183.おじさんの事情
寝る支度まで整えて夜時間のログイン。
少なくなっていた店の在庫は、昼間に補充してあるので問題はなし。
今日の予定は、まず『白夜』第1パーティと第2パーティ全員分のフェアリーブレス装備を作る事。
これについては約束の時間になったら、ライブラリのクランホームに来てもらうことになっているので問題ない。
2つ目の予定は昼間に追加された予定。
すなわち、おっさん――オリエントジーン三世――から話を聞くこと。
オンラインゲームでいきなり消息不明になることなどよくある話。
なのでいちいち話してもらう必要もないのだが……本人が話すと言ってるのだから聞くとしよう。
クランメンバーのログイン状態を確認するとユキとおっさん以外はログイン中のようだ。
……エアリル達の姿もないし、とりあえず談話室にでも行ってみるか。
談話室に足を運ぶと、柚月達3人が話をしていた。
「あら、トワ。こんばんは。今日は早かったのね」
「こんばんは。俺はこの後『白夜』のアクセサリー作りがあるからな。ところで、おっさんはまだ?」
「うむ、まだじゃのう。しかし、おっさんが復帰したとは驚きじゃわい」
「だよねー。いつかひょっこり帰ってくるんじゃないかとは思ってたけど、本当に帰ってくると驚くよねー」
「そうね。何か事情があったみたいだし、その辺は話してくれるっぽいから後で話を聞きましょう」
「そうじゃの。しかし、何があったのじゃろうなぁ……」
「そう言えばエアリル達を見てないか? シャイナもだけど2人ともいなかったから」
「うーん、見ていないわね。またどこかの街にでも遊びに行ってるんじゃないかしら?」
「そうじゃの。わしらの精霊もいない。皆で遊びに出かけているのではないか?」
「妖精や精霊ってそこのところ気まぐれだからねー。用事があるときは呼び出せば来てくれるけど、それ以外の時はなにをやってるかまったく想像もつかないからねー」
柚月達の精霊もいないのか。
そうなると全員で遊びに出かけた線が濃厚だな。
ちなみにだが、『妖精郷の封印鬼』初回クリアから今までの間に、柚月達の妖精も精霊へと進化を遂げている。
中級精霊への進化はまだらしいが、全員が下級精霊となっている。
閑話休題。
もうすぐ白狼さん達との約束の時間だ。
白狼さんは来る前に一度連絡をくれると言っていたが……
っと、そんな事を考えていたら白狼さんからのフレチャがかかってきた。
『こんばんは、トワ君。そろそろ時間だけど、そちらにお邪魔しても大丈夫かな?』
「こんばんは。ええ、大丈夫ですよ。待ってますのでお願いします」
『ああ、それじゃあもう少ししたら向かうよ。また後で』
「はい、また後で」
白狼さんとのフレチャを終了し、柚月達に声をかける。
「白狼さん達がもうすぐ来るってさ」
「了解。まあ、私らは適当にさせてもらうわ」
「そうじゃの。今日来るのは第1パーティと第2パーティじゃからのう。もう長い付き合いだし構える必要もあるまい」
「そう言えばボク、魔導弓の作成ができないかお願いされてたなー。空いてる時間で話を詰めてみようかな?」
「その辺は任せるよ……どうやら来たみたいだ」
談話室の端に設置されているホームポータルから続々と『白夜』のメンバーが姿を見せる。
「やあ、お邪魔させてもらうよ」
「本日はよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。それで、早速ですが始めますか?」
「ああ、そうだね。早速で申し訳ないけど始めてもらおうかな。……これだけの人数が工房に押しかけると狭いだろうから4人ずつ交代で行くことにしようか。まずは十夜達からでいいかな?」
「はい、構いませんよ。それじゃあ行きましょうか」
「ええ、よろしくお願いします」
俺は十夜さん達を先導して工房への廊下を歩く。
うーん、フェアリーブレス装備の★11はユキ達に作った分を含めて失敗したことはないけど、やっぱり緊張するな。
焦ってミスをしないようにしないと……
―――――――――――――――――――――――――――――――
「僕の分で最後だったね。ありがとうトワ君、助かったよ」
「こちらこそ。失敗しなくてよかったです」
あれからアクセサリー作成を繰り返すこと12回。
何とか無事に★11で品質を揃えることに成功した。
