーこと言って……」


 バカ4人組がなおも口を開こうとした瞬間、彼らの姿が消えてしまった。


「「え?」」


 状況がわからずポカンとする少女2人。


 そして俺のところには運営からメールが届く。

 内容は要約して『違反者の通報ありがとうございました』だ。

 要するに俺達が行っていたGMコールが受理されて、違反者(バカ4人)が処分されたと言うわけだ。


「ああ、驚くことはない……と言っても、初めて見れば驚くか。GMコールが受理されて強制ログアウトされただけさ」

「え? ええと?」

「まあ、彼らはもうつきまとえないとだけ考えてくれればいいよ」

「そうなんですか……ありがとうございます」

「ありがとうございました」

「いやいや礼にはおよばないさ。それに君達に最初に気付いたのは僕じゃないしね……おーい、そろそろ出てきてもいいだろう」


 白狼さんのその言葉に、木の陰に隠れていた俺と教授が姿を現す。


「えっ!?」

「ひっ!?」


 なにもそこまで驚かなくてもいいだろう。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「……なるほど、私達の口論の声が聞こえて様子を見に来たと」

「そうなるな。こんな人気のない林の中から口論が聞こえれば気になるだろう?」

「それで助けてもらえたんですものね。ありがとうございます」

「なーに、気にすることはないのである。むしろ、奴らにひと泡吹かせるいい機会なのである」

「やつら?」

「さっきの連中、『漆黒の獣』の事だよ。最近、あいつらがハラスメント行為の常習犯っていう情報が流れててな。ただ、明確な証拠がなかったから手をつけられなかったんだ」

「うむ。この手のことは現行犯でないと、なかなか運営も動きが取れなくての。今回はまさにその『現行犯の証拠(どうが)』を撮れたのである」

「はぁ!? それじゃあ私達のことすぐに助けてくれたんじゃないの!?」

「勘違いしているようだが、彼ら2人はすぐにGMコールをしていたよ。ただ、GMコールが受理されるまでは時間がかかるからね。その時間稼ぎを僕が引き受けたというわけだ」

「あれ、そうなの? ええと、ごめんなさい」

「いや、気にしてないから構わないよ」

「うむ。それに早いところ林を出るのである。ここにとどまっていても何も意味はないのである」

「そうだね。早く戻ろうか。お嬢さん達も一緒にね」



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 そうして俺達は林を抜け街道へと戻ってきた。


「あ、お帰りなさい、トワくん。どうだったの」

「ただいま。結論だけ言うと、バカがこんなところで強引なナンパしてた」

「ふーん、そうなんだ」

「と言うことは後にいるお嬢さん達が被害者か。大変じゃったのう」


 俺達の様子を見た皆がそれぞれに声をかける。


「ああ、いえ。旅の途中、助けていただいてありがとうございます」

「ありがとうございました」


 改めて俺達にお礼を言う2人。

 2人にドワンが質問をする。


「それでお嬢さん達はなぜこのような場所に来ていたのかの? 見た限りこの辺りのモンスター相手では荷が重い装備だと思うのじゃが」

「えっと、装備を見ただけでもわかりますか?」

「おう。これでも鍛冶の生産職人よ。オリジナルじゃない装備品なぞ見ればすぐにわかる」

「やっぱり、私達じゃこの先はきついですか?」

「装備の見た目通りの強さしかないならな。そういう縛りプレイというなら話は別だが」


 そのようなことを言ってこちらをちらりと見るドワン。

 別に俺は縛りプレイなんてしてないぞ?


「……やっぱり帰ろうよ、アイラちゃん。私達にはまだ早かったんだよ」

「いや、でももうここまできちゃったんだし、行くだけ行って見ましょうよ、フレイ」


 このまま先に進むのか、それとも戻るのかで意見が分かれる2人。

 ……正直、この2人からは早いところ別れたいのだがなぁ、()()()前に。


「一応言っておくけど、こっちは6人パーティ(フルパーティ)が3つだから君らを連れて行く余裕はないぞ」

「まだ何も言ってないでしょ! ってあれ?」


 うん?


「そっちの猫獣人の人、ひょっとして海藤さん?」

「え?」

「違いますよ」

「いやそんなことない、海藤さんでしょ。私、片桐よ」

「はぁ、ダメか」

「うん、ダメみたい」

「ほらやっぱり、海藤……」

「それ以上、リアルのことを同意なしに話すのはマナー違反だと思うぞ、片桐 愛莉さん?」


 そう、この2人、俺とユキのクラスメイトである。


いつもお読みいただきありがとうございます。

「面白かった」「これからも頑張れ」など思っていただけましたらブクマや評価をお願いします。

作者のモチベーションアップにつながります。

また、誤字・脱字の指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。



~あとがきのあとがき~


というわけで園田くん再登場でした。

まあ、登場後すぐにフェードアウトしたわけですが。

所詮、あの手の人間は群れないと何も出来ないようなザコですね。


なお『漆黒の獣』関係の話題はもう少し続きます。

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