強化なしで★12が出せないか、とは考えているのだが……スキルが【中級錬金術】の最大レベルまで育っていて、なおかつ【魔力操作】と【気力操作】を使っても★11にしかならないと言うことは、単純にスキルランクが不足しているか、設備の問題かだろう。
これは、逆を言うと★12に強化するときの成功率も上がらないという訳なのだが……
「確か、★12に鍛えることに挑戦するためには、フェアリーブレスを2個用意しないとダメなんだよね?」
「そうですね。でも、余り期待しないでくださいね? 今のところ成功率は5割程度ですから……」
「そこは心得ているよ。僕等の職人達だって品質アップのための強化には手を焼いているからね。★11にするのだって成功率3割前後さ」
「まあ、そんなものでしょうね。あくまでも俺達が異質と言うだけで」
「『ライブラリ』みたいに上手く行かないことは承知しているよ。……さて、それじゃあそろそろお暇するとしよう」
「わかりました。錬金アクセサリーのメンテナンスは錬金術士じゃないと出来ないので、注意してくださいね」
「わかった。『白夜』の錬金術士にも【アクセサリー錬成】を覚えてもらって自分達でメンテナンスできるようにしないとね」
「まあ、いざとなったら対応しますが。スキル経験値も上がるでしょうしその方がいいと思いますよ」
「そうさせてもらうよ。彼らも【魔力操作】と【気力操作】の習得で忙しそうだから、ちょっと悪いかなとは思うけどね」
「……あれは回数こなして体で覚えるしかないですからね……」
「だろうね。さっき柚月さん達にも聞いたけど、同じ事を言われたよ」
柚月達もこの3週間の間に【魔力操作】と【気力操作】を覚えていた。
そして、それぞれが次の修行段階に入っているわけだが……ここでも★12のアイテム作成を要求されているらしく、かなり手こずっているらしい。
実際、それぞれ各自の中級生産スキルレベルはカンストしているらしいので、あとはリアルスキルの問題となってしまう。
かく言う俺も、まだ蘇生薬の★12はできていないし……
それ以外の★12は作れるようになったし、ハイポーションに関しては★11以上で安定するようになった。
ただ、蘇生薬がなかなか★12にならなくて……修行段階が次へと進まないのである。
「さて、それじゃあ、行くとしよう。それじゃあね、トワ君」
「はい、お疲れ様でした。白狼さん」
白狼さん達は工房から出て行き、奥の談話室へと戻っていく。
俺も見送りをするために談話室へと向かうが……談話室の様子がおかしいぞ?
「おやぁ、白狼君も来てたんだね。『白夜』のメンバーがこれだけ揃うと盛観だね」
「ひょっとしておじさんですか? お久しぶりです。元気でしたか?」
「うーん、元気だったかどうかは微妙なところだね。なにせ、この世界に戻ってこれたのも1週間前だからね」
「そうでしたか……それで、やはり『ライブラリ』に戻るのですか?」
「そうだね。もう加入はさせてもらったけどね。まだまだスキルレベルは足りてないさ。しばらく私は修練に励ませてもらう事になるから売り物は作れないけどね」
「おじさんなら、1ヶ月もあれば中級の壁を突破して★11くらいなら作れそうですが。ともかく『ライブラリ』にも細工士が復活とは、めでたいですね」
「そう言ってもらえると嬉しいね。まあ、今の私は時間だけはある身でね。気ままに修練させてもらうよ」
「ええ、高品質品が作れるようになったら是非」
「今なら錬金術でもアクセサリーができると聞いてるけどね。そっちじゃ満足できないのかい?」
「そう言う訳ではないのですが……」
「錬金アクセサリーは融通が利かないんだよ。何かに特化しないと半端なものになりがちだ」
「おや、そうなのかい?何事も上手くは行かないものだね」
「ともかく、復帰おめでとうございます。それでは僕達はこれで失礼します」
「ああ、引き留めてしまったようで済まないね。それじゃあ、気をつけてね」
白狼さん達『白夜』の面々は引き上げていった。
残されたのは『ライブラリ』のメンバーのみ。
「そういえば、おっさん。いつ来たんだ?」
「10分ほど前かね? 来てみたら談話室に人が沢山いてびっくりしたよ」
「ああ、そう言えばおっさんの自室を決めてないからログイン先が談話室になってしまうのか」
「共有スペース扱いがこの部屋だけだからね。そう言う意味では昼間のうちにおじさんの部屋を割り当てておくべきだったかも」
「おや、自室をもらえるのかい? βの時はそこまで広い建物じゃなかったから嬉しいね」
「今はこの規模のクランとしては最大規模のクランホームだよー。スタートダッシュ頑張って、いい物件を押さえたからねー」
「確かに、第2の街にある物件としては最高に近い立地だよね。いくらしたんだい?」
「土地建物含めて400万で済んだわ。まだゲームが始まって2週間経たないうちに押さえてしまったからね。いい買い物ができたわ」
「……生産廃人集団が本気を出すと恐いね。まあ、そういうことならおじさんもおこぼれに預かろうかね」
「それじゃあ、先におじさんの自室を決めてしまいましょうか。ユキが来るのはもう少し後でしょうから」
「ユキさんだっけ? 彼女も学生だろうに規則正しい生活をしてるよね」
「その辺はトワの方が詳しいわよ。リアル彼女らしいし?」
「おや、そうだったのかい。恋人は大事にしてあげなよ? おじさんからの忠告だ」
「ちゃんと大事にしてるから安心しろよ。案内は柚月に任せて構わないのか?」
「ええ、問題ないわ。それじゃおじさん、行きましょうか」
「じゃあちょっと行ってくるよ。まあ、部屋決めだからすぐに戻ってくるだろうけどね」
「いってらっしゃーい」
柚月に案内されて廊下へと向かうおっさん。
しかしあれだな、こうして戻ってくると懐かしいものだな。
「しかし、あれじゃのう。おっさんが戻ってきてくれるとはのう」
「ボク達としてはありがたいけどねー。これで不在だった【細工】の担当が埋まったよー」
「まあ、そうだけどな。今まで何があったんだろうな」
おっさんが何をしていたのか、あれやこれやと推論を話あっているうちにおっさん達が戻ってきた。
ユキを連れて。
「ユキ、一緒だったのか」
「私達が戻るときにちょうど一緒になったのよ」
「そういうことだね。偶然って言うのはあるものだね」
「こんばんは、トワくん、ドワンさん、イリスちゃん」
「こんばんはじゃぞ。これで全員揃ったのう」
「こんばんはー。それじゃあ話を聞こうー?」
「そうだね。話をしようかな」
「あ、それじゃあ、先にお茶を用意しますね」
「ええ、お願い。それじゃあ、私達は待つとしましょうか」
「……こう言ってはなんだけど、手伝わなくてもいいのかね?」
「……ユキの手際がよすぎて一緒に行っても邪魔にしかならないのよ……」
「柚月さんはあれだよね。女子力と言われてるものが足りてないよね?」
「……ユキが来てから実感してるから言わないで……」
やがてユキがお茶を配り終わり、俺の隣りに座る。
全員が席に着いたのを見計らい、おっさんは話を始めた。
「まあ、最初にβの終盤からログイン出来なくなった理由を言ってしまうとね、事故に遭ったんだよね、おじさん」
「……なかなか重いことを軽く言うのう……」
「まあこうして生きていて、ゲームが出来るようになるまで回復したからもうけものだね。おじさん、さすがに死んだと思ったからね、車が突っ込んできた瞬間は」
「……それって大丈夫だったの?」
「ちっとも大丈夫じゃなかったね。一週間くらい意識不明が続いたし、入院だって3ヶ月も続いた。今だって週に何回か病院へ行ってリハビリ中だからね」
「それってゲームとかしてて大丈夫なのー?」
「うーん、主治医の許可は下りてるから大丈夫だね。むしろリハビリの一環になるから、フルダイブ系のVRに触れることは推奨されてるね」
「それってすごく重い状況のような……」
「ああ、もう大丈夫だよ。このままリハビリを何ヶ月か続ければ、元の生活に戻れる事は確実だからね。……それに事故の見舞金や示談金もたんまりともらったしね」
「……急に腹黒い事を言い出したな、このおっさん」
「お金は大事だよね。何をするんでも必要になるんだからね。トワ君もそのうちイヤでもわかるようになるさ」
「……それで、このゲームを続けるのは大丈夫という事かのう?」
「そうなるね。ただ、インできる時間はまちまちになるから、一緒に何かできる機会というのは減るけどね」
「その辺は構わないわよ。元々、そこまで縛りがきついクランでもないし」
「そう言ってもらえるとありがたいね。おじさん、これでも受け入れてもらえるか心配だったんだけどね」
「そうは思えないけどな。……ところでおっさん、まだ第2の街までしかこれてないんだろ? 王都までなら連れて行くことができるけどどうする?」
「おや? こんなおじさんを護衛しながら王都まで連れて行ってくれるだけの戦力があるのかい?」
「……ここ数週間、レイドクエストを毎週回ってたからね。全員レベル52以上あるわ」
「……それって生産職のレベルじゃないよね?」
「周回しているうちに上がってしまったものは仕方が無い。それで、どうする?」
「うーん、連れて行ってもらってもしばらくは王都を出られないだろうし、このままで構わないかなぁ。ああ、修行段階が進んで次の街に移動しなければ行けなくなったら、そのときはお願いするよ?」
「とりあえず了解だ。ああ、それから移動用の騎乗ペットは買っておいてくれよ?」
「それならもう持ってるね。クセがないサラブレッドを買わせてもらったよ」
「それなら心配はいらないわね。……そう言えば第2の街まではどうやって来たの?」
「普通に臨時パーティで移動してきたね。夏休みに入ってすぐだから、簡単にパーティは見つけられたよ。こう見えてもおじさん、レベル15までは上げてたからね。すんなりと入れてもらえたよ」
「へぇ、ちなみにメインジョブは何を選んだんだ?」
「ああ、言ってなかったね。ガンナーだよ。トワ君と一緒だね」
「……また、色物を選んだな?」
「自分で自分の職業を色物扱いするのはどうかと思うけどね。ガンナーは職人と相性がいいんだよ? DEXが高ければ攻撃力も上がるし射線もぶれないし」
「そこは否定できないな。装備は今はどうしてるんだ?」
「普通に市場で買った★4のアイアンハンドガンだね。おじさん、盾を持って戦うガンナーだからね」
「……よりにもよってシールドガンナーか。本当に色物じゃないか……」
「結構、戦いやすいんだけどね? 少なくともβの時の剣と盾で戦うよりはずっと楽だよ?」
「……まあ、おっさんがそれでいいというなら構わないさ。……後でもうちょっとマシなハンドガンを作っておくよ。普通のハンドガンでいいのか?」
「マナカノンにマギマグナムだっけ? あれらは使えないね。おじさん、INTは上げてないから。……そうそう、おんぶに抱っこになってしまって申し訳ないけど、王都に行けるならスキルブックを買ってきてもらえるかね? 【耐久力上昇】【器用さ上昇】【敏捷性上昇】【精神力上昇】の4つをお願いするよ。……代金は出世払いになってしまうけど」
「それぐらいならクラン資金から復帰祝いって事で出しても構わないわよ。あと、工房もこの後用意するからすぐに使えるようになるわ」
「本当に色々済まないね。おじさん、頑張って稼ぐことにするからね」
「……あんまり張り切りすぎて、今の相場を壊さないでくれよ?」
「そこは任せてほしいね。絶妙なさじ加減というのを見せてあげるよ?」
「……本当に相場は崩さないでね?」
ともかく、こうしてライブラリに新たなメンバー、と言うか復帰組が加わることになった。
このおっさん、悪い人じゃないんだけどつかみ所もないんだよなぁ……
この後、柚月はおっさん用の工房を用意するためホーム屋へ、俺はおっさんに頼まれたスキルブックを買うために王都のスキル屋へと向かうことになった。
おっさん曰く、『魔法は治癒魔法以外覚えていない』らしいので、防具も必要になると思うが……その辺は柚月やドワンに丸投げだな。
あと、おっさん用にATK+80程度のハンドガンを渡したら『さすが『ライブラリ』、間に合わせでもとんでもないものが出てくるね』と言われた。
自分だってあと1ヶ月もすれば、そのとんでもないものを作れる仲間になるというのに解せぬ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
「面白かった」「これからも頑張れ」など思っていただけましたらブクマや評価をお願いします。
作者のモチベーションアップにつながります。
誤字・脱字の指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。
~あとがきのあとがき~
という訳で、オリエントジーン三世こと『おじさん』あるいは『おっさん』が仲間入りです。
初期案では語尾が『だねぇ』とか『かなぁ』とか無駄に毎回伸びる設定だったのですが、文字に起こすと想像以上にウザかったので修正しました()
あと、正式名称は作者も覚えきっていないので覚えなくても構いません。
どうせ、正式名称で呼ばれる機会はほぼないので。
ライブラリメンバーらしく濃いキャラですが、どうかよろしくお願いします。
あと、本人が申告した通り行動時間帯が他のメンバーとはずれがちです。
なので出番が多かったり少なかったりすると思いますがご了承ください。





